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二級ボイラー実習日記5「自分自身がボイラーたらねばならない」

ここまで書いてきた通り、二級ボイラー技士となるためには、二級ボイラー技士の資格試験合格と実技実習修了という2つの条件が必要だ(実務経験あったりすると別みたいだが)。

で、私は既に資格試験には合格しているので、免許取得についてはテンパイ状態で、実技実習を修了すればアガリということになる。で、今日が実技実習の最終日なので、今日の実習を最後まで受ければツモ、ということになる。

実は、今日が人生でボイラーと向き合う最後の日になるような気がしていた。

そもそも大きな興味があったわけではなかった。自分の仕事や生活ともそんなに関係がない。ただなんとなく、鬱屈して前に進めなくなってしまっていた自分にむりやり新しい刺激を与えるために、突然ボイラーの勉強を始めたのだ、ということはこの連続日記の初回に書かせて頂いた。

しかし、勉強を進めていくうちに、ボイラーという機器を中心とした歴史や価値観の面白さに萌えられるようになり、水を沸かすという行為に漂う美学にニヤニヤできるようになった。

そして週末に実習を受けるために北海道は旭川までやってきて、ワーケーション的に北海道を楽しみつつ、実習に入ってもそこから北海道感を感じ取ってはそれを楽しんだりした。

で、実習に参加したら2日間ずっと座学で、さすがに飽きてきたので本業っぽくボイラー系デジタルコンテンツデモを開発して時間を経過させたりもした。

そもそも、自分は何かをつくって人に提供する「クリエイター」みたいなものなのに、日本に帰ってきて仕事や生活を送っているうちにカラカラに乾いてしまって、ものはつくり続けているんだけど、確固たるモチベーションがあるのかどうか怪しい状態にまで陥っていた。

その中で心身ともに混乱して、いろんなホルモンが分泌されてよくわからなくなって、気づいたらボイラーを勉強したりして(他にもいろいろやっていたが)気を散らしていた。もうこれは、去年くらいからずっとそんな感じで、自分的には長いトンネルのようなものだった。

ようやくこの2週間くらいで光明が見えてきて、頭の中の部屋がごちゃごちゃすぎて目視で確認できなかったモチベーションも確認することができて、軸のようなものを取り戻せたような気もする。少なくとも、嫌んなっちゃってメソメソしていた時期は終えることができた。

ボイラーの勉強は、その混乱の中で象徴的にやっていたことで、二級ボイラー技士の免許は、自分にとっては混乱の成果のようなもので、取得したところがゴールというか、自分にとっての混乱の終わりなんだと勝手に見なしていた。

だから、今日が終わったら、二級ボイラー技士になった瞬間に、自分はボイラーとは縁が切れるのだとなんとなく思っていた。

昨夜は、旭川のピアノがあるジャズバーにお邪魔して、「Softly as in a Morning Sunrise」を1曲だけ弾かせて頂いた。なかなか一人で弾くにはまだ修行が足りない。

朝起きて日課をこなし、朝食会場で供されていたイクラ丼食い放題を我慢して、実習会場に向かった。

昨日のジャズバーのマスターが、「北海道の地元民はイクラ丼など食わない」と言っており、さらに、「北海道の地元民も食う北海道っぽい食べ物、それは・・・ホッケだ!」と言ったものだから、今日は夜ご飯にホッケを食うまで節制することにしたのだ。北海道に来ると、当然高カロリーな生活を送ることになるので、指数関数的に体重が増える。

旭川市民文化会館。ここが最後の実習の場所だ。ここで今日初めて本物のボイラーに触れて、免許の要件をツモって、自分のボイラー道は終わるのだ。

そして実習開始。午前中。あろうことかボイラーを使用せずに、「シミュレータ」というか、パソコン上で動くなんちゃってボイラーソフトみたいのを触って手順を確認するだけだった。本物のボイラー登場は午後になるらしい。

そして午後、旭川市民文化会館の地下ボイラー室。ついに、本物のボイラーに対面することになった。

「やっと、逢えたね。」

と思った。でかくて無骨でかっこよくて、テストステロンが分泌された。

しかしまたここで誤算だったのが、別に実習だからといって、本物のボイラーに点火して蒸気を発生させられるわけではないということだった。本物を見て、各パーツと役割を自分の目で見て確認する、というそれだけだった。

これに点火したい。蒸気を発生させたい。

そして世の中には、もっと大きなボイラーがある。マンションみたいな大きさのボイラーだってあるのだ。そんなでっかいボイラーに点火して蒸気を発生させることができたら、なんてエキサイティングなんだろう。

ボイラーに点火して蒸気を発生させるのは誰にでもできるわけではない。しかしである。私は、今日の実習を終えたら二級ボイラー技士だ。合法的にボイラーに点火して蒸気を発生させることができるのだ。自分には文字通り、資格がある。

今日がボイラー道の終わりだと思っていたけど、ボイラーに点火して蒸気を発生させるまで終われるわけなど無いし、なんだったら始まりじゃないか。あんなでっかいボイラーを目の前にして、逃げるわけにはいかないじゃないか。

私はこれからホッケを食いながら、きっと1級ボイラー技士、さらにその上のボイラー業界の最高峰、特級ボイラー技士について調べてしまうだろう。そのホッケは、私が2級ボイラー技士として食べる最初の食事になる。

悲しいことも悔しいこともあるし、ままならないことだらけだけど、点火して蒸気を出しながら、前に進んでいかなければならない。自分自身がボイラーたらねばならない。

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追記 : ホッケ

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