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短歌一首評

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【短歌一首評】朝雁よ つがひを群れを得て我はあまたの火事の上を飛びたし/七戸雅人

【短歌一首評】朝雁よ つがひを群れを得て我はあまたの火事の上を飛びたし/七戸雅人

朝雁よ つがひを群れを得て我はあまたの火事の上を飛びたし
 /七戸雅人「果樹園の魚《うを》」『羽根と根』創刊号

大意を取れば、孤独な〈我〉が地上から朝雁の群れを見上げ、その一員となって自分も空を飛びたいと思う、となろうか。

〈朝雁〉〈我〉〈あまた〉〈火事〉など文節の頭に顕われるA音の軽やかさと、〈よ〉〈〜を〜を〉〈〜の〜の〉という文節の末尾に隠されたO音の重たさが、あたたまった空気のような浮遊

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【一首評】失くしてはカラスのように手に戻る黒いカシミアのカーディガン/花山周子

【一首評】失くしてはカラスのように手に戻る黒いカシミアのカーディガン/花山周子

失くしてはカラスのように手に戻る黒いカシミアのカーディガン/花山周子『風とマルス』

 カーディガンはほんとうによく失くす。羽織ったり脱いだりすることで体温調節ができるし、丸めて鞄の中に入れてしまえばそこまで嵩張らない。黒なら色んな服に合わせられて、ちょっとフォーマルな場所でも大丈夫。カシミアだからちょっといいもので、でも、勿体なくて着られないほどの高級品ではたぶんない。つまり便利で、よく着ていく

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【一首評】睡蓮のつどふ水平 生きしのちを搬びいださるるひとの水平/小原奈実

【一首評】睡蓮のつどふ水平 生きしのちを搬びいださるるひとの水平/小原奈実

睡蓮のつどふ水平 生きしのちを搬びいださるるひとの水平/小原奈実「野の鳥」『穀物』第二号

 「睡蓮」のイメージに、「水平」の文字に、「すいれん」/「すいへい」と繰り返される「すい」に、そこにあるはずの「水」は想起されながら言及されないがために、まるで睡蓮がおのずと寄り集まって〈水平〉を形成しているかのように見える。水面の〈水平〉があらかじめあって、そこに睡蓮が付け足されているのではなく、睡蓮みず

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