フィンランド留学記 九週目

月曜日の放課後に荷物を詰めた LP(Local contact Personの略)の車で次のホストファミリーの元へ移動した。次のファミリーも一時的な受け入れに協力してくれるだけで、正式なホストファミリーが見つかり次第に即移動という流れだ。

二つ目のホストファミリーに対面した時、家からマザー、ファザー、長男に次女そして三女(と犬が2匹)が迎えてくれた、と同時にみんなからウェルカムハグをされた。フィンランド人は皆シャイで冷淡な性格である(ステレオタイプだが概ね合っている)と思っていたため、少し戸惑いながらも快く歓迎してくれているようでホッとした。

家の中はかなり広く、二階建てで二階の階段の手前に自分の部屋がある。部屋は4、5畳の広さで、勉強用の円卓に大きめのクローゼット、そして縦3×横4の12個の立方体の棚が壁に配置されてあった。前の所とは異なってベッドの腰の部分は曲がっていなかった。狭過ぎず広過ぎずでまさに理想の部屋であった。
荷物を運ぶ際に、前のファミリーで痛感した食事情の対策として日本から仕送りしてもらった二つのダンボール(中には青汁やカロリーメイト、駄菓子、日本食などが入っている)には驚かれた。
ここの家族では朝食は毎日ポリッジで夕食は主にファザーが作り置きをし、昼食は平日は給食があり、休日は基本的に1日2食の生活で過ごしている。また、一度の食事の量は少ない代わりに夜小腹が空いた時はパンとハム、またはサラダがある。ホストマザーはベジタリアンで冷蔵庫には必ず野菜が入っているので、食事の栄養面では問題がなかった。そのため、良くも悪くも仕送りしてもらった青汁はもう飲まないことになりそうだ

荷物を一通り自室に運び終えたところで、家族のみんなと一緒にホストシスターが作ったブルーベリーパイを食べた。「フィンランドはどう?」「どうしてフィンランドを選んだの?」と聞かれた時は、もはや定型文と化した「はい、自然が美しく、ゆっくりと過ごせる静かな場所です。」「世界的に注目されている教育制度や高い幸福度の理由が気になったからです。」と答えた。
食べ終わったら皿の片付けを手伝って、荷物を整理し、犬と戯れ、リビングで少し話したりし、シャワーを浴びてこの日は終わった。

ホストファミリーにケチをつけるのは、自分でもとても傲慢なことであることとわかっている。前のファミリーは家の中が散らかっていて、流しには常に皿が溜まっていて、ご飯は不健康ではあったものの、その環境はそこのホストシブリングスと全く同じで、自分への扱いが特別ひどかったというわけでもなかった。だがどうしても他の留学生の友達のホストファミリーと比較してしまい、嫉妬心が日に日に増していくのに耐えられなかった。
だけど、ここでなら全てうまくやっていけると思った

火曜日は最新作のジェームズボンド007の映画をホストファミリーと一緒に見に行くこととなった。
上映までに時間があったため、インスタグラムで知り合った現地の中学生である友達のSundayと中学生のホストシスターHildaと一緒に街を歩き回った。SundayとHildaは知り合いだった。中学校は違うが、フィンランドで一番普及しているSNSであるSnapChatを通じて知り合ったそうだ。Sunday曰くサボンリンナにいる同世代の子はそのSNSを通じて大体知っているそうだ。流石というか、なんというか、これには驚いた。
暇つぶしに、サボンリンナにある唯一の娯楽施設と言っても過言ではないビリヤードやダーツがあるバーでビリヤードをして遊んだ。みんなほぼ初心者だったが楽しめたと思う。Hildaは英語を話さないため何かを伝えたい時は大体Sundayを通して伝えている。それ故、いつもSundayとHildaが話している形となり、また、気のせいか、時々こちらを向いてニヤけるSundayが僕を話のネタにしているように思い、自業自得ではあるものの疎外感を感じた

時間となりSundayとようやく別れて映画館へ向かった。そこにはホストマザーとマザーの母親、長女、次女とその彼氏が来ていた。007は見たことがなく背景知識を持っていないため、正直序盤からあまり理解でなかったが、アクションシーンだけでも楽しめた。

今週末にはなんと、ファミリーのサマーコテージに泊まることになった。こんなに楽しいことが続いていていいのだろうか、と思ってしまう。そういえばYouTubeの更新もこっちに移ってからやっていない。日本の勉強も並行して進めていくはずだったがそれも疎かになっている。確かに現地での生活を満喫することも大切であるが、少なくとも日本の勉強はちゃんとやっていこう。

金曜日の学校の後、着替えにタオル、水着などコテージに持っていく荷物をまとめ、コテージには水道が通っていないため水を貯めたタンクや食料などを車にのせるのを手伝い、夕方に出発した。コテージは家から1時間半離れた森の中に二つある。一つは湖に面していてサウナから直接湖に入ることができ、小さなキッチンとダイニングテーブル、そしてホストファザーとマザーの寝室となっている。もう一つはそのすぐそばにあり、子供の寝床となっている。
一通りの準備を終えた後に僕とHildaは子供用のコテージに戻った。この日は二人だけだったが、翌日には次女とその彼氏も来ることになっている。Hildaはホラー映画が好きらしく、おすすめのホラー映画を紹介され、それを一緒に見ることにした。映画は「Hush」で、概要は耳が聞こえない森の中にある家で一人暮らしをしている女性の元に殺人鬼が訪れる話である。正直な感想を言うと、主人公目線で話が進んでいく時は無音であるという点で工夫はあったが、それ以外はありがちな展開で進んでいき、殺人鬼の意図もわからないまま話が終わるという、なんとも言えないような作品だった。

翌朝は、昨日は暗くて見えなかった湖のある景色を見て深呼吸し、朝食を取り、次女達と合流してすぐに森の中を歩く準備をした。ひんやりとした美味しい空気に枯葉を踏む音に落ち尽かされる。まだ9月の中旬だが、フィンランドではすっかり紅葉のシーズンに入っている。丘から見下ろした氷河湖と秋模様の森の景色はとても綺麗だった。
散歩の後は焚き火を囲んでソーセージやマシュマロを焼いて食べ、一段落した後にサウナの準備に取り掛かった。
水着を着て、男性陣とサウナに入った。サウナのそばに湖があったら入るのがフィンランドでの流儀、ということで次女の彼氏と一緒に水温約10℃の湖に入った。二度試したが全く心地よくない、がいい思い出にはなったと思う。

サウナの後は夕食で、旬であるヘラジカのローストをご馳走になった。鹿肉はこの時初めて口にし、美味しかったが、特別というわけではなかった。食後は次女が道中で買ってきてくれたアイスクリームを食べながら映画を見て終わった。

月曜から学校ということで日曜日には町に戻り特に何もなかった。が、この一週間は今までの中で一番楽しかった。家族の雰囲気は良く、ついに自分も他の留学生のように恵まれた環境が来たことに、心の中でひたすら叫んでいた
嬉しいことは立て続けに、なんと次のホストファミリーが見つかり、そのファミリーが来週から始まる一週間の秋休みの間にラップランドに連れて行ってくれることになった

ホントに?

神様、ありがとう...

もう、これ以上何も望みません...


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?