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レトロでトロピカルなやしろ湯

大阪でいちばん好きな一般銭湯の五色については以前に書きましたが、ではお隣の京都(あくまで京都市内のみですが)でいちばん好きな銭湯はというと、右京区にある、やしろ湯というところです。

京都の市街地である西院から、渡月橋のある嵐山へと伸びる、路面電車の京福電鉄、嵐山へ向かう電車なので、通称らんでん(嵐電)と呼ばれる路線の天神川駅から徒歩3分。地下鉄の太秦天神川駅からでも同じくらいの時間で行ける至近距離。

ですが、逆方向にいくらか歩けば天神川のほとりの道に出られるので、少し散歩をしてから湯浴みをするのが乙でしょう。

少し距離はありますが、時間があれば広隆寺や東映太秦映画村、エヴァンゲリオン京都基地などを見てみるのも良いかも。

駅前とはいえ、そんなにロータリーは広くありませんが、実は右京区役所の裏手に大きめのベンチがいくつも用意されています。

基本的に周りは閑静な住宅地なので、ここで待ち合わせる人はあんまりいないのか、けっこう空いていて穴場だったりする。例のアレが蔓延する前は、ここで本を読んだりしていました。

観光地からは離れているので人混みにうんざりすることもなく、たまに通る嵐電のガタゴト音をバックにした読書はなかなかに良い。

そして読書にだんだん飽きてきたら、道路と線路が交差している上に、隆起したカーブを描いているせいで、三半規管がバグってそうなアスファルトを踏み踏み、セブンイレブンのある小さな路地へと入っていく。

すると右手に、階段が左右に設けられた2階建ての洋風の建物が見えるのですが、それこそが、やしろ湯です。

懐かしの番台式ではなく、ふつうにカウンターでお金を払いますし、いわゆる京都っぽい和な雰囲気とは一線を画していますが、脱衣場のマッサージベッド?的なものはいったいいつの時代のものかわからないし、浴室へと向かう階段沿いにあるカミソリ自販機のくたびれ具合など、レトロを感じさせてくれる部分もあります。

マッサージベッド?的なものは使っている人を見たことがなく、カミソリ自販機は今でも100円を入れたら出てくるのかどうか実験してみたくなるも、もしそれで100円が返ってこなかったら嫌だしなあと尻込みしています。

まあそれはともかくとして、ここ、京都では珍しく、カランが縦に並んでいるので、ひとりぶんの洗い場スペースが広い。

いやいや、横にみんな並んで地域のコミュニケーションを取りながらの入浴が地元の銭湯の醍醐味でしょうよという意見もあると思いますが、成人してから銭湯を覚えた準ゆとり世代としては、やはり公衆浴場でもある程度のプライベートを守りたいのです。

浴槽は温浴用と冷浴用に完全にエリアが分かれており、サウナのある冷浴用のほうには水風呂が2つあるのですが、2つともちょっと変わっています。

クソデカい円形のぬるめの水風呂……というかほとんどプールと、1人しか入れない直方体の桶みたいな冷たい水風呂。

サウナから出た後はまず桶みたいな冷たいほうの水風呂に30秒間だけ浸かり(というかめちゃくちゃ冷たいので頑張っても1分くらいが限界)、ゆっくりとプールのほうの水風呂に移動して身体を沈める。

奥の方には打たせ水もあるので、そこへとそろりそろりと抜き足差し足……。これがまた心地良い。

もうこの頃には、皮膚は研ぎ澄まされ、精神はこの世ならざる深淵へと入り込み、要するに整いまくっているのですが、さらにここには寝転び用のデッキチェアが何基も用意されているのがありがたい。

周囲には観葉植物が飾られ、南国のビーチのような趣に。ここはどこなんだ。

浴室内には通常のゴミ箱とは別に、ペットボトル専用のゴミ箱もあり、ジュースを飲むために設けられたかのような机と椅子まであります。

もしかして、かつては自動販売機もあったとか?あと、サウナの隣の部屋は扉が頑丈に施錠されていて入れないのですが、いったいなんの部屋なのだろう。サウナ室内に敷かれた赤いカーペットが照明に反射して、横の冷水浴エリアまで景色がちょっと赤みがかっている。こんな銭湯を他に見たことがない。

なんともいえない妖しさに取り憑かれたまま、服を着て脱衣場の隣の休憩コーナーのようなところへと歩く。

そこにはテレビが置かれ、数人掛けのソファーが鎮座している。これまた現代の一般家庭のリビングルームみたいで、和の雰囲気ではないのですが、歴史的名所の多い京都市内にこんな場所があることに逆に落ち着く。

実際には小1時間ほどしか経っていませんが、レトロでトロピカルで一般家庭という不思議な世界観にクラクラさせられっぱなしで、狐につままれたような気分になる。

外に出ればそこはやはり京都で、夜遅くまで働く嵐電の音だけが響く。夜になると車も少ない。

近くにはパチンコ店もあるのですが、景観に合わせてなのか、派手なネオン看板などはなく、最低限の装飾に留めています。

その中で、マイペースで灯りをともすやしろ湯には、末永く続いてほしいと願いながら、西院駅の地下の強風に吹かれるのでした。

空調なのかなんなのかわかりませんが、西院駅の地下にはなぜかめちゃくちゃ風が強いゾーンがあるのです。ちなみに阪急の西院駅はさいいん、嵐電の西院駅はさいと読みます。京都市トリビアでした。

観光地からは距離があるが、やしろ湯はいいぞ。嵐電は1日乗り放題の切符もあるので、それを買って色々と巡って時間が余ったら、駅から近いし、日曜日は朝から開いているので、ついでに行ってみて。

サウナはたのしい。