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【読書感想文&エッセイ】シェイクスピアはnoteの守護神(1693字)

シェイクスピアの『ソネット集』は一番好きな本で、昔から繰り返し読んでいます。『ソネット集』に収められた詩の特長は14行で韻を踏んでいることです。そのために原文を読むと非常に整って、言葉の響きが美しいことに気付きます。

Shall I compare thee to a summer’s day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer’s lease hath all too short a date;

「君を夏の日に譬えようか」と言う一節から始まる有名な「ソネット18番」の冒頭の部分です。dayとMay、temerateとdateで韻を踏んでいます。

14行で韻を踏んで書くのは制約が大きいと思うのですが、シェイクスピアの場合はそれを自家籠中のものにして、人間の心理の深いところまで表現することに成功しています。読むたびにこの点に圧倒されます。

上記の「ソネット18番」のように抒情的で美しい詩も多いのですが、男女関係や同性愛の嫉妬の苦しみも精緻に描写。人間のどろどろした面も怯まずに描くところは、四大悲劇の作者らしいです。 

When my love swears that she is made of truth,
I do believe her, though I know she lies,

「ソネット138番」の冒頭の部分です。「私の恋人は、絶対に嘘はつかないと誓うので、私は彼女を信じるが、でも嘘をついていると分かっている」と苦しい恋心が書かれています。詩的な美しさだけではなく、このような人間の醜い部分も正面から描いているところが素晴らしいです。

人間は生きている限り苦しみから自由になれません。恋愛の苦しみはその良い例です。小奇麗なことばかりではなく、人間の醜さも書いているのが、私にとっては大きな魅力です。ただし、上記に書いたように14行で韻を踏んで書かれているので、言葉の表現としては本当に美しいです。

『ソネット集』の大きな主題は時間と死です。人間は死から逃れられません。どんなに美しいものも、時間の経過とともに衰えていきます。その宇宙的な力に、シェイクスピアは自分のペンの力で立ち向かいます。この姿勢が、読むたびに私を感動させます。「ソネット60」の最後の部分は、次のようになっています。

And yet to times in hope my verse shall stand,
Praising thy worth, despite his cruel hand.

「でも私の詩は時の試練に耐え、時の残酷な手をもろともせずに、君の美しさを讃える」と時間の流れを越える言葉の力が表現されます。

シェイクスピアのことはよく分かっていません。でも、友人でライバルだった劇作家のベン・ジョンソンの劇に出演した記録が残っているそうです。,

舞台に立ち、自分のセリフで観客たちが心を動かされるのを見て、シェイクスピアは言葉の持つ力を実感したのではないかと思います。人間の生は儚いものですが、言葉がある限り空しく消え去っていくことはありません。

『ソネット集』を読んで、シェイクスピアはnoteの守護神ではないか、ふと思いました。noteで創作を続けている方だったら、多かれ少なかれ言葉の力や芸術の力を信じているでしょう。シェイクスピアのような詩や戯曲を書くのは簡単ではありません。でも、心を込めて創作したものが、誰かの心を動かすことはあります。noteで出会った詩や音楽、絵などを辛く悲しい時に思い出して、心の支えにすることもあるかもしれません。

あらゆる創作活動は、時間を超えて時間の流れの中に消えない贈り物を残します。シェイクスピアの『ソネット集』を読むたびに、そのことを考えます。創作することで、人間は死を乗り越えられるのです。

この一年たくさんのスキやコメントを、本当に有難うございました。皆さん、どうか良いお年をお迎えください。

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