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もっとも身近な食を見直すことが環境保護と平和につながっていく

30回目となる節目の今回は趣向を変えて、30年後に社会を動かす役割を担う20歳前後の食を専門に学ぶ学生20名に、30年後の食を考えてもらいました。理想ではなくリアルに捉える若い世代の意見です(写真はイメージです)。


テクノロジーとカスタマイズされたサービスの充実

① N・Tさん
気候変動が激しい昨今では、農作物が収穫できるときに収穫して、保存する技術がより求められるように思っています。そこで、冷凍食品のニーズが高まると考えます。そのための技術開発が進み、現段階ではまだ冷凍に適してないもの、絶対に無理といわれているものでも冷凍ができるようになるでしょう。うどんやパスタも昔は冷凍なんて考えられなかったと聞きますが、今は当たり前のようにあります。

たとえば、ホウレン草などの青野菜は一度下ゆでしないと冷凍ができませんが、生のままで冷凍できるようになるかも知れません。ただ、冷凍食品は冷凍だけではなく解凍技術も求められます。保存性に重点を置いた冷凍解凍の技術開発が進むことを望みます。

② K・Sさん
食に対しての意識が嗜好性というより機能性に移行してきます。そして各個人の栄養状態にあったオリジナルの食べ物を、既存の農作物ではなく、誰もが人口的に作れる時代になると思います。たとえば3Dプリンターのようなもので、味や成分を自分で設定して、プロテインパウダーや炭水化物パウダー、ビタミンパウダーなどを配合してパン焼成機や炊飯器のようにスイッチひとつで食べ物を形成するイメージです。これが普及したら、自分に不足している栄養素やカロリーを非常に簡単に摂取することが可能になります。

③ Y・Sさん
今日では健康意識や美意識の高い方が増えてきて、菜食主義やヴィーガン、さまざまなダイエットないしは美容のための食事コントロールを行っている人もいます。そのため、ニーズに合わせた栄養素が摂れる食事が求められます。人によって求めるものが違うため、配食サービスなど個人のニーズに適応したメニューやシステムが充実していくと思います。各個人の食情報のすみやかなIT化と共有がますます必要とされるはずです。飲食店やコンビニなど親しみのある身近な場所でも、というか、身近な場所だからこそシステムの改定が求められ、変化が起こっていくでしょう。

④ O・Sさん
外食業での接客はすべてロボットに頼るのではないでしょうか。ただそうなると、それらを動かすために電気などのエネルギーが必要となってくるはずです。首都圏では電気不足となり、電気の高騰が起こる可能性があります。原発派と反原発派の意見が今まで以上に衝突するかも知れません。フードテクノロジーとよく聞こえてきますが、テクノロジー発達の向こうには電力が不可欠であり、原発に頼るのではない、電気に代わるクリーンエネルギーの開発のほうが今後30年、急務のように思います。

⑤ M・Mさん
世の中は今まで以上に急速に機械化になっていくでしょう。30年後の食はいろいろと活性化していくと思いますが、それでも人間の技術にはまだまだ勝てない部分もあると信じたいです。うどんを打ったり、タコ焼きを焼いたりと、機械でもおいしくできるかも知れませんが、そこには安定性とおもしろさはあるけれど人の温かさはありません。たとえば祭りの屋台のロボットは、最初はおもしろいけど、どうも嫌です。人の精神のよりどころである祭りには人がいてこその温かさや、にぎやかさが必要だからです。いわばAIにはできないことを人間は守っていきたいです。

⑥ H・Aさん
より便利に多様化していると思います。未来というと大まかに「ハイテク」「便利」というイメージを持つので、食の世界も同じだと考えています。たとえば冷凍やレトルト食品の技術が発展して、より簡単に、家で作ったできたてのものと栄養的にも味的にも同じものが食卓に並ぶように思います。もちろん、今でもおいしく本格的な冷凍食品はたくさんありますが、おいしさ「+α」として地球環境に配慮したり、ヴィーガンやアレルギー、宗教などで食べることに制限がある人にも配慮したりした冷凍やレトルト食品ができると思います。

健康の意識も高まっていると思うので、減塩に気を付けている人や鉄を多く摂りたい人などに向けての新しい食品ができているかも知れません。栄養といえば、個人的な願望ですが、野菜の味が変わって欲しいと願います。実は生野菜の味と食感が苦手でサラダはまったくと言っていいほど食べません。これからどれだけ食べるように頑張っても好きになることはないと思うので、野菜自体の味が変わって欲しいです。そうなると、遺伝子組み換えなどの品種改良でしょうか。それもちょっと抵抗はありますが。

環境問題の取組みと代替肉と昆虫食の普及

⑦ I・Sさん
環境を考えつつ、手間がかからない食が普及してくると思います。そのひとつが昆虫食です。ただ、実際に食べたことがありますが、グロテスクだしスナック菓子の程度だし、おいしく作ろうとしたものではありませんでした。人口増大や環境保護の考え方によってタンパク質を牛や豚ではなくそうしたものでとろうという考え方をするのであれば、スナックだけではなく惣菜業界へも参入し、缶詰、レトルトパックなどを本気で研究し、見た目もよく、味もおいしく、そして保存性の高いものにしないといけないと考えます。

⑧ M・Tさん
代替食品の普及や昆虫食の利用がより高まってきていると思います。代替肉はメディアやテレビで取り上げられることはありますが、実際の家庭での普及は特別なものでまだまだ少ないです。しかし、これらの普及によりアレルギーを持つ人や宗教的に食べられなかった方でもみんなと同じように同じ食卓で食べられるのはよいことだと思います。

昆虫食については、現在では「昆虫」と聞いただけで「絶対食べたくない」と思う人がいます。でも、カタツムリはエスカルゴとしてフランスでは食べられますし、アジア圏ではゲンゴロウを食べるし、などと考えると、要は食習慣や先入観によるもので、今後の調理やレシピの考案、教育によって30年後に昆虫食が浸透している可能性はあると考えます。

⑨ H・Hさん
肉がメインとなる料理は減少するでしょう。環境の問題もさることながら、人口に対する需要と供給の問題で、肉そのものが食べられなくなっている状況のように思います。よって代替食は今以上に研究が進み、商品化されていくでしょう。同時進行で、思考としてヴィーガンはますます支持されていくと思います。ちなみに環境の点でいえば、皆の意識が変わって、食べ放題や飲み放題の店はなくなると思います。

⑩ M・Sさん
現在の社会問題として著しい人口増加が挙げられています。国連の推測では、2030年までに85億人、2050年には97億人に到達すると言われていますが、今のペースでは予測を早い段階で追い抜くと考えられています。これより、人口増加による食糧需要の大幅な増加が見込まれています。一方、異常気象の頻発による安定した作物の生産難や輸送燃料高騰による輸入コストの増大など、近年のさまざまな変化によって食糧供給が難航する様子も見受けられます。また、食糧需要が高まる中、国連環境計画(UNEP)によると、2021年の世界の食品ロスは9億3100万トンと莫大な量を廃棄しています。内訳は、家庭排出6割、外食産業3割、小売業1割であり、家庭の食品ロスが多くを占めています。

上記の問題が発生しているにも関わらず変わらず「呈味性重視」「外観(見映え)重視」など、目先の幸せ(消費者ウケ)を第一とした従来の食事の提供を続けると、本来不要な食事のこだわりにより食糧不足に拍車がかかるため、食を未来社会に繋ぐことは不可能です。
持続可能な生活を送るために、私たちのもっとも身近な”食事”が見直され、全世界の食事傾向は質素なものに変容しないと、30年後の未来はないという危機感があります。

メッセージ性を持った飲食店が増える

⑪ K・Hさん
30年後はおいしい料理を提供するだけでなく、料理で作り手のメッセージを発信する店が増えると思います。口頭や文で伝えるより、料理の方が印象に残って考えさせられるからです。そのメッセージのひとつとして、今まで以上に環境を意識し、キッチンでの廃棄量の削減にもより力が入っていると思います。私は韓国の料理店でバイトをしていますが、メニューにひと口サイズの鶏肉を使った料理があります。それは店のメイン料理を仕込んだ際に出る、実は廃棄の部分を使った料理で、廃棄量を減らす工夫から生まれたものです。それでいておいしい。ただ、それでも余ることもあるので、閉店前に何割引きかで売ったり、揚げる量を調節したりして、その問題も解決しています。そうした意識を根本的なメニューの開発で持っていくことが必要だと考えます。自分が食の開発の仕事に就くときにはその点を意識していきたいです。

⑫ K・Sさん
日本の食材に特化した料理の提供が増えると考えます。価格高騰やSDGsという言葉をきっかけとして現実を知るようになり、世の食に対して危機感をもつ人が増えるのではないかという予想と、そう感じる人が増えてほしいという願望からです。日本は食材の輸入が多いためにフードマイレージが非常に高いです。異常気象によって農作物の生育や漁獲量に影響が出ることや、就農者の減少によって日本の自給率は下がる一方になる可能性があります。日本人が「日本産の食材を食べる」。その意識を我々世代が持つことだけでも、少しずつではありますが問題の解決に向かっていくと信じたいです。今よりもっと環境のことを考えた食事を選択する人が増えていてほしいですし、大手の外食・中食産業も、たとえば身近なコンビニエンスストアからでも、そうした意識を全面に出した商品が出るようになると願います。

⑬ T・Sさん
自分はハイエンドレストランに行ったこともないし、あまり惹かれませんが、30年後には「目で楽しむ」レストランが増えていくだろうと思います。すでにプロジェクションマッピングを使った料理がありますが、たとえばVRを使った料理も出てくるかも知れません。ただこれらはエンターテインメント的な要素が強いので、富裕層のためのものです。庶民のレベルでいえば、意外に、食はこれまで通りかも知れません。私は見た目やエンターテインメント性に価値を感じないので、このままのおいしい食生活が続けてばいいと願います。

⑭ S・Mさん
高齢者の割合の増加によって、高齢者に対応した外食メニューが増えていくと思います。固い肉や油っぽいものの人気が降下し、やわらかい食材を使った料理が増えるのではないでしょうか。飲食店の従業員のほとんどがロボットになるかも知れませんが、高齢者にやさしいロボットがいて欲しいです。今後の経済のことはまだよくわかりませんが、日本が世界との競争に勝てるかどうかは疑問です。となると、物価は上昇し続け、そもそも外食は一部のお金持ちのためだけのものになるかもしれません。

今からの食育が大切

⑮ S・Yさん
「食材をどこまで活用できるのか」という意識をさらに普及させないといけないと考えます。そのためには食育がとても大事だと思います。魚の皮には鉄分やビタミンA、D、Eなどが豊富に含まれていますし、野菜も皮に栄養が含まれていると言われますが、食べないという人もいます。これは幼い頃からの「当たり前」という意識が関係していると思います。私は「魚も野菜も皮が一番おいしい」と言われて育ったために魚も野菜も皮まで食べるのが普通でした。でももし「皮は食べないもの」と教わっていたら今も食べていなかったかもしれません。幼い時に食材を無駄なく食べる習慣をつければ大人になってもその習慣は自然と続けられると思います。

今の小学生は、私が小学生だった時には言われていなかったSDGsについて考える機会に恵まれています。我々が30年後を迎えるように、その子どもたちも30年後になって、「廃棄を作らない」習慣を伝え続けていくことで未来は明るいように思っています。

日本料理がさらに見直される

⑯ A・Tさん
日本の郷土料理の価値が今より高くなっていると考えます。30年後の日本は、高齢化や人口減少が進むといわれています。地方の過疎化によって地方に住む人が少なくなったり、核家族化がより進んで田舎の実家に集まることが減ったりすることで、郷土料理に触れる機会が今より大きく減るでしょう。実際、私自身、家で郷土料理を食べることはあまりないし、県外に住む祖父母の家で郷土料理を食べることもないので郷土料理に触れる機会の減少を実感しています。さらに高齢化が進むと、今まで郷土料理を作っていた世代が減少し、作り方を知らない世代が増えていくことになると思います。となると、作れる人が限られるようになるので希少価値が出てきて、今は家で当たり前のように食べられている郷土料理が、特別な料理として見直されるように思います。

⑰ T・Yさん
SNSの発達によって世界中の食が共有でき、食べた事の無い海外の料理が新しく日本の食文化に融合していく可能性があります。逆に海外の料理が日本の食文化と融合していくかも知れません。とはいえ、個人的にはラーメン、餃子、天ぷら、寿司などは伝統を守って欲しいです。これまでの伝統的な味わいを、海外のインフルエンサーや有名なサッカー選手などが大好物だと認めて発信しているわけですから、世界全体で「日本の食文化を守ろう」という機運が出てきて、我々のそうしたソウルフードもどんどん世界遺産のように守られていて欲しです。

⑱ M・Sさん
それぞれの国の食文化がいい形で融合していると思いたいです。現在は色々な場所で争いが絶えず、どんなこともSNSにアップされて良いことも悪いことも広まりやすい世界になっていて息が詰まります。人類のもっとも身近な共通項である「食事をする」という面から世界が平和になって欲しいと願います。世界中に根付く食文化が廃れたり無くなったりするのではなく、以前の良さも残しながら、その時代に合わせて進化していくのが理想だと思っています。

30年では変わらない

⑲ Y・Rさん
今とあまり変わらないと思います。というのも、食とは伝統的なもので、代々受け継がれ、後世へと渡るものであると思うからです。日本人が米を食べ始めたのは千年以上も前のことですが、現在の日本人も米を食べています。とはいえ、気候変動によって食べられない食も出てくるとは思うのですが、基本的には人類はゆるやかに適応していくでしょうから、長い人類史という目で見たらあまり変わっていないという結論になるような気がするのです。
究極の進化として、人類が食事を摂らなくてもよい体になるかも知れません。ただそうなると、人間かロボットかわからないですが。

⑳ T・Tさん
あまり変わってないと思います。今ある日本の食形態は、江戸時代に鎖国であった日本が開国して急速に海外と交流が増えたことによって食品、調味料などの種類が増え、調理法が入ったことによってまた変化し、多様化したものです。日本が世界と交流できる昨今で、これ以上の変化が見えるとは思いにくいです。あえていうなら、他の惑星と交流し、惑星料理が入ってくるようになれば変わるかも知れません。ちなみに惑星といえば、宇宙に行きやすい時代になっているかもしれないので、そうなると、宇宙食の開発がさらに進んでいそうです。

文・土田美登世

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