縁なんてもの

スピリチュアルなことはあまり信じていない。
かといって跳ねつけるわけでもなく、
あまり飲み込まれないように距離をとっていると言った方が正直なところである。

だけど、つくづく縁のある人だなあと思わざるをえない人はちらほらいる。
ひょっとして前世で何か特別な関係だったんじゃないの?と思うような人に男女問わず出会ってきた。

例えば、親友のこと。
大学入学後の履修説明会で
ふと目に留まった最前列の女の子だった。
おっきな講堂に、文学部の1年生が敷き詰められて
高校からの知り合いを見つけるのにも一苦労するはずの人混みの中で、彼女だけスポットライトが当たったかのように、目が離せなかった。
翌日、語学の授業で前後の席だった。
その翌日、また別の授業で隣の席だった。
彼女とは現在で6年目の付き合いになるが
それまでお互い黙っていたのに急に話し始めるタイミングだったり、買い物をしていて手に取る商品だったり、ぽつりとつぶやく言葉だったり、
着ている服の柄や色だったり、こわいくらい被る。
お互い「なんでこんなに合うんだろうね」と不思議がっている。

そして、そんな彼女と同じくらい、縁のある人だと感じている男の人がいる。

中学の時「秋星」という名前のクラスメイトがいた。
国語の先生は彼に
「オータムスター。秋生まれなんだね」と言った。
その頃の私にとっては電気が走るような大人のユーモアだった。名前に込められた意味をすぐに汲んでみせた、国語の先生らしいユーモア。
いつか季節の名前を持った人に出会ったら私も言いたいと密かに考えた。
大学生の時、ついに出会った。
季節の名前を持った人に。
それが彼だった。
だけど考えてみれば、名前に四季が入っていたらその季節に産まれただろうなんてことは想像に容易く、わざわざ言うのは小っ恥ずかしくて結局言えずじまいだった。

特に関わりもなく卒業してしまい2年が経ったころ、彼と再会した。
元々、男の人と過ごすことに違和感があり
2人で話すのはおろか隣を歩くのも避けてきた私が
彼だけは特別だった。なんの違和感もなく隣を歩き、いろんな場所へ出掛けてはどんなことも話した。
彼の好きなものは、私が元々好きなものだったり
彼に教えられて知った音楽は、初めて聴いたくせにずっと前から知っていたような感覚で転がり落ちるように好きになった。
会いたくて仕方のない時には連絡が来た。
彼とここに行きたい、こんな風に過ごしたいと思い描いていたことは悉く叶った。
本当にびっくりするくらい全部叶った。

結局、彼の上京をきっかけに私たちの関係は終わった。
けれど離れているときも、彼を連想させるものに出会った。その度に呼ばれている気がしていた。

ようやく彼に対する諦めがつき前を向き始めたころ、連絡が来て久しぶりに再会した。
彼はなんとなく前よりも擦れた感じがして悲しかった。
だけど、好きな絵画の話をしたらやっぱり彼も同じ画家が好きだった。といっても、どうやら彼の方がだいぶ前からその画家を好きだったらしい。
私は彼と会わなくなった期間に、その画家の作品を美術館で見て一気に好きになったのだった。

そして、彼と再会したその日は、たまたま私が一人暮らしを始めた日だった。
1人で生きていく強さをつけたいと思って踏み出した一歩目には結局彼が隣にいた。
私よりも寛いで、ベッドの上でいびきをかいて寝ている彼をみて、思わず笑いが溢れた。
いつのまにこんなにいびきをかくようになったんだろうと思いながら床で寝ていると、
明け方には上からドスンと落ちてきた。
1番寂しいはずの一人暮らし初日の夜は、彼のおかげで楽しかったし、心の底から笑えた。
彼が帰ったあと、こんな日に来るなんてやっぱり縁のある人だなあと強く思うと同時に涙が出てきた。

彼とは驚くような偶然の一致が山ほどあって
どうしても縁を感じずにはいられない。
もしかしたら腐れ縁と呼ばれる類の縁かもしれないけれど、私はふと考える。

彼に恋人がいなければ、どうなったのだろうかと。
私には人様の恋人を取ろうなんて考えはないのでそこまで踏み込めなかったけれど、あの時踏み込んでいれば何かが変わったのだろうか。
それとも、本当に縁があるならこの先、
また何か起きるのだろうか。
私が感じている縁はもしかするとただのバイアスにすぎないかもしれない。
だからこそ飲み込まれちゃいけないと頭ではわかっているつもりなのに、疑うことのできない強烈な縁にどうしようもなく引っ張られている。
だけど、彼と私との縁によって涙を流す女の子がいるならば、私はこの縁を手放そう。
そう決意を固めて今、私は手放したところでこれを書いている。

親友と彼、この2人とのすべてを縁と呼ばずしてなんと呼ぼう。
やっぱり私はどうしようもなく信じたい。
縁とか運命とか、不確かなものを。
あなたにも感じてほしい。
そして、その縁をどうか離さないで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?