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データドリブンマーケティングの副作用


 データをもとに判断をする、最適化をしていくことは、効率を追求する上で非常に有用な方法であると私は認識している。
 だが、データドリブンな手法には結構副作用も多いようにも感じている。それはマーケティングにしかり、経営にしかり。
 長年データドリブンの経営、マーケティングをリードするべきポジションにいて経験を積んでいたものとして、そのあたりをメモとして残しておこうと思う。

見えないデータの存在を忘れる

 データドリブンな経営、マーケティングを支えるのは、詳細なデータになる。マーケティングデータやら経営にまつわる様なデータを各所から持ってきて、まとめて使えるように整形し、集約し、分析することで、自分の現在地を知ったり、新たな知見をもとに打ち手を打つ。ということをやる。
 もともとデータというのは仮定ありきで、その仮定が正しいかを検証するためにデータを取るというのが本来の順序で、そのために何のデータをどうやって取るべきかというのが考慮のしどころだった。
 今はビッグデータの流れの中でいろいろな場面で使えそうなデータを取得して、それを組み合わせたりして分析を行うことも多い。だが、やっぱり想定してもいないデータは基本は取ってないものだろう。
 例えばお菓子メーカーのマーケティングをする上での顧客データを考えた際、年齢や性別といった基本的な情報や、趣味嗜好などの情報は割とデフォルトでとっているかもしれないが、海外渡航経験や、使用言語などの情報は基本は取ってないだろう。もしかしたら何らかの相関があって、有用な知見が得られるかもしれない。
 でも、データばかりを見て判断していると、そんな発想は出てこず、データの中で得られているものがすべてだと思い込みがちになる。つまりデータの無いものは世の中からないものとして判断してしまいがちになる。
 ましてやデータは嘘をつかない、と、優秀な人ほどきちんと論理的思考で考えるので、データの裏付けさえあればそれが正解だと考えがちになる。
 これが第1の罠だ。思考が狭くなっていることに気が付きにくい。

コスト効率化を求めたくなり、データに現れにくい効果やデメリットを過小評価する

 結果をデータで分析することをしていると、多くの場合はコスト効率も一緒に判断するようになる。
 マーケティング予算だって有限だ、そりゃ顧客獲得は安い金額で出来た方がより良いと判断されがちだ。
 そうすると、広く薄くアピールするような広告は切られがちだ。ターゲティングがしっかりしている広告は100のコストで100人を連れてこれる。ふわっとした広告は1000のコストで1人しか顧客にならないというようなことはよくあることになる。
 だが、そういった広告が実はブランディングに地味に聞いていたりするケースは結構ある。ここで、先ほどの見えないデータの話が絡む。通常の商品広告で、企業ブランディングの効果を測ることはあまりしない。それはもともとの目的が違うからで、あくまで商品の広告なので商品の売上につながる指標に紐づく効果測定を行う。それは正しい。
 その結果に基づいて判断して、ふんわりした広告を取りやめると、それは一緒に企業ブランディングに効果のあった施策を取りやめることにつながる。それ自体は良いが、良くないのはその認識なく判断がなされてしまうことにある。
 同様のことは経営でも起こる。IRRを指標にして事業判断をしていると、一見非効率的事業に見えても、実は事業と事業をつなぐ役割をはたしていたり、その事業があることで、伸びている別の事業があったりすることがある。その相関がきちんと視野に入っていて判断するならば良いが、多くの場合は、それが盲点に入ってしまう。データドリブンの意識が強くなると、データの無いものに対する認識は盲点に入りがちだ。

多様性を失いがち

 先にも述べたがデータは本来仮定ありきで、思いもよらないデータはなかなか取らない。そして新しくデータを取り始めるというのは結構な労力がかかる。
 膨大なWebアクセスログがあったとして、アクセスログをそのまま分析する人は多くない。UUやら顧客の遷移ルートやら、滞在時間といった意味あるデータに加工されて分析に使われるケースがほとんどだ。
 実は2窓を開いているとか、複数窓から同時アクセスしているとか、そういった事実があるかもしれないが、その視点を持っていなければ、分析データには表れてこない。何かしらそういう仮定があって、分析用にアクセスログを加工して初めて得られるデータになる。
 通常、ただでさえ忙しい業務の中で、何の仮定もなく新しく取得する、加工するデータの種類を増やそうという方向はなかなかならない。
 結果、従来のデータの中で従来の分析を行って判断を行うことを繰り返す。効率化への欲求も相まって、だんだん判断は特定方向に進んでいくことになる。
 結果的には、多様性のない無難な判断に基づく無難なマーケティングが出来上がり、無難な商品が開発される。

 結果として、データドリブンな手法は、データとして見えていないものをどれだけ意識して判断できるか、が成功のカギを握っているように思う。


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