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FAKE STARが幻だと知った日

青春パンクブーム真っ只中、昔のヴィジュアル系のCDばかり漁っていたぼっちざゔぃじゅあるろっくな高校生活を過ごしていた自分ですが、大学に上がると晴れてぼっちではなくなりました。

バイト先の先輩にLUNA SEAの昔話を教えてもらったり、同じゼミの子にヴィジュアル系のルーツであるメタルやインダストリアルロックを教えてもらったりして、いくらかの理解者ができたのです。

同時期にDIR EN GREYが海外進出したり、ガゼットやシドなどネオヴィジュアル系バンドと呼ばれる新世代がヒットチャートに食い込んできたり、雅-MIYAVI-さんが世に出始めた頃でもあったので、以前に比べればV系が好きであることを公言しやすい環境でした。

たとえ本人がV系とはほど遠いチー牛メガネ野郎であったとしても、白い肌に狂う愛と哀しみの輪舞にfollow the night lightしても良くなったのです。

ですが、本当は心酔していることを、どうしても誰にも言えなかったバンド、というかユニットがいました。

黒夢です。

ボーカルの清春さんの卓越したファッションセンスと見るからに危険そうな佇まい、ベースの人時さんのテクニカルなプレイで、1990年の中盤から後半にかけて一世を風靡。

初期は顔に血糊に塗ったりステージで首を吊るパフォーマンスをするような濃ゆいお化粧系(V系という呼称が一般的になったのはその後の時代)でしたが、メジャーデビューしてからしばらく経つとナチュラルメイクになり、後期は尖ったパンクロック路線へと意向。

正確にいえばパンクロックともちょっと違うような気はするのですが、初期の耽美さとは掛け離れた上半身が裸の清春さんのルックス、大人しそうな外見なのに意外と野太い人時さんのシャウト、業界の体制に対する批判や皮肉を叫び、極めつけはそんな自分たちのことを「ニセモノ」「FAKE STAR」と歌うなど、反骨精神に満ちていました。

そんな尖った姿勢が当時の男子にもウケて、V系の出自としては珍しく、後期は男性ファン率が非常に高かったとのこと。ライブアルバ厶『1997.10.31 新宿LOFT』では、「きよはるー!」と叫び散らす野郎の歓声がガンガン聴こえてきます。

ただ、世代的にいえば、自分より少し上であり、リアルタイムでは車のCMで流れていた『少年』を知っていた程度で、ちょっと年上のヤンキーっぽい人たちにファンが多いという印象でした。

清春さんの一般的なイメージも、金髪でシルバーアクセをジャラジャラに付けて、どの写真も悪そうにタバコを吸っているものばかりで、自分のようなメガネ野郎が憧れてはいけないという認識がありました。

実際に清春さんも、サ○○○○○ーのボーカルの人やア○○ンのボーカルの人をメガネロックくんとか言ってバカにしていましたし……。

とはいえど脳内には、清春さんに憧れていて、天使の羽を広げ、そびえる夢を飛び越えたい自分がいる。高校生の頃から、20歳を超えてもずっといる。

これは一体どう消化したものかという悶々とした感情を抱えたまま数年が経過し、気がつけばいつの日か、天使の羽ではなくスーツとネクタイを纏った新入ダメ社員の自分は、JR京都駅前のビックカメラの横の喫煙所で気怠くタバコの煙を吐き出していました。

冴えないサラリーマンライフを送っていたその日、ケータイを弄っていたところ、芸能ニュースに気になる文字が舞い込みました。

「黒夢、日本武道館で一夜限りの復活、これにて正式解散」

よし、さっそくチケットを買おう、となったかというと、実はどういうわけか、そうとはならず、この解散ライブは見送りました。

なぜそうしたのかは今となってはよくわからないのですが、なぜか行く気にならなかった。

で、話がいきなり飛んでしまうのですが、自分が初めて黒夢のライブに行ったのは、2011年の2月です。

どういうことかというと、解散ライブを行った翌年に再結成を発表し、新曲もつくって全国ツアーを行うという運びになったからです。

解散宣言から、たった1年での再結成。はっきりいって破天荒すぎますが、自分でも理由が解明できないまま解散ライブをスルーしてしまった自分にとっては、青天の霹靂といえた。

今回は迷わずにチケットを入手し、東京の街へと飛び込み、渋谷と原宿の人々のファッションの多様性にクラクラしながら、意外とそんなに遠くない代々木第一体育館へ。

大ヒット曲『BEAMS』から始まったライブは、新旧を織り交ぜた全34曲という大盤振る舞いでした。

特に本編の後半は、後期のパンクな曲が中心で、先述の『〜新宿LOFT』のような野郎の野太い声が響く会場を自分が体験できていることに感動し、か細い声で叫びまくりました。

再結成の前後、清春さんはインタビューで、「もうあの頃みたいな尖った気持ちはない」と断言されており、激しいパフォーマンスは演技であることを赤裸々にバラしてしまっていましたが、たとえ演技でもそれが嬉しかったのです。

途中、清春さんがマイクスタンドをドーンと倒した場面があったのですが、その直後、一瞬だけではあるものの、ステージ袖のおそらく会場の偉い人に、ペコッと頭を下げているのが見えてしまいました。

たぶんそれを高校生くらいの自分が見ていたら、うわっダセェと萎えていたでしょう。でも、なぜかそういうことは感じず、むしろ逆にスカッとした。

きっと不良でやべー人なのだと憧れていた清春さんにも、そういう大人の側面があるのだと、自分でも妙なくらいに物わかりよく、すんなりと受け入れられたのです。

それと同時に、高校生の頃から脳内にずっといた清春さんの幻は消えた。危ねえクスリをやっていそうな上半身裸の金髪のFAKE STARは実在の人物ではなかったんだ。

ただ、なんとなく何か形に残るものを取っておきたくて、物販で帽子を買い、その場で被ってみました。

一般的なイベント会場よりも人が多い喫煙所で、やっぱり黒夢ファンの喫煙者率は高いのだな……と感慨に耽りつつ、買ったばかりの固い帽子を目深に被りながら、タバコをふかしてみました。

気怠くもなく、イキっているわけでもなく、ただただ素直に。

……いや、いつもはクールライトだったのが、その時は清春さんと同じマルボロだったので、ちょっとはイキっていたかもしれない。

もっと虚勢を張らずに、もっと自分になるべきだ。それこそがロックだ。清春さんは「今を楽しんでください」と言っていた。

ならば、いま自分がやりたいことをやろうと、さっそく夜の原宿へと繰り出し、きゃりーぱみゅぱみゅさん歩いてねーかなーとキョロキョロしてみましたが、もちろんいませんでした。 

東京に行けば芸能人が見られるというのも、また幻だった。そういうことを知った夜でした。おしまい。

サウナはたのしい。