アイスクリーム

アイスクリームが好きだ。今まで出会った人で「アイスクリームが嫌い」という人は見たことがないので、大半の人はアイスクリームが好きだと思う。


出産予定日の16日前。毎日義務のように、これ以上増えてませんようにと、祈りながら体重を測ったら、なんと1キロも体重が減っていた。少しおかしいと思った。弱いお腹の痛みが夜中に10分おきにあって眠れなかった。なので見間違いかと思い、測りなおしてもその数字が変わることはなかった。

産院に電話をして「念のため来てください」という事なので念のために入院の準備をしてタクシーで向かった。事情を説明して割と早く診察してくれたように思う。

「少しずつ破水してるから、出産準備に入りましょう」

「?????え????」

「出産に向けて頑張りましょうね」

という事であれよあれよというまに入院をすることになった。予定日は大分まだ先だけど正期産には入ってるからいいか、と思った。仕事を辞めてから何もすることがなかったので、ウォーキングを異様なぐらいして、ぞうきんがけを家中くまなくしたのがよかったのか・・・なんて思った。勝手な出産のイメージで何の根拠もなく「もう1日ぐらいすれば生まれるのかな?」と、呑気に考えていた。これから自分の身に起こる想像を絶する痛みを知らずに・・・

その日の夕方ぐらいから、耐えられるけど「い、痛い・・・なんじゃこりゃあ」という痛みになってきて、とうとう夜から耐えられないぐらいの痛みに変わってきた。信じられないぐらい痛い。時間を測る。痛みがくる。うずくまることしかできなかった。痛みに耐えかねてナースコールをした。助産師に「そんな眉間に皺よせて・・・シャワーでも浴びてみる?」という提案をされた。地獄のような痛みを味わっている妊婦に対して「さもなんでもない事よ」というようなその口ぶりが憎い、が憎いと思ってる間もなく息が止まるような痛みが襲ってくる。気が遠くなるような時間をかけて苦労をしてシャワーを浴び、痛みに耐えながらなんとか朝を迎えた。朝の診察でやっとLDRに入ることになった。これでもう24時間以上かかっている・・・おかしいな?まだ生まれる気配はない。ただお昼ごはんは食べれて、「おいしい!」と思う余裕があり、呑気に「笑っていいとも!」を見ていたのでまだまだだろう。

夕方になると旦那が来てくれた。立ち合い出産を希望していたのでずっといてくれることになった。

激痛に激痛を重ね、ひいひいふーうだかへーへーほうーだかふっふっふっだかよくわからない呼吸法も重ねに重ね、やっと産まれてきてくれた・・・雷が落ちたような衝撃があった。娘のくしゃくしゃの真っ赤な頭を確認する。感動の涙というよりは「やっとこの痛みから解放される」という事と「娘は大丈夫か?」の2点しかなかった。少し出産に時間がかかりすぎたので保育器に入れられた。娘の事が心配だ。後産を終える。そのあと少ししてから助産師が来た。

「がんばったね、何か欲しいものはないですか?アイスクリームがあるよ」

「アイス・・・アイス食べたい・・・」

声がガラガラである。

「よし食べれそうやね、すぐ持ってくるなあ」

アイスクリームをもってきてくれた。どこのメーカーかはわからない、見たことのないパッケージだったけど、バニラアイスという事はわかった。助産師が蓋を開けてくれた。
固くなく丁度いい柔らかさのアイスクリーム。バニラのいい匂いと甘くて冷たくて喉をすっと通る。こんなにおいしいアイスクリームを食べたことがなかった。美味しすぎて涙がでた。娘は大丈夫だろうかと気にかかった。気にかけながらもすべて食べてしまった。自分が大丈夫でないと娘も大丈夫でないだろう。多分。

全部平らげたアイスのカップを見て助産師は驚いていた。

「今から入院する部屋にいこうか、車椅子あるけど・・・」

「大丈夫です、歩けます。」とLDRのベッドからなんなく足をおろしスリッパに足をいれた。

「すごいな」と助産師は驚いていた。妊娠するずっと前から入院する直前までずっと、ずっとウォーキングをしていた成果だと思う。

分娩所要時間は46時間56分だった。出産はもう2度とごめんだと思った。

娘は2日目からは保育器をでて、元気に一緒に退院することができた。

あのパッケージのバニラアイスクリームはまだ見かけたことがない。


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masami

ビールとナッツをバケツにいっぱい

食べ物についての雑記やエッセイ。 子供の頃の事。 大人になってからの事。
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