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J・B・テイラー『奇跡の脳』にて(言語)

今回の記事は、過去の記事「J・B・テイラー『奇跡の脳』にて」のつづきです。テイラーさんは脳卒中で言語中枢を損傷しました。

テイラーさんは、「読むこと」を学び直さなければいけませんでした。

 字を読むという考え自体、馬鹿げたことに思えました。わたしにとって、それはすごく抽象的な概念でした。「読むこと」を思いついた人がいるなんてとても信じられない。ましてや、その方法を見つけないといけないなんて考えたくもないわ、って感じです。

――p.157 9章「治療と手術の準備」

物心がつく前の私たちが、読むことの訓練をするときに、感じていたと思われるモヤモヤを、テイラーさんは、言語化しています。

 まずはじめに、すべての曲がりくねった染みには名称があり、それに音がついていることを学ばなくてはなりません。その次に、くねくね曲がった染み、えーと、「文字」の組み合わせが、まとまって、「シュ(sh)」とか「ス(th)」とか「スク(sq)」というような特殊な音を表すことも、知る必要がありました。そうした音の組み合わせを全部つなぎ合わせると、ひとつのまとまった音(つまり「単語」)になり、しかもそれには、意味がついているだなんて! ありえない!
 この本を読んでいるこの瞬間、あなたの脳がどれだけ多くの細かい仕事をこなしているか、ちょっとでも考えたことがありますか?

――pp.158-159 9章「治療と手術の準備」

 やがて、ひとつの単語を読み、その音にひとつの意味を添え、次の単語に移ることができるようになりました。
 問題は、ひとつの瞬間を次の瞬間につなげられないこと、つまり時系列で考えられないこと。あらゆる瞬間が孤立して存在しているかぎり、概念や言葉をひとつにまとめることができないのです。

――pp.187-188 11章「最も必要だったこと」

さて、テイラーさんは、言語中枢が回復して機能し始めると、左脳マインドの振る舞いを観察して、注意すべきだったことに気づきます。

 左脳の最も顕著な特徴は、物語を作り上げる能力にあります。左脳マインドの言語中枢の物語作りの部分は、最小限の情報量に基づいて、外の世界を理解するように設計されています。それはどんな小さな点も利用して、それらをひとつの物語に織り上げるように機能するのです。

――p.233 14章「わたしの右脳と左脳」

だが、その左脳マインドを野放しにすると、痛い目に遭うようです。

 残念なことに、社会は子供たちに「心の庭を注意深く手入れする」必要をちゃんと教えません。
 何らかの骨組みや検閲や規律がないと、思考は自動操縦で勝手に動きまわります。わたしたちは、脳の内側で起きていることを注意深く管理する方法を学んでいません。ですから、自分について他人が考えていることだけでなく、広告や政治による操作に対しても、無防備でなされるがままなのです。

――pp.234-235 14章「わたしの右脳と左脳」

どうやら、読むことに慣れていても、読むことを身につけるために必要としたエネルギーと同量のエネルギーが、無意識に使われており、それを、言語中枢として機能する脳細胞が、支えているようです。

また、自動操縦の思考は、意識的に、何とかしなければならない。

以上、言語学的制約から自由になるために。つづく。