神経質がゆえの悲劇

現代において、「鈍感力」を要求される局面は少なくない。 何事にも鈍感であれば、悩むこと…

神経質がゆえの悲劇

現代において、「鈍感力」を要求される局面は少なくない。 何事にも鈍感であれば、悩むことも少ない。 誰に何を言われても堪えない、感じない、考えない人間は強く動じず壊れない。 それでも、敏感さを捨てたくないと日々悩み苦しんでいる。

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映画の感想 - 一月の声に喜びを刻め

ポスタービジュアルの、あっさん (前田敦子) の美しい横顔が目に止まり、チケットをジャケ買いした。 あっさん主演かと思いきや、四部構成の映画。それぞれに物語が違えば主人公も違う。あっさんは第三部の主人公役で、第四部にも登場した。 物語の展開は、概ねゆっくりで静かだ。 もし円盤化または配信化されたなら、ほとんどのイマドキ消費者は倍速再生を始め、自らのスマホを取り出し弄りたおし、作品をほとんど観ることなく「駄作」とこき下ろすだろう。 だが、登場人物の表情や声量そして間、ちょ

    • 漫画の感想 - MF ゴースト

      社会現象すら巻き起こした大ヒット走り屋漫画、「頭文字 D」。 その流れを汲む、同じ作者による「MF ゴースト」。 何話かは逃しているが、第一話から継続して読んでいる。 結論から言うと、残念ながらあまり面白くない。 「頭文字 D」の次回作だから、という過度な期待をいったん捨て去っても面白くない。いや、面白くないだけならまだしも、漫画としてちゃんと描かれていない。 個人的に最も違和感を覚えるのは、この作品における設定や世界観だ。どんな作品でも世界観の構築は大変だが、これさえ

      • ドラマ感想 - ミエリーノ柏木

        ついに入手、「ミエリーノ柏木」Blu-ray BOX。 この 5 年ほどずっと、Amazon のほしい物リストに入っていたこの商品。新品の価格下落にともない中古の値も下がり、ようやく手が出た。 柏木由紀が主演というだけで観はじめたドラマだったが、それまでのドラマのどれにも似ていない新しさと独特の空気感があり、あっという間に魅せられてしまった。 主人公の柏木 (柏木由紀) は、手に触れるとその人の恋愛に関する未来が見える能力の持ち主だ。柏木が従業員として働くカフェは、裏稼

        • 都会にある峡谷

          金曜日の、珍しく出社の日。 キッチンカーの出店情報を知らせてくれるアプリ、SHOP STOP が教えてくれたのは、職場から 10 分ほど歩いた場所にある「ヒビコクテラス」。 この日に利用したのは、アジアンごはんのキッチンカー、「es.tokyo」。ナシゴレン、アジアンミートライス、ガパオライスの三種類から選べる。ナシゴレンかガパオか悩んだ末に、その 2 つのハーフ & ハーフにした。どちらかを売るキッチンカーの数あれど、両方となると、過去に経験がない。 ありそうでなかっ

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          映画の感想 - ゴールデンカムイ

          本作には正直、あまり期待していなかった。 全話を読了した原作ファンからすれば、山崎賢人が杉元役という違和感は大きかったし、劇場版になると原作の良い場面や展開がバッサリ切られてしまうなんてのは、ほかの作品でさんざん味わってきたからだ。 だからアシリパ役の、青い瞳の山田杏奈ちゃんが見られるだけでいいや、という気持ちで映画館へ向かった。 結論から言うと、かなり良く出来ていて面白かった。原作単行本の第 3 巻までの 20 話を 2 時間に短縮した割には、無理がなかった。日露戦争

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          旅情の泉

          東京駅八重洲口のバスターミナルほど、旅情感に満ちた空間はそうそうない。 たとえば新宿のバスタは、あの建物に入らなければバスや待っている乗客が見えない。だが、ここ八重洲口は東京駅に向かって傍を歩くだけで、旅情感に包まれる。 それは、バス待ちの乗客が抱く、旅へのワクワク感や緊張感のおこぼれなのだ。疲弊した仕事終わりでも、ここを歩くだけでなんとも豊かな気持ちになる。そして、八重洲口を歩く度に「ここからバスに乗って、どこかへ行きたい」と思うようになった。 だから高速バスのチケッ

          映画の感想 - 彼方の閃光

          キービジュアルだけで観ようと決意し、ムビチケをジャケ買いした、「彼方の閃光」。例によって、物語の筋は公式サイトに書かれている範囲に留めておく。 第一部は、視力を失った主人公の光が、自分には見えない世界や色に想いを馳せるところから始まる。光は手術によって視力を取り戻すのだが、その目が色を認識することはなかった。 第二部。美大に入った光は、ふとしたことから東松照明の写真集に感銘を受ける。そして吸い寄せられるように訪れた長崎で出会った人物に共感し、ともに戦争を題材にした映画制作

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          映画の感想 - 正欲

          またも事前情報なしでチケットをジャケ買いした映画、「正欲」。 原作は朝井リョウの大ベストセラー作品らしいが、もちろん読んだことはなく映画の予告編すら観ていない。しかし、大当たりの大満足だった。 誰にも言えない性的指向を持ち、一般人に紛れようと必死で毎日を生きる者、性的なトラウマを抱える者、「普通」からはみ出ることを嫌悪する主人公の検事が関わりあい、これまで見たこともない物語が紡がれていく。 主題がなぜ「性欲」ではなく「正欲」なのか、その理由は登場人物の台詞によってではな

          ドラマ感想 - 泥濘の食卓

          きょんこ(齊藤京子)となのかちゃん(原菜乃華)が出てるだとお!?だったら観るしかないじゃないか! そんな些細なきっかけだったが、なかなかの傑作だった。20 代そこそこの女の子が、妻子持ちの初老オッサンに恋して不倫に浸かるという、ドラマではよくある内容。しかし、物語はむしろ斬新で、ありがちな展開を予想させながら裏切るという、実にニヤリとさせる構成で、その速度は二次関数的に跳ね上がり、一気に最終回まで駆け抜けた。 きょんこの演技力は、これまでのドラマで理解していたつもりだった

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          ドラマ感想 - 何曜日に生まれたの

          今期 (2023 年夏)、最も熱中したドラマ「何曜日に生まれたの」が、ついに最終回を迎えた。 観たら終わってしまう、そんなの嫌だ。だけど、観ないのはもっと嫌なんだ。同枠の前期ドラマ「日曜日の夜ぐらいは...」に続いて、そんな気持ちにさせてくれる、稀有な傑作だった。 正直、ここまで観てきて主人公すいの感情をほぼ理解した自負のある自分は、最終話の開始 10 分ほどで、結末はなんとなく予想できていた。 こう来てこうなってこう見えるけど、実はこうだった。そんでもって、こう来ると

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          映画の感想 - 山女

          山田杏奈ちゃん主演というだけで観に行った、「山女」。 販促の類いは YouTube の予告編と、Twitter のお知らせくらいのもの。だったら、徹底して事前情報を遮断した方が良いと、予告編すら観ずに映画館に向かった。 物語の舞台は、冷害が二年続いた 18 世紀の東北地方。江戸時代は、天明の大飢饉の頃である。 山田杏奈が演じる主人公は、曽祖父が起こした火事のせいで田畑を取り上げられ、汚れ仕事を押し付けられた家に生まれた娘。理由は語られないが母親はおらず、父親と、盲目の弟

          ドラマ感想 - 日曜の夜ぐらいは...

          すっかり忘れていたが、思い出したのでようやく書く。 7 月になった。 ついに、「日曜の夜ぐらいは...」が最終回を迎えてしまった。 初めは、めるると清野菜々ちゃんが出てるから観よう、ぐらいのカルい気持ちだった。だが、泣きながら第一話を観終わった頃には、生きる活力にまでなっていた。 同じラジオ番組を聴いている、たったそれだけの共通点で偶然に出会った三人が、人生を共に歩むかけがえのない関係になってゆく。 その過程を、実にありありと、時には激しく、またある時には美しく描いた

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          漫画の感想 - サイクリーマン 第一巻

          部活や競技で勝ち進む物語はさんざん見てきたので、こういうマンガを求めていた。 題名や表紙で分かるように、忙しい勤め人が週末に自転車を楽しむ物語。「のりりん」や「ろんぐらいだぁす!」寄りの世界観。 自分の足で遠くまで自転車を走らせ風景や食事を愉しむ、自転車の根源的な魅力。それを作者の絵柄と、登場人物が醸し出す、ゆったりのんびりした雰囲気で以て表している。 荒川サイクリングロードや大垂水峠など、関東のロードバイク乗りにはお馴染みの場所が登場するのも嬉しい。行ったことのある場

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          舞台の感想 - 明日の卒業生たち

          其原有沙ちゃんの姿をこの目で見て、声をこの耳で聴きたいんじゃあああーあああ!! そんな理由でチケットを買ってしまった、「明日の卒業生たち」。 題名やポスターのふわっとした春の雰囲気から、良くある学園青春ものかな、なんて想像していたがさにあらず、とんでもなく斬新な快作であった。 「これより、卒業式を始めます」 教師と思しき男性の掛け声で、学生服その他の服を着た演者がどかどかと舞台に入ってくる。その場所は卒業式会場と思われるが、明らかに学生ではない者たちも紛れ込んでいる。

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          舞台の感想 - たぶんこれ、銀河鉄道の夜

          本作を知った経緯は、三ヶ月ほど前に観に行った別の舞台の劇場でもらったチラシだった。 単に「銀河鉄道の夜」を題材にしているから観ようかな、くらいの軽い気持ちでチケットを買った。所謂ジャケ買いだったのだが、予想を遥かに超えるとんでもない舞台だった。 「たぶんこれ」という語句とピンク基調のポップな印象のポスターから想像できるように、本作は宮沢賢治の小説「銀河鉄道の夜」をパロディ化し、コントとミュージカルで再構成した舞台である。 美容師アシスタントとして働く主人公はある日、ふと

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          舞台の感想 - 夏の砂の上

          山田杏奈ちゃんの姿をこの目で見て、声をこの耳で聴きたいんじゃあああーあああ!! そんな理由で観劇に至った「夏の砂の上」。 (主役は田中圭) 凄まじく良かった。予想を遥かに超えて良かった。 舞台やミュージカルはそこそこ観てきたが、そのどれもがアンプとスピーカーを通して演者の台詞を聞くものだった。しかし、この「夏の砂の上」の演技はなんと肉声。自身の初体験であった。 世田谷パブリックシアターの三階、かなり高さのある席だったがすべての台詞が明瞭に聴こえ、角度や距離に関わらず表情

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