見出し画像

人類は常によりよい生活をめざして歴史を作ってきた。アグリストがデザインする儲かる農業で明るい未来が待つ。

地域ビジネスのプロデューサーとして、一過性ではなく持続可能なモデルで地方再生の結果を残してきた齋藤潤一氏。現在取り組んでいるのが農業用の自動収穫ロボットです。宮崎県新富町という人口約1万6000人の小さな町で自治体と連携しながら農家の声を聞き、名産のピーマンをロボットが自動収穫して日々データをAIで解析するスマート農業を実践しています。農業へのAI導入は国もバックアップしているいっぽうで、地元の理解や導入コスト、地域の通信基盤といった課題点も指摘される昨今、齋藤さんが見据える食の未来像は? 

(さいとうじゅんいち) 1979年生まれ。AGRIST株式会社代表取締役/一般財団法人こゆ地域づくり推進機構代表理事/慶應義塾大学大学院(SDM)非常勤理事。米国シリコンバレーのITベンチャー企業でサービス、製品開発の責任者として従事。帰国後、2011年の東日本大震災を機に「ビジネスで社会的課題を解決する」を使命に活動を開始。全国10箇所以上で地方創生プロジェクトに携わる。2017年宮崎県新富町役場が設立した地域商社「こゆ財団」の代表理事に就任。1粒1000円ライチのブランド開発やふるさと納税で寄付金を累計70億円集める。2019年農業課題を解決するために自動収穫ロボットを開発するAGRIST株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。https://agrist.com/

地方の農業の一番の課題は思い込みを解くこと。
まずは行動を起こして結果を出す。

――齋藤さんが農業をやろうと思われたきっかけは何ですか?

齋藤 極めてシンプルですよ。すべての事業に関していえるんですが、目の前に困っている人がいるから助けよう、自分の力のできる限り応援をしよう。まずはそこからです。課題があって自分がそこに貢献できる余白があったら「じゃあやりましょう」と動く。

――それが農業だったということですね?

齋藤 はい。今関わっているアグリストでいうと、アグリストの創業前に(宮崎県)新富町の農家さんと2017年から2年間くらい勉強会をやっているとき、農業には課題がたくさんあって、かなり深刻な問題があることが見えてきたんです。それでも農家さんは一生懸命がんばっていましたが、これからはロボットが絶対必要じゃないか、という声が農家さんから聞こえてきまして。私は、テクノロジーは詳しいですがロボットは作ったことがないですから、各地の講演会で「ロボットを作っている人を探しているんですよね」と言ってまわっていました。そんなとき北九州工業高等専門学校で登壇した際、今のアグリストの代表取締役CTO(最高技術責任者)である秦裕貴(はたひろき)に出会い、ロボットを作ってみようかと始まりました。

――そもそも、どうして宮崎県新富町とご縁があったのでしょう。

齋藤 友人が新富町役場の人とつながっていて、新富町で作った財団(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構)で代表を探しているからやってくれないかというオファーが来たんです。実は一度、断ったんですよ。ちょうど同じ宮崎県の日南市でやっていた「飫肥杉プロジェクト」が終わって全国各地でまた企業家育成やプロジェクトを行っていた時期だったので、時間的にも無理だと判断しました。でももう一度依頼されて、改めて話を聞いていると、新富町の役場の人たちは本気で危機感を持って取り組んでいることがわかった。じゃあ、やってみましょうと。

――目の前に困っている人がいたから、自分が貢献できる余白を作られたんですね。

齋藤 結構、がんばって余白を作りました(笑)。「飫肥杉プロジェクト」でお世話になった宮崎の皆さんに恩返ししたい、貢献したいという気持ちも強かったですしね。2017年に「こゆ財団」ができ、代表理事に就任しました。

――そこですぐに「新富ライチ」のブランド化に成功されて。これまで地方に眠る特産品をプロモーションされてきた齋藤さんならではご提案です。

齋藤 おかげさまで、財団にそれなりの事業資金が入るようになりまして。続けてさまざまな施策に取り組んでいったんですが、そのなかで力をいれたのが町の主要産業である農業でした。ほかのエリアと同様、農業も高齢化が進み、人手不足が問題となっている状況でしたから、その問題を解決していこうと2017年に地元の農家さんを集めて勉強会を開くことにしたんです。

――勉強会で見えてきた課題というと、具体的にはどういうことでしょう?

齋藤 一番の課題は「農業ってこういうものだ」という思い込みを解いていくことでした。農家というのは地元のなかでサイクルがおさまるうえ、親から子へと引き継がれていくケースが多い。だから異業種でありよそ者である僕は異端児扱いをされてしまうことも多いんです。それがやりにくさを生むこともありますが、逆に、よそ者だからこそ言えることを伝えていきたい。それは行動で見せるしかない。自分たちが考える理想の農業をやって結果を見せればいい。そう考えました。そのためにはまずは現状のリサーチもスピーディーにできる勉強会が必要で、そこで農家の人たちの生の声を拾いました。農家さんのなかに、今はアグリストのアドバイザーを務めてくれている福山望さんがいて、彼を中心に問題解決のためにはテクノロジーを取り入れていこうという動きができていきました。福山さんがピーマン農家だったので、まずはピーマンの収穫を自動収穫ロボットでやっていこうとしたんです。

――ロボットを作ろうと決めてどのくらいでできたんですか?

齋藤 デモ機ができたのは半年くらいですかね。

――それは早い! 自治体って決定までにすごく時間がかかる印象があります。

齋藤 デモ機開発は自治体に依存せず、僕が決断して進めました。それと、開発を始める前にまずは2年間、定期的に農家さんと勉強会を設けた影響も大きかったと思います。こういうロボットを作って欲しいという意見をあらかじめ聞いていたので、我々も迷いがなかった。彼らのリクエストはとてもシンプルで「使いやすいこと」「なるべくコストが安いこと」でした。

――HPでロボットの動画を拝見しましたが、確かに、すごくシンプルに見えました。

齋藤 収穫のための要素以外は必要ないという意見が圧倒的でした。実際、いろいろな機能がついていても全部を使いこなせないし、その分、コストばかりがかかってしまうというものが多かった。ならば必要最低限のものを揃えようという話になって、今の形になりました。そして、開発をしながら自分たちでも農業ができるロボット開発専用のビニールハウスも作りました。

――最初からうまくいったんですか?

齋藤 いえ。デモ実験では収穫できるのに、実際の農場ではできないことは多かったです。ただ、農場のすぐ近くに我々の会社があるので、問題があったらすぐに対処できました。そしてその失敗もデータ化してフィードバックし、解決策としてデータ化できる。我々の強みですね。

データ化し、農業を核にして同心円的に
広げていく「儲かる農業」の仕組み

齋藤 種まき、苗づくり、ロボットでの収穫、発送までが農場での仕事ですが、僕らは収穫物もさることながら、データをとることが一番大事だと思っています。農業で利益を出していくのは収穫物の量だけではなかなかむずかしいことです。データとともに、テクノロジーを活用した農業をいかにパッケージ化していくかが、儲かる農業のための大きなポイントだと考えています。僕たちの農業のコンセプトは「テクノロジーを活用して儲けること」「社会的課題を解決していくこと」です。そして1haが1億円になるモデルを僕たちは設計しています。

――1haで1億!? 計算しやすい数字というのがいいですね。

齋藤 ハウスで管理し、タネから収穫、流通まですべてを画像や数字でデータ化して活用したものを、自社の農業と自治体や企業と連携してパッケージ化していくことで効率化され、目標とする利益が生まれていきます。現在は1ha1億円規模をめざしていますが、今後、全国で100ha100億円にしたいですね。そうして得られたデータをさらに活用していけば、もっと効率的で利益率の上がる農業ができてくる。

――大きな企業だからこそ生まれる取り組みや利益があると。

齋藤 企業と組むからこそ、SDG’sといった社会的課題の解決を、スピード感を持って進めることもできます。地方の創生を補助金などの公金に頼ることは一過性であって、持続可能ではないです。公金に頼らないようにするには、ビジネスで地域にお金がまわるシステムを作っていくというのが僕のミッションですからね。農業を柱にたてると、農業に関わる金融、保険、不動産、採用などもフォローアップすることができます。国と提携して、さらにまた新しいパッケージができて、世界の食料課題を解決し、農業全体の利益が上がっていけばいい。

――話を伺っているとすごく順調に進んでいかれそうですが、むずかしいことはないのでしょうか?

齋藤 それはあります。やはり気候ですね。ハウス内で育てても天気次第で生え方、育ち方が変わります。それがロボットでどのように対処することができるのか。でもそうした変数の多いデータをとってフィードバックして解決していくことも大事なミッションです。

人類の歴史は常に“今よりもよりよく”を
繰り返してきた。儲かる農業で食の未来も明るい。

――その気候が変動していることが世界の大きな問題となっていて、それが未来に対してネガティブな意見となって出ているように思うのですが。

齋藤 ネガティブな意見っていつの時代も出てくるものではないですかね。でも、そうしたネガティブな警笛があるからこそいったん立ち止まれます。よく言われることですが、地球上のとてつもなく長い時間のなかで、気候変動は常に繰り返されてきたわけで、人類が誕生してからもそれはあったことです。でも人類は自分たちの英知でどんな危機でもこれまでなんとか乗り切ってきました。対策を練ることは必要ですが、必要以上に恐れてもしょうがない。4月に宮崎で開催されたG7宮崎農業大臣会合で課題となったように、食料問題は世界的な問題となってくると思うし、食料の奪い合いになってくるとは思います。大量に食べ物を捨てる国がある一方で、飢えて亡くなる人たちがいる。そんなバランスの悪さがある世界で、なんとか是正していく動きが出て、そのバランスをとっていくことが我々の課題だと思っています。

――行ったり来たりしながら、それでもバランスをとっていくのが世界であり、人類であるということですね。

齋藤 極端な動きがあればあるほど、それを戻そうとするパワーが生まれるものですよね。テクノロジーが進化することによって管理はしやすくなって、そうしたパワーのバランスはとりやすくなると思っています。そして食料問題に関して僕がいえることは、食料問題はどんどんよくなっていくということです。現在の食料事情は100年前よりもはるかに豊かだし、娯楽性はあるじゃないですか。30年後も100年後も今よりも確実によくなることは間違いない。未来は明るいです。

――未来は明るいのか! ここのところ、どよ~んとした話題が多くて、暗くなっていました(笑)。

齋藤 食に関して二極化はしていくでしょうね。エンターテインメイトとして追及する食と、人間の健康として追及する食は明確に分かれてくると思います。カロリーや塩分を摂取しすぎたら普段の食で控えめにしてバランスをとるとか、ウコンを飲んでからお酒を飲むとか、そういう時代ですからね。ある意味それは、選択の自由ができて喜ばしいことです。テクノロジーやバイオ、医療が発達していって、「センズ」や「ベースフード」みたいな完全栄養食があって、1個食べれば1日OKみたいなものもある。いっぽうで娯楽としての食や、一汁三菜を日々の理想の食とする概念が変わらずある。30年前にはなかった状況ですからね。30年後にはきっとまたその時代に合うように好転した食の状況が待っているんだと思います。

――齋藤さん、もしかして食いしん坊では? ウコンを飲んで飲むタイプでしょう?

齋藤 ハハハ(笑)そうですね。根源的に食べることは好きです。食べることは悦びだし、自分ごとになりやすい。だからこそ明るい方向に考えてしまうのかも知れませんね。昔は治らない病気が治るようになったし、平均寿命も延びました。それと同じで、食料の問題が起こったとしても、きっと解決されます。その役割をなすのがテクノロジーです。いつの時代でも問題は起こるものですが、いつの時代でも改善策がある。それを信じて、宮崎県の、世界でもまだほとんど知られていない小さな町からでもイノベーションを起こしつつあるわけです。ほかの自治体がそれを見て刺激を受けて、日本に、そして世界に派生して食料問題までも解決できる。そこに光を見てチャレンジしていきたいです。夢がある。そして、やっぱり未来は明るいんです。

インタビュー:吉川欣也、土田美登世(構成含)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?