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今井むつみ/秋田喜美『言語の本質』にて(ミッシングリンク)

今回の記事は、過去の記事「今井むつみ/秋田喜美『言語の本質』にて(アイコン性の輪)」のつづきです。哲学的平面の深さに触れました。

著者たちは、アブダクション推論のうち、ヒトには対称性推論と相互排他性推論があり、動物にはそれらがない、と指摘しています。

 すでに述べたように、言語の学習には、記号と対象の間の双方的な関係性を理解し、どちらかの方向(たとえば記号A→対象X)の結びつきを学んだら、その結びつきを逆方向(対象X→記号A)に一般化できると想定する必要がある。ヒトの子どもがことばを覚えるという事実は、その時点で対称性推論を行っていることを示している。
 対して、ヒト以外の動物種では、ほんの少数の(グレーな)例外を除いて対称性推論は行わない(あえて行わないのか、行えないのかはわからない)。これらの観察できる事実からアブダクション推論を行うと次のような仮説が得られる。そう、対称性推論をごく自然にするバイアスがヒトにはあるが、動物にはそれがなく、このことが、生物的な種として言語を持つか持たないかを決定づけている、という仮説である。これはもちろん、著者たちがはじめて考えついた仮説ではない。動物の思考を研究する研究者たち、とくに対称性推論を研究する研究者たちがずっと昔から指摘してきたことだ。

――pp.234-235 対称性推論のミッシングリンク

 興味深いことに、何年も前に行われた、別の刺激と手法を用いた以前の実験でも、クロエ(実験に参加するチンパンジーたちのうちの一頭)だけ対称性推論を行っていることを示唆する結果が報告されている。さらに、クロエは対称性ではなく、相互排他性推論をチンパンジーとしては特異的にすることも報告されている。相互排他性推論とは、人間の子どももことばの意味を学習するときによくする推論で、名前を知っている対象と名前を知らない対象を目の前にして、知らない名前を聞いたら、その新奇な名前は名前を知らない対象の名前だと思うという推論である。……
 クロエだけで結論づけることはできないが、クロエが過去の実験でのふるまいと、今井たちの対称性のヒト・チンパンジーの比較実験とで、一貫して対称性をはじめとした非論理の推論を見せたことを考えると、チンパンジーの中にも、ごく少数であるが対称性推論ができる(あるいはしようとする)個体が存在しているのかもしれない。だとすれば、人間特有のアブダクション推論の萌芽は、私たちの祖先にすでに存在しており、進化の過程で徐々に形成されていったものであるという可能性が浮かび上がってくるのである。

――pp.243-244 「クロエ」とアブダクション推論の萌芽

ここで、スピリチュアルなアブダクション推論をぶっこみたい。

地球での経験しかない動物とは違い、ヒトの霊魂は、別の惑星での経験もあるから、飛躍した言語表現ができるのではないか。

チンパンジーたちも、数万年か経てば、ヒトと同等にアブダクション推論ができるようになるのでは……。

いや、テレパシーによる意思疎通ができるなら、今、こうして使う言語のようなものをわざわざ創作する必要がないのだけど。

以上、言語学的制約から自由になるために。