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プラプラ堂店主のひとりごと②

〜古い道具たちと、ときどきプラスチェックのはなし〜

蕎麦猪口のはなし

 ガラス瓶の話を聞いてから、ぼくはペットボトルを買うのを減らすことにした。とはいっても、ストイックなタチじゃないからできる時だけ。うちにあった水筒に、お茶を入れて持ってきている。店では、ちょっとかっこつけて蕎麦猪口で飲む。
 この蕎麦猪口は、もともと売り物にするつもりだったんだ。けど、気に入って自分で使うことにした。すっぽりとぼくの手に馴染む感じが、ちょうどいいんだ。白地に藍色で山水模様が描かれている。よくある絵だと思うけど、手描きの筆使いが伸びやかで好きなんだ。
 この蕎麦猪口は、そんなにおしゃべりではない。でも、聞けばなんでも話してくれる。近所の物知り奥さんみたいな感じだ。朝一番のお茶を入れると、蕎麦猪口はしみじみと言った。
「ふぅ~あたたかい。今日は番茶ですね」
「あたり。よくわかるね」
「飲み物なら一応知ってますわ。今度は珈琲も入れてくださいな」
「えー?蕎麦猪口に珈琲はどうかなぁ」
「あら、珈琲も合うんですよ」
「君は蕎麦汁以外にもいろいろと使われてたの?」

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「ええ。珈琲、紅茶、緑茶に烏龍茶。ハーブティなんかもいろいろ知ってますよ」
「すごいなぁ。日本のお茶以外はなんとなく合わないと思ったけど」
「視野が狭いと思いますわ。お味噌汁やスープも合います」
「へえ!」
「小鉢代わりに、お惣菜を少し盛り付けても映えますよ」
「んー確かに合いそう!でも、ぼく料理しないからなぁ」
「まあ、お料理しないのですか?」
「うん。ご飯を炊くくらいで。スーパーで惣菜買ったり、カップラーメンとかも多いなぁ」
「お料理をすると、生活が豊になりますよ。買ってきたものでも、まずはお皿に盛り付けて召し上がってみてくださいな」
「う~ん。わかったよ」

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 その夜は言われた通り、買ってきたお惣菜を盛り付けてみた。スーパーのポテトサラダと唐揚げを白いお皿に乗せて。ご飯は炊いて、茶碗によそった。味噌汁はインスタントだけど、お椀に入れて、テーブルに並べる。うん、いいじゃん!ちゃんとした手作りの食卓みたいだ。
「いただきます」
 心なしか、いつもより美味しい気がする。生活が豊かって、こういうことかなぁ。
食べ終わって食器を台所に持って行くと、お惣菜やインスタント味噌汁の入っていたビニール袋やプラスチック容器が山になっている。
(ペットボトルだけじゃないんだよなぁ)
ぼくは洗い物をしながら、ガラス瓶の話を思い出していた。ペットボトルはやめても、こんなにプラだらけの生活なんだよなぁ…。考えると頭の中がグルグルして、思考停止状態になった。
「ま、とりあえず、時々は料理もしてみるかな」

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