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「人生は、意味のない苦痛だ」と父は言っていた

<ムービージュークボックス20>

「自分以外の誰かになりたい」

ほとんどのユダヤ人は、そういう願望を抱いていた。

少年は残酷。ユダヤ人の名前を知られたとたんに、差別された。
(少年時代のスピルバーグも、ウディ・アレンもそうだった)。

小さい頃から「とにかく、お前が悪い」と親に叱られ続けてきた
ユダヤの少年は、生きるすべは、自己否定しかなかった。

「自分」から逃避することで、大人になった。まわりのみんなと同じになることで、心の安定を得た(まるで、同調圧力を敏感に甘受することで成人している東洋のある島国の人々のように)。

レナード・ゼリグ(ウディ・アレン)という、自分を捨てて、誰かになる男の映画「カメレオンマンZelig(1983)」

「ゼリグ」ポスター©︎aaiep.pt

話は、1920〜1930年。ゼリグは、共和党のパーティに潜り込み、お金持ちの紳士の言葉遣いをし、台所では、貧しい民主党員としてふるまっていた証言がある。ヤンキースタジアムでは、ベーブルースの後ろに立っていて、つまみ出される。

ベーブルースの後ろに立っているゼリグ©︎filmfanatic.org

中華街に行くと、中国人に変わる。太っている人と友達になると、太るゼリグ。
アメリカン・ネイティブと仲良くなると、ゼリグもネイティブになる。

いつの間にかネイティブになる©︎taste of cinema

ゼリグは、自分が自分であるという感覚が失われる「解離性障害」だった。
自分とそっくりの分身を見る幻覚の「ドッペルゲンガー」ではなかった。

カメレオンマン、ゼリグを、NYタイムス紙も取り上げるようになる。
当時は、無教育の移民が多く、政治などを取り上げても誰も読まなかった。
カメレオンマンを一面記事にした。まず、心理学者が興味を持った。

突発性多重人格ゼリグを診察する心理学者©︎pinterest.fr

ゼリグを催眠術を使って治療しようとした心理学者フレッチャー博士(ミア・ファロー)が現れたが、ゼリグは、素早く心理学者になりきり、二人で催眠術を掛け合ってうまくいかない。

そこで、フレッチャー博士は嘘をついた「正直に言うと、私は、心理学者でも何でもない。ただの女」。ゼリグは、乖離先をなくし、混乱した。

しかし、ゼリグは、彼女に近づいていくことで、彼女を次第に理解し、恋に発展した。

©︎pidax-film.de

ところが、ゼリグの恋愛が報道されるや、カメレオンマン病の影響とはいえ、
病中に結婚した女性たちが、重婚罪で騒ぎ始めた。ゼリグは、海外に逃亡する。

ゼリグを忘れられないフレッチャー博士は、探し求める。ある日、劇場で流れていたニュース画像に、ヒットラーのそばにいる病気再発のゼリグを偶然発見。

ヒットラーのそばにいるゼリグ©︎jupiterjenkins.com

フレッチャー博士は、ナチスの大集会に向かい、ゼリグのドイツ救出に成功する。

さらに、病魔からの救出は、ゼリグの並外れた承認欲求というより渇望に目をつけ、フレッチャー博士の愛で満たして治癒した。

「自分」を取り戻したゼリグは、フレッチャー博士の愛も取り戻し、結婚する。

「自分」以外の誰かになりたかったカメレオンマンは、「自分」を取り戻すことで、出発点の「自分」になった。

ゼリグへの、父親の遺言「人生は、意味のない苦痛だ」は、正しいかも知れない。


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