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「書」報せん フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

1.お薬の内容(どんな本?)

名称:小説含有文庫本
フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』ハヤカワ文庫
成分:#SF、#アンドロイド、#ブレードランナー、#哲学
内容量:328ページ
製造年月日:昭和52年3月15日 初版発行
ご注意:アンドロイドと人間の違いって……と考え込む可能性があります。
症状(こんな人におすすめ)
新入社員、転職に悩んでいる、将来がなんとなく不安、仕事の意義が見つからない

2.あらすじ

 第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界! (裏表紙から抜粋)

3.効能・効果(書評・感想)

 どうも、社会人四年生の空条浩です。みなさん、仕事は好きですか? 天職について活躍されている方もいれば、「なんか違う……」と思って転職を考えている方もいると思います。ちなみに僕は後者です。

 今回紹介する『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。映画「ブレードランナー」の原作でSFの名作であるこの小説。読書ノートをつけているとき、これはSFでありながら、労働者が抱く葛藤を描いた「仕事小説かも?」と思いました。

 主人公リックは物語のしょっぱなから夫婦ゲンカ。リックは必死に奥さんをなだめます。「ペンフィールド情調オルガンをうまく調節すれば、嫌な気持ちもなくなるから!」と。この世界の発明品の一つとしてメンタルを調節できる機械。これについて奥さんは次のように言っています。

「テレビの音を切ったとき、あたしはナンバー382のムードだった。ダイヤルしたばかりだったの。だから、その空虚さを頭で認識はしても、心には感じなかった。うちがペンフィールド情調オルガンを買える身分なのはありがたい――最初の反応はそれだったわ。でも、そのあとで、これがどんなに不健康なことであるかに気づいたの。このビルだけじゃなく、あらゆる場所での生命の不在を感じ取りながら、それに対してなにも反応しないことが――わかる? あなたにはわからないでしょうね。でも、むかしは、そういう鈍感さが精神病のひとつの症候として考えられてきたのよ。”適切な情動の欠落”という名で。(中略)」(P10)

「頭では虚しいと思っているのに、心では感じないっておかしくない?」と言うわけです。ペンフィールド情調オルガンを使ったことはないですが、なんか共感するんですよね。例えば仕事をしているとき。相手の自慢話に相槌を打ってにこにこする。いかにも尊敬したように「いやあ、マジっすか、すごいっすね(流しの三種の神器。これさえ言えば会話は進行する)」と言うが心の中では何も思っていない。感情を切り取られていくような感覚。日常であると思います。

 仕事と言えば最近「好きなことを仕事にする」なんてフレーズがありますが、マーサー教(この小説の中に登場する宗教)の教祖がリックにこんなことを言っています。

「(中略)さあ、早く自分の仕事にかかりなさい。たとえ、それがまちがったことだとわかっていても」
「なぜ? なぜそうしなくちゃならない? おれは仕事をやめて、どこかへ移住するよ」
 老人がいった。「どこへ行こうと、人間は間違ったことをするめぐり合わせになる。それが――おのれの本質にもとる行為をいやいやさせられるのが、人生の基本条件じゃ。生き物であるかぎり、いつかはそうせねばならん。それは究極の影であり、創造の敗北でもある。これがとりもなおさず、あらゆる生命をむさぼる例の呪いの実体じゃ。この宇宙のどこでもそれはおなじこと」(P234)

 これを読んで、番組名は忘れてしまいましたが林修先生が「得意かつ好きでないこととどう折り合いをつけるか」と言っていたのを思い出しました。好きなことを仕事をしていても、その過程の中で面倒なことに向き合わなければならないことってありますよね。やりたい仕事をするために、今目の前にあるやりたくないことに取り組まなければならない時だってある。無駄とわかっていてもやらなければならない作業がある。

 この引用部分、「影」「敗北」「呪い」と一見ネガティブワード連発なんですが、勇気をもらえると思うんですね。間違ったことをする、失敗するめぐり合わせにあるとわかっていたら、仕事の不満とかチャレンジする前の不安とか、少し減りませんか? やりたくない仕事だな、なんでこんなことしなきゃいけないんだろうと悩んだときは、ここを思い出して「めぐり合わせなら仕方ないか」と切り替えるようにしてます笑

 感情が切り取られていって、嫌なことのめぐり合わせを受け入れなければならない。生きづらい世の中!! と叫びたくなりますね笑 その上で次の引用を紹介したいと思います。僕がこの小説で一番好きなシーンです。

アンドロイドも夢を見るのだろうか、とリックは自問した。見るらしい。だからこそ、彼らはときどき雇い主を殺して、地球へ逃亡してくるのだ。奴隷労役のない、よりよい生活。たとえば、ルーバ・ラフトのように〈ドン・ジョバンニ〉や〈フィガロの結婚〉を歌うほうを選ぶのだ。不毛な岩だらけの荒原、もともと居住不可能な植民惑星で汗水たらして働くよりも。(P241)

 ご機嫌をうかがって気疲れする毎日だと思います。周りから「辞めてどこに行っても同じ」と言われることがあると思います。でも、夢を見る。今のすり減っていくような毎日よりも、物語を鑑賞したり、きれいな絵に感動したり、素敵な音色に耳を傾けたりする生活がいいと願う。アンドロイドみたいな日常を送っていても、今よりもいい生活を夢見る。

 ここを読んだとき主人公はリックなんですが、僕はアンドロイドに共感しました。毎日働きに行く自分と重ねる一方、よりよい生活を求めて戦うアンドロイドに憧れる。今はまだ、嫌なことを沢山やらなければならないかもしれない。得意でないご機嫌取りをやらなければならないかもしれない。そんな毎日だからこそ「こんな生活だったらいいのにな」と考える。

 僕は彼らのように夢を見たい。嫌なことが多い分、明日はいい日になってほしいと願うだからこそ、嫌なことに向き合ってもいいかなと思えるのではないでしょうか。あなたはどうでしょう。アンドロイドたちと同じように、夢を見ますか?

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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