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大殿筋を機能させる運動療法とは~解剖・運動学・バイオメカニクスを考えて~

本屋に行くと大殿筋に関する本が沢山あります。

「〇〇には大殿筋」

「大殿筋を鍛えることで〇〇」

他にもSNSでは大殿筋を鍛えてヒップアップをしてきれいな姿勢を目指す、など一般の方にも浸透してきている筋肉の名前だと思います。

確かに大殿筋は重要ですがなぜそこまで大事なのか、ここを掘り下げて考えていきたいと思います。

大殿筋の役割、運動学、効かせ方、これらを理解したうえで運動指導をする

ここをゴールにします!

大殿筋の基礎解剖

大殿筋の基礎解剖から見ていきましょう!

起始:仙骨後面、胸腰筋膜と仙結節靱帯
停止:上部線維 腸脛靭帯
   下部繊維 殿筋粗面
機能:股関節伸展、外旋 前額面における骨盤の安定
神経:下殿神経(L4~S1)

大殿筋は股関節後面の全体を覆っている筋肉です。

一般的に「お尻」というと大殿筋を示していることがほとんどだと思います。

大殿筋の下には外旋筋や中殿筋、小殿筋などが存在しこれらも股関節の安定性を高めています。(大殿筋は主に前後方向の動きを制動している)

大殿筋の特徴として、

・浅層線維と深層線維が存在する
・上部線維と下部繊維に分かれている

このような特徴があります。

この辺りをもう少し詳しく見ていきましょう。


大殿筋の筋線維の違いによる役割

浅層線維は腸骨稜、上後腸骨棘、仙骨、尾骨から腸脛靭帯にかけて走行し、深層に比べて筋が長いことが特徴です。

引用:運動療法のための機能解剖学的触診技術


深層線維は腸骨外面、仙結節靱帯、中殿筋筋膜から殿筋粗面にかけて走行しています。

浅層線維に比べて筋は短いですが、直線に縦方向の走行をしているので股関節伸展に有利なつくりをしています。

引用:運動療法のための機能解剖学的触診技術


大殿筋はこの深層線維と浅層線維で構成され主に股関節の伸展と外旋を行っています。


運動軸から見た大殿筋の役割

引用:プロメテウス解剖学

大殿筋の走行に屈伸軸、内外転軸を書いた図です。

これを見ると分かるのは屈曲・伸展軸を中心に見てみると、

全ての線維は軸の後方に位置するので股関節の伸展作用があることは想像できると思います。

回旋軸を見てみても大殿筋は後方に存在するので外旋作用に働くことが分かると思います。

では、内・外転軸で見てみましょう。

引用:プロメテウス解剖学


上部線維は軸の上方(オレンジの線の上)にあるので股関節外転作用を有します。

下部線維は軸の下方にあるので股関節内転作用を有します。

つまり、大殿筋の働きとしては主に股関節伸展、外旋ですが、上部線維は外転、下部線維は内転に働きます。


一旦ここまでをまとめてみましょう。

・大殿筋は仙骨後面、胸腰筋膜から腸脛靭帯、殿筋筋膜を走行している
・大殿筋には浅層線維と深層線維がある
・大殿筋には上部・下部線維があり、上部は伸展・外転、下部は伸展・内転を行う

大殿筋は働き者ですね。


日常生活における大殿筋の筋活動パターン


大殿筋の筋活動パターンを研究した報告があります。

歩行や立ち上がりなど日常生活の様々な動きで大殿筋がどのような働きをするのか調べたもので一部抜粋してご紹介します。

歩行時の大殿筋の筋活動パターン

大殿筋下部線維は踵接地時の股関節屈曲の制動に関与し、大殿筋上部線維は立脚初期から中期にかけて股関節内転の制動、立脚中期で対側下肢を振り出すために立脚側の股関節外転による骨盤の立脚側への下制に関与した

つまり、歩行時は踵が接地するとき(IC)大殿筋下部が働き、

立脚初期~中期にかけて支持側の骨盤が外側に逃げないように大殿筋上部が制動している、

ということを言っています。

ICについてはこちら↓↓


立ち上がり動作の大殿筋の筋活動パターン

立ち上がり動作における大殿筋は動作開始直後より下部線維が先行して活動しはじめ、殿部離床にかけて筋活動が増大していく。大殿筋上部線維は屈曲相後半から活動しはじめ、殿部離床後の伸展相において筋活動が最大となる。大殿筋下部線維は遠心性収縮にて屈曲相における股関節屈曲に伴う体幹前傾の制動に関与

つまり、立ち上がりで体幹を前傾させると先に大殿筋下部の活動がはじまって、

そのあと股関節伸展していくにつれて大殿筋上部の筋活動が高くなっていることを言っています。



昇段動作における大殿筋の筋活動パターン

大殿筋は足底接地後より下部線維が活動しはじめ、その後に上部線維の活動が続く。大殿筋上部線維は対側下肢を段上へと上げるため、股関節外転作用にて骨盤の立脚側への下制に関与し、相対的に骨盤を対側に引き上げる作用として立脚相で大きな筋活動が必要

つまり、階段を上る時は足が地面に接地したら大殿筋下部が働き、その後大殿筋上部の筋活動が高くなる。

大殿筋上部の活動は歩行とほぼ同じで対側下肢(右足が地面についてたら左足)を振りたすために支持脚で制動している。


ここで共通して言えることは、

・大殿筋下部線維が先行して働きやすいということ
・大殿筋下部は遠心性収縮で制動
・その後に大殿筋の筋活動が高くなる
・支持脚を制動するのは大殿筋上部

上部と下部で明確な役割の違いがありますね。

こんな感じで大殿筋ってかなり使われる場面が多いです。

ただ、大殿筋が機能していないという方が多いというのも事実です。

次に、大殿筋が機能していないアライメントについて見ていきます。


Sway back postureだと大殿筋が機能しないのはなぜなのか

先ほどのように大殿筋は様々な場面で働きますが、機能していないということも多々あります。

その代表例がsway back postureです。

sway back posture



sway back postureについてはこちらにも書いています↓↓

姿勢分類についてはこちら↓↓



端的に言えば、

骨盤が後傾もしくは前傾したままの状態で前方移動して股関節後面(大殿筋、中殿筋、ハムストリングス)が機能しなくなる

というものです。

見た目はsway backと分かるけど大殿筋が機能低下を起こしているのか分からないということもあると思います。

その場合は後述する大殿筋の優位性の評価を試してみてください。


sway backだと重心線が股関節の後方を通ることになります。

左: sway back posture        右:正常アライメント

そうなると床から返ってくる力は股関節を伸展させる外部股関節伸展モーメントの増大です。

外部からの力が働くと「内部」の力を発揮しなくてはいけません。

ここで言う「内部」とは筋肉が発揮する力を指しています。


例えば、歩行を例にとってみましょう。

通常歩行ではIC(踵接地)で床反力が発生し股関節前面を通過するので、

外部股関節屈曲モーメントが発生します。(足関節・膝関節もモーメントはありますが今回は割愛)

簡単に言えば、股関節が前に倒れるような力です。

これを止めるのが内部股関節伸展モーメントで「大殿筋」というわけです。

赤線:外部股関節屈曲モーメント



しかし、sway back postureは骨盤後傾または前傾で骨盤が前方移動しているので、

歩行を行うとIC(踵接地)で外部股関節伸展モーメントが発生します。

先ほどとは逆に股関節を伸展させようとする力です。

赤線:外部股関節伸展モーメント


こうなると大殿筋は使えないわけで、

大殿筋の代わりに使われるのが「大腿直筋や大腿筋膜張筋」などの股関節前面の筋が働きやすくなります。

内部股関節屈曲モーメントの増大ですね。


この状態で歩行が一日に数百歩、数千歩行われると大殿筋はほとんど使われず、

股関節前面の筋が過剰に使われることになります。


なので、大殿筋が機能しないということは相対的に他の筋が過剰に働きやすい状態が作られているということでもあります。

特に高齢者では一般の方に比べてこういった方が多いので大殿筋の機能を改善することが必要だと思います。

次に大殿筋の運動療法を見ていく前に、簡単にできる大殿筋の優位性の評価についてご紹介します。


大殿筋の優位性の評価について


対象者を腹臥位で膝伸展および膝屈曲位にします。

膝屈曲位で股関節伸展を行い腰椎の前弯や骨盤の過前傾が生じたり、

起立筋の収縮が大殿筋より早期に生じれば機能低下を起こしていることが考えられます。


続いて膝伸展位の場合

膝伸展位で股関節伸展を行い、

膝が屈曲してくる場合や大殿筋よりもハムストリングスの方が早期に収縮が生じる場合大殿筋の機能低下が考えられます。

どちらも触知しながら評価を行うと分かりやすいと思います。


このように大殿筋の筋出力低下が見られると大腿骨頭は前方変位することが報告されています。

股関節前面の痛みに繋がることもあるので早期に改善してあげましょう。



大殿筋を効かせるには?


大殿筋自体すごく大切な筋ですが、特に重要視しているのが下部線維です。

先ほども書いたように歩行、立ち上がり、昇段など日常生活動作のあらゆる場面で上部線維に先行して働きます。

また、筋骨格系疾患において萎縮の傾向を示すと言われています。

なので、ここに効かせるようにします。もちろん上部線維もかなりかなり重要です。

・ブリッジング

大殿筋に効かせる場合
足部を遠位にすることでハムストリングスを効かせる

ブリッジングで大殿筋に効きやすい肢位は股関節軽度外転・膝深屈曲位(120度)です。

股関節の内転位や膝の屈曲角度が浅くなるとハムストリングスに刺激が入りやすくなります。

Sway backの場合ハムストリングスにも刺激を加えなくてはいけないので状態によって選択してあげてください。




・股関節伸展運動

大殿筋下部線維を効かせる場合には腹臥位での膝屈曲90度、股関節伸展位からの純粋な股関節伸展運動や内転抵抗の股関節伸展を行うことで、

大殿筋上部線維の筋活動を抑制して下部線維に刺激が入りやすい状態を作ることができる。


スクワット

大殿筋に効かせる運動を考えたときに王道中の王道の運動と言えばスクワットではないでしょうか。

ここでの一番大事なポイントは、

膝ではなく股関節を曲げる

ということ。

膝を深く曲げるほど外部膝関節屈曲モーメントが加わりやすいので(膝を曲げようとする力)、そうなると大腿直筋や筋膜張筋などが働きやすくなります。

大腿前面に張力が加わりやすい

今回は大殿筋に効かせるスクワットなのでこのやり方はNGです。


股関節を屈曲させて大殿筋に効かせるように行いましょう。

大腿の遠位にチューブをかけるとより大殿筋上部、下部線維に刺激を加えることができます。

https://www.tokai-sports.jp/dissertation/pdf/2016/06.pdf


まとめ

・大殿筋は上部・下部線維があり、上部は股関節伸展・外転、下部は股関節伸展・内転に働き、全体としては股関節伸展、外旋に働く

・立つ、歩行、昇段など日常生活の様々な場面で働く

・大殿筋の筋出力が低下していると骨頭が前方変位を引き起こす

・大殿筋下部線維は上部に先行して働きやすいので重点的に鍛える


参考文献

・Cara L. Lewis:Anterior Hip Joint Force Increases with Hip Extension, Decreased Gluteal Force, or Decreased Iliopsoas Force

・野田 将史 他:両脚ブリッジ運動における股関節外転および膝関節屈曲角度の違いが下肢筋群 筋活動に及ぼす影響

・本村 芳樹 他:ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維における筋活動バランス

・伊藤 陸 他:基本動作における大殿筋上部線維と下部線維の筋活動について

・小林寛和 井戸田仁 他:スクワットにおける殿筋群の筋活動について~抵抗の有無と抵抗位置の違いに着目して~

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