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「Subscription (Subscribe)」ってどう訳した?

今日のワードは「Subscription (Subscribe)」です。
以前から翻訳に携わっているアプリで、このワードが出てきたのが4,5年前のことだと記憶しています。ちょうどApple Musicが始まる頃でしょうか?

今なら、多くの方が「サブスクリプション」と片仮名にしてしまうことと思います。今なら私もそうするかもしれません。
当時は少し事情が違って、まだサブスクリプションという言葉がそんなに浸透していない気がしました。そんなときに、さてさて、いかに訳したものか…と結構悩んだので、その話をします。

「Subscription」、もともとの意味は「定期購読」です。
ただ、「購読」にひっかかりますよね。Kindle Unlimitedのようなサービスならいいですが、音楽やその他に「購読」はないだろう…ということでボツに。

もう一つ、購読を選ばなかったわけがあり、もともとそのアプリが「購読」を使っていたんですね。
というかそれを訳したのも私だったんですが、「Subscribe」を「チャンネル登録する」などに訳せばよかったものを、テキストの幅的な問題や、力不足で「購読する」にするしかなく、いまでも悔やんでいます。

さて、なんと訳したかに入る前に、ぜひ知っていただきたいので1つ小話をします。

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アプリ翻訳の難しさは、こういうところにあります。
例えばYouTubeを例にあげますと、日本語の「チャンネル登録」は英語では「Subscribe」です。

通常、翻訳をする立場にある人は、アプリなどを(あればBetaとかも)触れる環境にはあるものの、スクリーンショットやフローなどと一緒にテキストが提示されるわけではなく(これはもしかするとわたしの環境の問題かもしれません。が、たぶんこういった問題を抱えているところは多いと思うので、ここに踏み込めるプロダクトがあるとすごい成長しそうですね)、Google SheetsだったりTransifexなどに羅列されているわけです。

その状態で、「Subscribe」という文字をみただけで、「チャンネル登録」に訳してしまうのは怖さがあります。

これはなぜかと言うと、それがどのような文脈で使われているかが把握しきれないからです。
Subscribeをチャンネル登録に訳した人、あるいはブランドとして決めた方は素晴らしいと思います。

しかし、もっと細かいテキストの場合、どこで使われるかわからない、例えるなら、「あの」チャンネル登録ボタンでしか使われない、という保証がないのです。

具体的には、今はなくてももしかしたら将来チャンネルじゃない、例えばトピックごとに自動でまとめられた動画リストがでてきて、それを登録するのにも “この”「Subscribe」が使われるかもしれない。そうしたときに、日本語と英語であってはいけない齟齬がでてきてしまう。使う人を混乱させてしまう。
だから、ただのSubscribeに「チャンネル」をつけて訳してしまうことが非常に怖いです。

これはアプリを作ったことがなくて翻訳だけする人にぜひ知っておいていただきたくて書いてます。
訳したテキストはkeyとセットで使われることが多いです。例えば、  "Text is required" という英語があり、あなたがこれを「ああ、アプリの中のメッセージ入力欄で使うのか」と考えて、 "メッセージは必須項目です" と訳したとしましょう。しかし実際は、このテキストはプログラムからは "error_text_required" というキーでアクセスされ、ほかの様々な必須項目のテキスト入力のvalidationのエラーメッセージで使われることがあります。なので、なるべく忠実に、コンテキストを揃えることはとても大事だと私は思います。

今回の例はまさにそれで、チャンネル登録のような「Subscribe」と、有料サービスの支払形態としての「Subscribe」がありました。幸い、アプリ側ではこれらの単語は分けられているようでしたので、ということでようやく冒頭の話に戻ります。

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結論としては、そのときは「定期購入」と訳したと思います。これもわりと苦肉の策だったのですが、仕方ないです。

ちなみにApple Musicは当時「ストリーミング」という言葉をよく使っていた気がします。よく「きき放題」や「定額配信」などと訳されることも多いですが、サブスクリプションとカタカナ表記にすることは避けていた印象があります。
それどころか「Subscription」を訳したものを直接置くことを避けていたようにさえ感じます。

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アプリ翻訳は、そのアプリのUXの最後の最も重要な要素です。
だから、きちんと1つ1つに責任を持たなければなりません。
あなたのその訳した言葉は、いつでも書き換えられると思わないでください。
例えば、なかなか更新されない定型文返信のメールサーバー内部に保存された送信文として使われるかもしれません。
もっとリアルな例を上げるなら、ストアのスクリーンショットとして使われたら、それこそなかなか更新しにくいです。

そして、言葉には一貫性を持たせる必要があります。あるとき「あ、購読はよくない訳だった」とおもっても、「じゃあ今回からSubscribeがでてきたら登録にしよう」とはいかないのです。

私はUXのことはあまり詳しくないですが、UXを考える上で、同じ言葉で語られることはとても好ましい、原則といってもいいレベルだと私は考えます。というか、これはUXに限らず、文章を書くなら大体そうです。表記ゆれは混乱の元です。

例えば、メールの送信ボタンに「送信する」を使っているのに、ヒントの訳に「メールを書きあげたら『送る』を押してください」と書いてはいけないのです。細かいことで、あたりまえのことに思えますが、長く続けるとこれは本当に大変だけどとても重要なことになってきます。

訳が、きちんともとの意味・文脈で伝わらないことは大きな問題です。
次に、表記ゆれを引き起こしてユーザーを混乱させてしまうことが問題です。
だから、きれいな訳ができなかったとか、気になりますけどそれは優先度は最後と考えていいと思います。

おわり

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