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Huawei Kirin9000s噂のアップデート

Huaweiが中国製を謳うKirin9000sチップを使用しているとされる5G世代スマホMate60Proに続き、MatePad Pro 13.2"という同社フラッグシップ級タブレットの製品発表があり、中華圏では期待が高まっているようです。

Huawei、580gの世界最薄最軽量タブレット「MatePad Pro 13.2」

プロセッサについての言及は無かったとの事で、やはりアメリカの先端半導体輸出規制を意識しているものと思われます。

Kirin9000sチップについては情報が乏しく三種類あるなど憶測を呼びましたが、これはベンチマークソフトなどの不正確なデータベース情報による誤報だったように思われます。

解析チームによると思われるチップを透過撮影したダイショットも少しずつ出てきています。

やはりTSMC製造だった5nmのKirin9000と比べるとダイザイズも異なっており機能配置から違っている様子が見て取れますので完全に別の設計であることが伺われます。

Kirin9000sの透過X線検査装置によるIC内部観察と思われるダイショット。


TSMC製のKirin9000の透過X線検査装置IC内部観察と思われるダイショット。

Kirin9000sチップで目を引くところ

構成は
CPU
1 x Taishan V120 (Modified Architecture) @ 2.62 GHz
3 x Taishan V120 (Modified Architecture) @ 2.15 GHz
4 x Cortex-A510 @ 1.53 GHz
GPU
Maleoon 910@750MHz

というのが有力なようです。

5G通信モデム機能

注目はまず5G通信を可能にする機能がKirin9000同様に統合されています。

Huaweiは元々5G通信に注力してきておりかなり高い技術力を有していましたが、その製造についてはTSMCなど外部に依存してきました。
しかしアメリカの先端半導体輸出管理強化によって事実上、外部調達手段を封じられ4G世代に限定されてきましたが中国国内で自前で5G通信を実現したと言う意味は大きいと言えます。

もっとも、Mate60Proの実機を入手したユーザーレポートでは中国以外の国では5G通信が安定しなかったなどの報告も散見されます。
意図的に中国国外で使用を制限するようになっているのか、通信規格のローカルな差異に対応せず動作保証外となっているのか、そもそも安定動作しないのかはよく分かりません。

Taishan V120はArmv9アーキテクチャ?

そして独自CPUとされるTaishan V120です。これは
Armv8aアーキテクチャ
Kunpeng(鯤鵬)920由来
Armv9アーキテクチャ

など憶測を呼んでいます。

Taishan V120はKirin 990Aという車載システム用にモディファイ版が採用されていると言われており2021年4月20日付の記事にその名前が見られる事からKirin9000sチップの設計もこの頃に遡る可能性があります。

Armv8aやArmv9というのは英ARM社が開発、提供するArmアーキテクチャのバリエーションでArmv8xは第8世代、Armv9は第9世代になります。

半導体チップの設計にはどういった性能を持たせるかと言う機能設計、構成する回路を設計、検証する論理設計と工場で生産する際に使用するマスクに落とし込むための物理設計などがあり、Armアーキテクチャはソフトウェアがハードウェアを動作させる際の論理設計を規定した基本構成設計データ群で、これを用いて設計すれば大幅に設計コストを圧縮できる事から多くのスマホ・タブレット用チップ設計で採用されており、事実上のデファクトスタンダードとなって来ました。

ARM社はかつてアメリカ政府の技術輸出禁止措置やイギリス政府の技術ライセンス禁止措置を受けてスーパーコンピュータなど最先端CPU IPのNeoverse Vシリーズの中国企業への提供を見送った経緯があります。

比較的クロック動作周波数の低いスマホ用のアーキテクチャはこれらの規制には掛からないとされていますが、Armv9は日本のスーパーコンピュータ「富岳」で採用された「A64FX」の拡張命令セットSVE2に対応しており、複雑な演算処理を行列としてまとめて処理できる事から機械学習やデジタル信号処理の強化に威力を発揮し、これを新たに中国側にライセンスしたのかについても憶測及んでします。

というものArm社の中国国内でのライセンシー事業を手掛けていたArmチャイナのCEOが解任決議に同意しなかったばかりか、会社の実印(公章)を引き渡さずに中国国内で独自の事業展開を始めてしまう「お家騒動」があった(中国では実印を持っている者が企業経営を行うと見做される)ため、このゴタゴタにより英国で開発されたArmv9についてはArmチャイナには提供されておらずこれまで中国ではどこも保有していないとみられていたため今回のKirin9000sチップデビューによって再び注目を集める事となりました。


このように製造手法以外にも不可解な点が多く、謎が謎を呼ぶKirin9000sチップですが、今後新たに決定的な情報が出て来るのか、そして米中を巡る半導体競争がどうなっていくのか当面注目しておく必要がありそうです。

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