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電気から見る生理学 〜2. イオンチャネルって何?〜

今回は、生きていく上で必須のタンパク質の一群、“イオンチャネル”について紹介します。

目次
 1. センサーとしての膜タンパク
 2. 膜タンパクは多種多様
 3. 電気発生装置 イオンチャネル

1. センサーとしての膜タンパク

私たち生き物は皆、細胞というもの集まりで出来ています。細胞は、さまざまな生化学的物質を、脂質の膜でできた袋に詰め込んだ塊のことで、骨の細胞や筋肉の細胞、免疫細胞、神経細胞とさまざまな種類があり、それぞれの得意とするたくさんの機能を提供しています。

各臓器ももちろん細胞の集まりでできています。臓器として機能するには、細胞ひとつひとつが、お互いでコミュニケーションを取ったり、自分の周囲で何が起こっているのかを"感じる"ことが必要です。

そのために、細胞が持っているセンサーこそが、細胞表面の膜に突き刺さっている、膜タンパクです。

2. 膜タンパクは多種多様

細胞表面には本当に多種多様な膜タンパク質がセンサーとして機能しています。一番イメージしやすいのが、舌にある味覚センサーでしょう。舌には甘味・苦味・旨味・辛味・塩味などの受容体が別々に存在していて、「○味がする食べ物が来たよ」という外の環境の情報を感じ取るのに役に立っています。もちろん舌以外にも受容体はあって、例えば昨今話題になったオプジーボのターゲットであるPD-1というタンパク質も膜貫通タンパクで、これが働くと、PD-1を持つ免疫細胞の攻撃機能が抑えられます。

膜タンパクは、そのタンパクの機能によって、以下の3つに大きく分類されます。

・ 受容体
・ トランスポーター
・ イオンチャネル

受容体とは、何かの物質が来たことを感じ取るセンサーの役割を果たします。舌にある甘味・苦味・旨味センサーもこの受容体の1つです。今日の医薬品のターゲットによく採用されており、例えば高血圧の薬であるβブロッカーと呼ばれる類の薬は、この受容体の一種(アドレナリンβ受容体)をターゲットにしています。最近はやりの抗がん剤の一群である分子標的薬も、受容体がターゲットです。

トランスポーターとは、いわゆるポンプのような働きをする膜タンパクです。例えば、薬を含め異物が細胞の中に入ってきたことを細胞が感知すると、このトランスポーターを使って外に汲み出そうとします。

そして、最後に紹介するのが、これからの主役、イオンチャネルです。

3. 電気発生装置 イオンチャネル

イオンチャネルは、細胞膜に穴を作る膜タンパクです。もちろん、何でも通す穴がずっと開いていたら、細胞は死んでしまいますので、イオンチャネルは「いつ」「何が」通るのか、厳密に制御されています。例えば、舌にある辛味・塩味センサーはイオンチャネルの一種なのですが、辛いもの・塩が来たら、ナトリウムイオンなどが通るように制御されています。普段から塩辛さやトウガラシの辛さに苦しまなくてよいのは、これらの味センサーとして機能しているイオンチャネルが厳密に制御されているからです。

イオンチャネルはいつ開くのか、そこを何が通るのか、多種多様ですが、共通していることもあります。それは、「何らかの電荷を持つ物質を通して、電流や電圧を発生させる」という特徴です。つまり、細胞の電気的な性質の大部分を司るタンパクこそが、イオンチャネルなのです。

味センサーには、上記の通り、受容体とイオンチャネルとの2種類があります。なぜ2つに分かれているのでしょうか?もちろん、本当の意味は神様しか知りませんが、受容体と比較したイオンチャネルの大きな特徴として、瞬間的に情報を伝達できるという点があります。受容体ならば数秒かかりうる応答も、イオンチャネルならミリ秒(つまり1/1000秒)で応答できます。辛さ(=熱さ)や塩辛さは、本来生き物にとって避けるべきものですので、これらはイオンチャネルで対応しているのかも知れませんね。

では、何らかの電荷を持つ物質とは何なのか?(少し答えが出ていますが)それについてはまた次回に持ち越したいと思います。次回もお楽しみに!

p.s.
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