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電気から見る生理学 〜5. 生き物の電気を測ってきた歴史〜

さて、前回まではひたすら前置きを語っていた本連載ですが、やっと「電気の生理学(電気生理学)」とはどのようにして実験するのか、今回から紹介していこうと思います。具体的なイオンチャネルを紹介しながら、少しずつ進めていく予定です。が、今回は "その" 序章です 笑

1. 生き物から電気を測定した最初の実験

生き物の体に電気が流れているのでは?との知見は、18世紀末ごろからあったようです。当時はカエルの脚に電気を流して収縮を見たりしていました。しかし、生き物に電気を与えるのではなく、生き物に流れている電気を測定するとなると、なかなか難しいのです。皆さん、コンセントからの電気コードに流れている電気を、電気コードの外から感じることはできないと思います。しかし、ひとたびコードの中にある電線に触れれば感電してしまうでしょう。同じことが生き物の電気の測定にも言えて、電気が流れている細胞(神経など)の外から、その電気を計測するのは、なかなか難しいのです。

そんな中、初めて細胞の「中」の電気を測定した実験があります。それこそが、ホジキンとハクスリーが1939年に発表した、イカの巨大神経軸索からの神経興奮の測定です(原著:Nature 144:710–711, 1939)。この功績で、この2人はノーベル賞を受賞しています。ちなみにホジキンは前回の記事にも出てきた「GHK」の「H」です。以下の巨大神経軸索ってどこ?と思った方、下の絵のGiant axonがそれになります。なんと直径1 mmですので、目視可能なのです!だから実験できたのでしょう。

しかし、イカの神経を使っていると、イカが持っているイオンチャネル等しか測定することができません。どうしましょうか。

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(図の出典はこちら

2. 蛙の卵に針を刺す

恐らく最後に説明する方法が広まるまで、世界中で広く使われたであろう電気生理学の手法が、このカエル卵母細胞(oocyte)を使った電気生理学的測定です。ゴナトロピンなど性腺刺激ホルモンをアフリカツメガエル(下図)に注射し、産卵を誘発して、その卵を使って実験します。報告されたはじめたのは1980年代かと思います(この論文とか)。

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カエルの卵の何が良いのか?といえば、外から遺伝子を導入できる、という点です。カエル卵母細胞にRNAを注射してやれば、そのRNAにコードされたイオンチャネルやトランスポーターをカエルの卵の表面に発現させることができます。その後、その卵に測定の針を2本差して、2つの電極間に流れる電気を測定することで、イオンチャネルやトランスポーターの活性を測ることができます。上に紹介した論文では、ネコの(ニコチン性)アセチルコリン受容体をカエルの卵に発現させて、その電気的な活動を測定することに成功しています。

しかし、この時の実験も、イカの実験も、測定の針を差し込む方法で、細胞などもっと小さなものを扱うには不向きだったのです。そんな細胞から電気を測定するために開発されたのが、次の「パッチクランプ法」になります。 

さて、ついにパッチクランプを・・・と思ったのですが、書いてしまうとすごく長くなりそうなので、今回はここまでにします!ごめんなさい!笑
というわけで、読んでいただいてありがとうございました!

p.s.
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研究者のための補足:
カエル卵母細胞の実験は、今でこそあまり見ませんが、それでも絶滅したわけではありません。1. カエルの卵母細胞にはGPCRのGaのひとつ、Giがない、2. RNAを注射して発現させるため、プラスミド等DNAベースとは異なりタンパク発現量を調整しやすい、3. とにかく電流が大きい(パッチクランプの1000倍程度大きい)、といった理由が挙げられるのではないかと思います。対象とするイオンチャネル等によっては、卵母細胞の方が良いこともありそうです。私はやったことがないので、具体例が出ませんが。。。

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