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免許の更新ができない

免許の更新に手こずっている。
こういうのがほんとうに苦手だ。

とある木曜日、夫に「いい加減に更新に行きなさい」と注意された。
分かってる。分かってるの。でも、まだあと何日かあるのに、なんでそんなにこわい顔で言うのか。私だって分かっている。成人なんだし。お母さんだし。

んもう、と思ってカレンダーを開いたら、思いのほかもう日がなくて驚いた。
あれ…これはいったい。時空が歪んでいるのか。
その週は週末が三連休で、免許センターは土曜日が休みで、日曜と月曜日は祝日扱いだから免許センターが休みで、つまり期限まで、あと金曜と週が明けた火曜日と、水曜日の3日しかなかったのだ。
水曜日は生憎予定があって、もう、金曜か火曜日しか後がなかった。
まずい。
と思ったのは一瞬で、あと2日もあるね、と思えるのが私のとてもよいところで、少しだめなところだ。

絶っっ対に金曜日に行きなよ、と夫に念を押されて、ハイ、とよいお返事をして、金曜日を迎えた。
子どもたちを送り届けて、どおれと案内のハガキを見たら、住所変更または本籍地の変更がある場合は住民票を、と書いてある。
結婚した京都に本籍を置いていた私たちは、なにかと不便が手伝って、少し前に本籍を現住所に同じくしたのだった。
なんてこと。市役所を経由したら免許センターの受付の10時には間に合わない。
とりあえず住民票をもらわないと話が始まらないから、一旦市役所へ向かう。
住民票をください、の書類の書き方が難しくて困っていると、やさしい職員さんがここにこう書いてね、と隣に立って教えてくれて、そのホスピタリティにきゅんとした。
いざ、住民票をもらう手続きをして、「258番のかた」と呼んでいただいて、カウンターに出向いたら「200円です」と言われて目が点になった。
お財布の中に111円しかなかった。

「住民票をもらってきてください」っていう表現やめたほうがいいよね。
「住民票を買ってきてください」に変えたほうがいいよね。齟齬が生まれるよね。
「私の住民票なのに、そこにあるのに、もらえないの」と、なぜか小さく不幸な気持ちになって、私がはっきりと悪いのだけれど、あとでまた来ます、とお金をおろしに行った。
そんな遠回りをしていたら当然免許センターには間に合わないし、仕方がない。案内のハガキを眺めていたら、所轄の警察署でも更新ができますよ、と書いてある。
これだ。これしかない。
だけれど住民票を買って、警察署に行ったらどういうわけかあれこれやさしく説得されて、「まだ期日があるから、火曜日にもう一度免許センターに行ってみようか」とお姉さんに諭された。
なぜ。
やさしく言われると、なんだかそれだけで満足してしまうところってあるもので、うんわかった、と火曜日に出直すことでその日は決着した。
3人のだれかしらが体調崩したらどうするんだろう、と思ったりもしたけど。

*

火曜日になって、子どもたちを送り届けたあと、免許センターに直行した。
夫から、「住民票を忘れないように!免許の更新忘れないように!」とLINEが入っていた。
LINEが来るまで住民票のことを忘れていたのでファインプレーだった。いいぞ夫。

3分前に滑り込んで、受付に立ってはっとした。
お金がない。
財布の中を見たら69円しかなかった。免許の更新ができない。
「3300円です」と受付のお姉さんが言うのだけれど、立ちすくむしかできなかった。
「あの…お金がなくて…」とどうにか口を開いたらお姉さんはとても訝って、隣のおばさんにご相談なさっていて、なんていうか、とても気まずかった。
「10番窓口で相談してください」と、おばさんに促されて、10番の「外国籍なんちゃら」と書かれた一か所だけめちゃくちゃ空いている窓口に案内された。
明日は来られない旨、どうしても今日更新したい旨、を切々と訴えると、またしても「所轄の警察」へ案内された。
ぜんぶ私が悪いのだけど、このあたりでゴールが完全に見えなくなっていた。

免許の更新めっちゃむずいな、と思い始めていた。

*

金曜日にも訪れた、所轄の警察だと思って行ったそこは、所轄ではなかった。
お金をおろして急いで向かったけれど、「ここではだめなんですよ」、とまたやさしく言っていただいて、別の警察署を案内された。
やっぱり免許の更新めっちゃむずい。

実は免許センターで、「A署に行ってどうとかこうとか」と説明を受けていたのに、私が実際に行ったのは南A署だったのだ。そのことには向かう車中でうっすら気付いてはいたのだけれど、私はアクセスがしやすくて駐車もしやすい南A署を贔屓にしており、自分の中で都合よく、A署を、南A署に書き換えていたのだ。A署も、南A署もつまりはA署だと思いたかった。
そういうことをするからいけないんだよな、とほんのり反省はしたのだけれど、でも実際、シロナガスクジラもマッコウクジラもおなじクジラなのだし、そういうことってあるじゃない。

車をA署に向かって走らせて、やっぱりA署は道が分かりづらいなあ、苦手だなあ、と思った。少し遠回りして、どうにかA署にたどり着いて、お行儀よく駐車もできたのだけれど、なんだかどっと疲れてしまった。
まだ免許の更新の「こ」の字も始っていないのに。

車から降りるのが心底いやになって、誰も悪くないし、なんなら私ひとりの不手際なのに、すごく落ち込んだ気分になって、いじけていた。
免許の更新をしないととんでもない不利益になるのは分かっているのに、スマホを眺めてつまらない時間稼ぎをしてしまう。無駄でしかない時間。
子連れ離婚を画策しているという女性の手記をひととおり眺めて、彼女の過去から現在までをきっちり遡ったらいよいよやることがなくなって車を降りた。

A署で受付を済ませて、少し小難しい書類を三枚ほど書いて、写真をパシャっと撮ったら免許証の裏にペタンと判子が押されて、免許更新の期限が1か月伸びた。ここまでの時間を思うと一瞬みたいな出来事だった。
この日からこの日のあいだに取りに来てくださいね、それまでに講習を受けてきてくださいね、と説明を受けて、帰宅した。


夜、夫に、「免許の更新行けた?」と訊かれて、このような事情を説明したら、「そうか…お金のことまで気が回らなかった…言えばよかった。ごめん」となぜか謝られた。
私は免許がほぼ決着して、安堵していたのに、夫は少し落ち込んでいた。
そして、講習に行くべき日を今すぐ決めるべきだとせかせかしていた。
まぁ、でも30日くらいあるんだし、直近は予定がつまっているし、落ち着いて、となだめて、いや!でも、としつこかったので、とりあえずなだめておいた。

*

さて、このnoteを書きかけて放置しているうちにあっという間に時間が過ぎて、あっという間に11月も下旬を迎えてしまった。
11月は園や学校の行事がべらぼうに多くて、午前中のスケジュールの調整がとっても難しい。難しいと億劫になるのもので、億劫になると逃げだしたくなったりもして、逃げ出したくなるとついつい忘れてしまったりもしがちで、つまり、なんかそもそも免許の更新向いてないのではと思い始めている。
みんなこれをしれっとやってるとかほんとえらい。

TOKIOの山口メンバーがかつて免許の更新をしないで無免許だったっていうのを80回くらい思い出した1か月だった。

また読みにきてくれたらそれでもう。