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スティグマの社会学4

Preliminary Conceptions
Society establishes the means of categorizing persons and the complement of attributes felt to be ordinary and natural for members of each of these categories. Social settings establish the categories of persons likely to be encountered there. The routines of social intercourse in established settings allow us to deal with anticipated others without special attention or thought. When a stranger comes into our presence, then, first appearances are likely to enable us to anticipate his category and attributes, his `social identity' – to use a term that is better than `social status' because personal attributes such as `honesty' are involved, as well as structural ones, like `occupation'.

前提考察
 この社会において、どんな人間も何らかのカテゴリーに分類される。さらに、そのカテゴリーごとに普通や自然とされる振る舞いも定められている。そして、社会的な場面によってどんなカテゴリーの人間と出会うかもほとんど決まってしまうのである。
 決まり切った場面では、決まり切った関わり方が身についている。だから、そういう場面で未知の他者と出会ったとき、注意して考えなくても応対することができる。
 見知らぬ人が目の前に現れたとき、私たちは第一印象でその人のカテゴリーや属性を予測する。このようなカテゴリーや属性を「社会的アイデンティティ」と呼ぼう。社会的「地位」ではなく「アイデンティティ」という言葉を選んだ理由は、「職業」といった社会構造上のものだけでなく「誠実さ」といった個人の性質も含む概念を扱うためである。

We lean on these anticipations that we have, transforming them into normative expectations, into righteously presented demands.
Typically, we do not become aware that we have made these demands or aware of what they are until an active question arises as to whether or not they will be fulfilled. It is then that we are likely to realize that all along we had been making certain assumptions as to what the individual before us ought to be. Thus, the demands we make might better be called demands made `in effect', and the character we impute to the individual might better be seen as an im- putation made in potential retrospect – a characterization `in effect', a virtual social identity. The category and attributes he could in fact be proved to possess will be called his actual social identity.

 他者のカテゴリーや属性を予測することは、単なる予測にとどまらない。私たちの予測は、それ通りに振る舞うのが普通だろうという期待、そう振る舞うべきだという要求へと形を変える。
 また、普段の私たちは、他者に対して無意識にそうした要求をしており、その要求がどんなものかも気づいていない。その要求が満たされるかどうか怪しくなったとき初めて、自らの要求に気づく。目の前の他者に、自分の当たり前を押し付けていたことにようやく気づくのだ。
 したがって、この要求は「常に発動」していると言っても過言でない。そして、他者に対して行う予測(私たちが無意識に「常に発動」している要求)による特徴を「仮の社会的アイデンティティ」と呼ぼう。一方で、予測された本人が実際に持っていることを示せる特徴は「真の社会的アイデンティティ」としよう。

【解説・補足】
高級レストランと近所のコンビニとでは、自分自身の振る舞い、そして店員に期待している振る舞いも異なるだろう。出会った人の見た目、出会った状況などから、そのカテゴリー(男、子ども、教師etc)や属性(優しい、怖い、賢いetc)を判断し、どんな振る舞いをするか当たりをつけている。ここでは、そうしたカテゴリーや属性を総称して「社会的アイデンティティ」と呼んでいる。
ところで、その予測は他者に対する要求とも言える。そうした予測は普段は意識に上がってこず、その予測が大きく外れたときに初めて気づく。私たちが当初予測している特徴のことを「仮の社会的アイデンティティ」と呼び、当の本人が実際に持っている特徴を「真の社会的アイデンティティ」と呼んでいる。私たちがコンビニの店員を見て「暇な大学生」という仮の社会的アイデンティティを想定していても、真の社会的アイデンティティは「超売れっ子YouTuber」かもしれないというわけだ。
これからの分析において、非常に重要な概念が出てきたので改めて確認を行った。

心理学や日常会話で出てくるアイデンティティには、「自分の軸」や「かけがえのないもの」のようなイメージがある。しかし、ゴフマンの使うアイデンティティは、特性や特徴といったイメージで捉えた方がいいだろう。そうした特徴は、周囲からの指摘や比較から分かる。その意味で「社会的」であり、社会的アイデンティティとは、人間の持つ特性全般を指すと考えてよい。その上で他者から予想された特性を「仮の社会的アイデンティティ」、自分自身で認識している特性を「真の社会的アイデンティティ」と考えると分かりやすい。

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