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推したり萌えたり|ラーメンズのためにチケットぴあに並んだ話|柴田葵

何があってもなくても秋になりましたね。10月です。
同人Qai、今月の連載のテーマは「推したり萌えたり」。文化の秋らしいテーマ設定ですね。文化は人間がつくるもの。もっと言えば、人間の感情がつくるものではないでしょうか。

大風呂敷を広げましたが、個人的な、昔話をします。

ラーメンズというコントユニットがあります。小林賢太郎さんと片桐仁さんの2人組です。「知っての通り」とも「知らないと思いますが」とも書き出せないこのテンションは、現在はユニットでの活動を事実上休止しているからです。解散はしていません。お二人それぞれ、お笑い・ドラマ・演劇・執筆・アートなど多彩に活躍されているので、ユニットだとご存知ない方も少なくないようです。

私が高校生の頃、NHKで「爆笑オンエアバトル」という番組が始まりました。10組のお笑い芸人が100人の素人審査員のいるスタジオでネタを披露し、面白いと思った審査員は流しそうめんのようなレールへボールを転がす→そのボールの多かった順に上位5組だけが放送(オンエア)されるという仕組みのネタ見せ番組です。私は当時この番組が本当に好きで好きで。VHSに録画して保存していました。VHS、すごくかさばる。

語り出すと長くなりすぎるので思いっきり掻い摘むと、その番組の常連だったラーメンズにどハマりしました。出演情報をチェックし、録画しました。雑誌の連載は切り抜いて保管しました。そしてもちろん、ライブに行こうと思いました。

当時もう爆発的な人気だったラーメンズの本公演(ラーメンズは単独ライブのことを本公演と呼びます)は、チケットの入手が困難でした。その頃、同じ演劇部だった友人もラーメンズにハマり、ふたりでチケット入手を画策しました。電話or店頭販売の時代。公衆電話だと繋がりやすい、という都市伝説が生まれるほどに、つまり電話購入はほぼ不可能でした。だから、私たちは朝の6時半に待ち合わせました。開店前からチケットぴあに並ぶためです。眠くて眠くて、ひたすら明るかった朝。それは高校卒業後も何度か続きました。当日券を求めて劇場に並ぶこともありました。

私たちが18歳だったとき、ラーメンズの2人は27歳でした。私が熱狂する舞台を楽しそうに提供する27歳たちは、ひたすら格好いい大人に見えました。27って数字もなんとなくクールで、そのときの自分の気持ちを今でもよく覚えています。「私は27歳のとき、どうなっているんだろうか。格好よくなっているといいな」漠然とそう思いました。

ちなみに、この動画に写っている最前列の頭のどれか、たぶん私です。自分でもどれが自分だかわかんなくなっちゃったな。収録のある日に最前列だったんですよ。
ラーメンズ『FLAT』より「プーチンとマーチン」

ラーメンズの最後の本公演が行われた2009年春、私は27歳で、結婚をしました。ラーメンズ以降、私にはあそこまで熱狂した「推し」も「萌え」もありません。当時の本公演の動画は、YouTubeから視聴できるようになりました(公式です)。なんだか、随分遠くにきました。

18歳の私が抱いた「私は格好いい大人になれるのか?」という問いですが「よくわかんないけれど、よくやっているよ」と思います。あの早朝の明るさも、紙のチケットを眺める高揚感も、ロビーのざわめきも、舞台の上の輝きも、ぜんぶ抱えて歳をとっていくからね。

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