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人見知りの国際交流(後編)〜ハワイのMr.アンドリュー〜

(前回のあらすじ)
アメリカ国籍の姪っ子と会話を楽しむため、英語力アップを決意した私(英検3級)は、海外からの旅行者に、自宅で家庭料理を振る舞う国際交流(Nagomi Visit)にトライした。そしていよいよ初ゲストを迎えることに・・・

果たして人見知りでも、初対面の外国人となごみの時を過ごせるのか?!


初めてのゲストであるMr.アンドリューは、15歳年上の日系ハワイアンだ。

旅行が趣味で、年の半分以上は世界を旅しているとのこと。
今回は奥さんとお兄さんの3人で来日された。

そんなMr.アンドリューは、我が家に来ることが決まってすぐにメールをくれた。

そこには、初めてゲストを迎える私への気遣いに満ちた、あたたかい文章がつづられていた。さらに添付された写真もとても雰囲気の良いものだった。

優しげでふっくらとしたMr.アンドリュー、春風のような笑顔を浮かべる奥さま。そしてやせ型のお兄さんは、少しおどけた表情を浮かべている・・・。

このホームビジットはきっと楽しくなる!Mr.アンドリューからのメールと写真はそんな確信を私に抱かせてくれるものだった。

英会話に慣れるために始めた国際交流だけど、一番大切なのはMr.アンドリュー達との触れ合いじゃあないのか?深い反省が心に満ちていく。

私は彼らを迎える準備に、さらなる熱意を込めることにした。

献立は「和」を感じてもらえるように・・・
ハワイにちなんだウェルカムボードを作成。


準備を進めるにつれ、私は脳内でMr.アンドリュー達と過ごす楽しい夕べを、リアルに妄想するようになっていた。

弾む会話、交わされるハグ、飛び交う冗談・・・

冗談??

そんな語学力あったっけ?もちろんない。だが止まらない妄想で私は、覚えたてのジョークを言い、大ウケしていたのだ。

夫はそんな私を物言いたげに見ていたが、口をはさみはしなかった。
多分、はさめなかったんだと思う。


そして当日。私たちは最寄駅にてMr.アンドリュー 一行を待っていた。
そしてウェルカムボードを片手に、脳内であいさつをリピート練習。

「イッツ ソー グレート トゥー ファイナリー ミーチュー!」

超お役立ちアプリ「Real英会話」から選び抜いた言葉だ。
いつしか私には、ファーストコンタクトを最高の形で終える自信が芽生えていた。

だが。

いざ彼らが姿を現すと、幻想の自信はあっという間に吹っ飛んだ。
なぜならMr.アンドリューが・・・

ものすごい威厳と威圧感を発していたから!


メールでは「優しくおおらかなハワイのおじいさま」だったのに、実際会ってみたら、まさに

メガ企業の代表取締役社長


といった感じだった。
奥様とお兄さまは写真の印象通りだというのに、なぜ・・・・。

アンドリューさんは私を見つけると、重厚な声で「ナイス トゥ ミーチュー」と言った。ニコリともせずに。

思ってたんと違う・・・圧の強さに押しつぶされそう!!

練習していたあいさつはふっとび、私はしわがれ声で「な、ないす とぅ みーちゅー」とおうむ返しした。
アンドリューさんが、真顔のままゆっくりと頷く。

企業面接か。しかも圧迫面接か。

想像と違う展開に、私は軽いパニックになった。
会ってまだ5分だけど、Mr.アンドリューはちっとも楽しそうじゃない。
しかし私の横で夫は、奥様&お兄さまとにこやかに握手を交わしている。

一体どうしたらいいの?彼と何を話せばいいの!
私の気持ちは、坂を下るように落ち始めてしまった。


自宅について、食事が始まっても座はあまり盛り上がらなかった。
会話はなんだか途切れがちで、今すぐ別世界へ駆け出したいくなる。

だけどそれをグッと押し留めたのは、楽しんで欲しいという気持ちのが強かったからだ。

せっかくの旅を台無しにするわけにいかない。
それにはまず、私が変わらないと・・・

私は知ってるフレーズを全部使い、ジェスチャーを交え、知ろう分かろうとした。恥を忍んで何度でも聞き直した。

Mr.アンドリューたちも根気よく耳を傾け、何度も話し直してくれた。

奥さんは笑顔を絶やさず、ハワイの日常や家族の話を聞かせてくれた。
お兄さんは私にもわかる冗談をはさんで、場を和ませてくれた。

お酒が入ったMr.アンドリューもリラックスしてきて、ようやく笑顔が浮かんだ。実は意外と人見知りらしい、緊張していたそうだ。

人見知りのいけないところは、自分の不安感ばかりに注目して、相手の気持ちに鈍くなることかもしれないと、私は思った。

それは、言葉とは関係のない部分であるはずなのに。

私たちはそれから予定よりも1時間長く過ごし、ハグを交わして別れた。

意外と最後は、私の妄想に近い形で終えられたようだ。
まあジョークで大笑いを取ることは、できなかったのだけど。


私はこの後もシンガポールやドイツのゲストをお迎えし、共に素敵な時間を過ごした。その中で学んだことは・・・

言葉や文化が違っても、人とのつながり方は基本同じだということ。
交流はその場にいる全員で「作り上げる」ものであり、それはまるで演奏会のようだ。

違う楽器を持ち合って、お互いの音を聞きながらハーモニーを奏でる。
言葉も文化も違うから、演奏途中で止まったりギクシャクすることもある。

でも気がつけば唯一無二の、他では聞けない音楽を生み出している。


またMr.アンドリューとは、すっかりメル友になった。
ニューイヤーカードも毎年送りあっている。

私はこの食事会で終わりと思っていたが、Mr.アンドリューがそれをメールで繋げてくれたのだ。その文章は柔らかくユーモアに満ちているから、きっとこの印象が本質なんだろう。

もしかしたら私も、会った時とメールでは印象が違うのかもしれない。
今度Mr.アンドリューに聞いてみようかな。

とにかく、散々なスタートだったにも関わらず、私とMr.アンドリューの間には、なんとか国際交流らしきものが成立したようだ。

その、英語の上達はあんまりしていないままなんだけど・・・・。















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