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菅野雪虫さんの『海のなかの観覧車』を読んだ話

 菅野雪虫さんの新作「海のなかの観覧車」を読了いたしました。
 講談社から、5月1日に発行となっています。本屋さんに発売されてほっかほかの作品です。
 紙の本なら1870円。自分は少し安い電子書籍で購入いたしました。

 菅野さんは、南相馬市うまれの児童文学、ジュブナイル小説作家。異世界ファンタジーの「天山の巫女ソニン」とかアイヌ神話を題材にしたファンタジーのシリーズなどを書いている方です。
 今度、新作が出たというので読んでみました。
 250ページほどの作品ですが、出だしがミステリー風ということもあり、もしかしてファンタジーになるのかな、という興味もあって、グイグイと引き込まれているうちに、あっという間に読み終えました。面白かったです。

 5歳の頃の夏の記憶がないという中学3年の少年が主人公。謎めいた始まり。
 少し精神的にトラブルを抱えながらも働く母親と二人暮らしをしています。ヤングケアラーに近い状態。
 そこへ黒い砂が入った謎めいた手紙が届き・・・とミステリーのように、5歳の時に、自分がある事件の当事者であることに気づきはじめます。
 少年は5歳の夏に、自分が訪れた場所へ向かおうとします。

 ここから先、ネタバレになります。申し訳ないです。

 読めばすぐわかりますが、この本、あきらかに福島原発事故で避難となった人々、その人々のその後についてを題材にしています。
 そのままでは直接的過ぎると別な事件に変えて表現していますが、誰が読んでもあきらか。
 福島ならぬ「幸島(さちのしま)」だし、「ハッピーアイランド」だし、作者は隠そうとしていないです。

 南相馬市うまれの作者としては、この問題はいつか描きたかった題材だったのだと思います。

 福島県の子どもたちへ行われている甲状腺検査などによる不安。
 元の生活を失う一方、多額の賠償金をもらったことで生活が狂ってしまった人々。
 賠償金の金額による妬みなどで破綻した地域コミニティ。
 また賠償金が払われたこと、復興作業が続いているというので、すでに終えてしまったことだという外の人々。しかし、現地の人はまだ苦しみ続けているんだということ。

 少年は、医師や秘書など大人の男性と会うことで、救われ、成長していく一方、実の父親は、実業家として優秀らしいが人間的には大したことではないという風に描かれます。
 離婚や、ヤングケアラーなどもしっかり描いているのが現代的だと思いました。

 また10年前に同じ場所にいて一緒に遊んだ双子が、一人は攻撃的な人物に成長し、一人は御当地アイドルに選ばれるほど美しくなっているというのも面白いです。
 また、事件を起こした人物と、医師の関係も明らかになり、君たちの前には、天使と悪魔、二つの未来があるんだよ、と伝えたいみたい。さすがジュブナイル小説。

 その少年の物語に「ねむり姫」の物語を重ねているのが面白いです。

 個人的には、最初、魔法使いとか言葉がでてきたので、異世界が関係するファンタジーになるのかと期待したんですが、そんなことがなかったのは残念でした。

 一つ気になったのは、村野守美という福島県出身の漫画家、アニメーターの方がいるんですが、一文字違いで同じ読みの医師が登場してきたことですね。自分、好きな方なんで、わざとなのか、たまたまなのかと悩んだのですが。たぶん、たまたまでしょうかね。

 というわけで、今回は、菅野雪虫さんの新作「海のなかの観覧車」を読んでみたら、福島県の問題を題材にした作品でなかなか良かったですよ、という話でした。

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