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偽物が流通するほどシャネルは“CHANEL”になるわけ(#32)

#30では芸術作品における贋作について触れてみましたが、今回はファッションでの話です。

以下に4点ニュース記事を添付しました。

すべてコロナ禍と呼ばれる2020年2月以降から今に至るまでで摘発された偽造シャネルに関するものです。

尚、これらは抜粋で、多数あります。

依然としてシャネルが人気であることを表す材料となっております。

変化点といえば、個人での偽造販売が見受けられたことでしょうか。

従来の組織的な偽造販売から、フリマアプリなどを経由したものまで加わっています。

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ライセンス・ビジネスとは"公認モノマネ芸人"のようなもの

#30でも触れましたが、偽造のベースはなりすまして儲けることです。
今日のファッションはより一層ライフスタイルデザインの要素を深め、衣料に留まらず、広く衣食住に関わっています。
それに伴い、偽造アイテムの種類にも広がりがみられるようになってきました。
ファッションアイテムとは芸術作品にも日用品にもなり得る不可分的存在です。
なぜならシャネルのようなハイブランドは偽造によって芸術作品の贋作同様、高価の売買が期待できるからです。

元々衣食住の本質を貫いている“欲”を各々の画家やアーティストたちが、第三者の五感に届く(画家の場合、目に見える)かたちに表現し直したものが芸術作品です。
そう考えると日本食が芸術作品であるように、ファッションも芸術作品である場面が理解しやすいかもしれません。

ファッションの面白い点は、そのオリジナルの芸術性を認めつつ、その名前で売るビジネスモデルを展開してしまうところです。

これがライセンス・ビジネスです。

それはモノマネ芸人が本家の言いそうな(あるいはやりそうな)ことで笑いを誘うのに似ています。
ライセンス・ビジネスとは、本家と別企画で本家が扱っている(あるいは扱っていそう)なモノやデザインで売り出していくものです。
(※勿論、契約次第ではその展開方法も本家の許可が必要だったりそうでない場合等様々です)

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ライセンス・ビジネスの陰りは"購買層の分断"が原因

つまり本家の名を借りたビジネス、これがライセンス・ビジネスです。
だから、ある意味ではライバル関係にもあります。
新興市場として1970年代から続々に投入されたライセンス・ビジネス、日本において有名なのブランドではピエール・カルダンやバーバリーなどが挙げられます。

ピエール・カルダンは日本法人を作っているので展開していますが、バーバーリーは2015年三陽商会との契約を打ち切るまで40年、ライセンス・ビジネスを続けていました。

そして、2015年のバーバリーとの契約がなくなった後、大黒柱を失った三陽商会は未だ立ち直る兆しが見えていません。

しかし、本家バーバリーはどうしてライセンス契約を打ち切ったのでしょうか?
何故なら黙っていても一定額のライセンス料の収入は見込めるからです。
それはそれで経済的な旨味がありそうじゃないですか?

本家バーバリーがライセンス契約を打ち切った理由は高級なブランドイメージを保つためでした。
それを理解するためには少し補足が必要かもしれません。

ライセンス・ビジネスは本家商品と競合しないためにも購買層を住み分けられます。
ライセンサー(ここでいう本家バーバリー)は高価格帯商品を扱っています。
つまり、ライセンス・ビジネスでは特定地域(本記事でいう日本)・中価格帯の購買層向けの商品開発とならざるを得ません。

ではブランド名において購買層が上下に伸びると何が問題なのでしょうか?

ブランドが庶民的になることです。

では庶民的なブランドとはどういったものでしょうか。
ユニクロやZARAなどファストファッションブランドが挙げられます。

手が届きやすい=庶民的という図式です。

特にこのファストファッションブランドの台頭により、日用品寄りの低価格帯との差別化を図る必要が求められてきました。

それゆえ、中価格帯の購買層が中価格帯を求める意義を曖昧にしたとも言い換えられます。

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真似られるとはそれだけで価値がある証拠

近年の価値観としてオリジナルを好む傾向があります。
その意味でもライセンス・ビジネスに陰りが見えているともいえます。
ライセンス・ビジネスにおいてはそのブランド名においてモノが流通します。

同じ量産でも書籍との決定的な違いはその点です。

たとえば村上春樹の小説が重版をしても重版によって価値(小説の内容)が変わるわけではありません。
それどころか重版されるほど売れているといった評価にすらなります。

どうしてでしょうか?

それは書籍がモノではなく情報(コンテンツ)を販売している商材だからです。

ですから書籍の偽物と呼ばれるものは偽物というより海賊版と呼ばれる無断使用になります。

書物においてライセンス・ビジネスに近いものがあるとすればゴーストライターのような存在ですが、その存在がいたとしても本家の名の許、出された著作となります。

要するに本物とそれ以外しかない関係です。

この文脈で語らずにはいられないのはココ=シャネルの存在です。

シャネルが人気を博し始めて、冒頭ニュースでも取り上げた通り、今なお、数多ののコピー品が世に出回っています。

摘発されては再び偽造し、また摘発される…それはまるでいたちごっこです。

ですが、ココ=シャネルは"模倣とは本物である証"といいます。

真似は大いに結構。真似される価値があるから真似されるの。本物の証拠なの。

by Coco Chanel


確かにライセンスを与えるということは、大前提としてオリジナルとして評価される存在がゆえ成り立つ側面があります。

そして、ライセンス商品の場合、出回るものはホンモノです。
ただし同じ名の許、ホンモノが多く出回るため、オリジナルの価値を薄める存在になったのでした。

購買層=ファン層です。
ファンが増えれば、ステイタス感は薄れます。

ステイタスとは何でしょうか?

それはそのブランドを共にブランドが持つ矜持と生きることです。

でなければ、それらはただの道具として消費されることになるからです。

偽物に最も欠けているものはそのブランドの矜持です。

たとえどんなに精巧に作られていたとしても、犯罪に手を染めて作られたものにそのブランドの矜持を再現する力などあるのでしょうか。

真似されながら、共存し、あるいはその犯罪すらブランドの宣伝と変えられるような存在、それがCHANELなのでした。

<参考>


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