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アカウンティング(企業会計)の基本㉑:「決算書の比較図鑑」を読んで、大切そうなことをまとめてみた

決算書の比較図鑑(矢部謙介 著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。

まず、本全体の感想として「とても読みやすく、面白い」と感じました。
様々な業界の決算書が紹介されているため、自身にとって興味ある業界や、身近な業界の決算書もあるかなと思います(自分のメモでも、興味のある業界の内容を記載しています)。普段、会計の数値に対して難しさを感じている人でも、楽しく読める本です。
自分のメモをみて、少しでも本の内容が気になった方は、ご自身で読んでみてもらえると嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。


JリーグチームのP/Lを比較する

Jリーグチームである「川崎フロンターレ」「浦和レッズ」「ヴィッセル神戸」のP/L(2020年1月期)を比較してみると、下記3点が目につく。

  • 川崎フロンターレの売上高営業利益率が高い
    (川崎フロンターレの売上高営業率は11%であり、他2チームは3%程度)

  • 浦和レッズの入場料収入が高い
    (浦和レッズの入場料収入/営業収益は26%であり、他2チームは13%程度)

  • ヴィッセル神戸のスポンサー収入が高い
    (ヴィッセル神戸のスポンサー収入/営業収益は65%であり、他2チームは39%程度)

上記3点について、その理由を各チームの事業活動に紐づけて考えていく。

川崎フロンターレの売上高営業利益率が高い

営業利益率が高いということは、売上高↑、コスト↓をうまく実現しているということである。

まず、売上高から見ていくと、川崎フロンターレの売上高のうち、大きな比率を占めるのは「Jリーグ配分金(26%)」と「その他(29%)」である。

Jリーグ配分金とは、Jリーグの成績に応じて、Jリーグから配分される資金である。川崎フロンターレは、2017年、2018年とJリーグを連覇しているため、この配分金の割合が大きくなっている

また「その他」には、物販などによる収入が含まれている。
川崎フロンターレといえば、川崎浴場組合連合会とのコラボから作られた優勝記念品をサポーターに販売するなど、地元に密着したユニークな企画を実施しており、そういった点がこの収益に反映されている。

次に、費用面については、チームの好成績を背景に、バランスよくチーム人件費や経費などのコスト管理に成功している。なお、3チームとも、売上原価のうち最も高いのは「チーム人件費」であり、川崎フロンターレの場合は68%である。

浦和レッズの入場料収入が高い

浦和レッズの入場料収入は、売上高のうち28%を占める。
浦和レッズといえば熱狂的なサポーターが多いことで有名であるため、そのサポーターが毎回の試合でホームスタジアムに詰めかけるため、高い入場料収入を実現できていると推測される。

また、浦和レッズがホームスタジアムにしている「埼玉スタジアム2002」は、日本国内のサッカー専用競技場の規模としては最大である(約6万4000人収容)。
なお、等々力陸上競技場(川崎フロンターレのホーム)は約2万7000人収容、ノエビアスタジアム神戸(ヴィッセル神戸のホーム)は約3万人収容である。

以上より、浦和レッズの高い入場料収入は、熱狂的なサポーターと大規模なホームスタジアムによって支えられていると考えられる。

ヴィッセル神戸のスポンサー収入が高い

ヴィッセル神戸は売上高(営業収益)がJリーグ最大である(約115億円)。そして、その売上高を支えているのが、スポンサー収入(売上高の65%)である。ヴィッセル神戸のスポンサー収入は、主に親会社である楽天グループからの収入であると推測される。

そして、そのスポンサー収入は「チームの人件費」として使われている。
ヴィッセル神戸といえば、世界的なビックネームの選手をスカウトしていることで有名である。そのため、チーム人件費の多くは、こうした有名選手の年俸として支払われていたと推測される

スポンサー収入を基盤として、有名選手を獲得することで収益アップを目指すモデルは、「スポンサーが離れてしまった時、一気に経営危機に陥る」というリスクがあるため、注意が必要である。このリスクが顕在化した例として、サガン鳥栖のケースがある。

丸井と三越伊勢丹HDの決算書を比較する

丸井グループ(以下、丸井)と三越伊勢丹HD(以下、伊勢丹)の決算書(2020年3月期)を比較すると、下記2点が目につく。

  • 丸井のB/Sが極端に大きい

  • 丸井の売上高営業利益率が、伊勢丹を大きく上回る

上記2点について、その理由を各企業の事業活動に紐づけて考えていく。

丸井のB/Sが極端に大きい

丸井のB/S、P/Lを並べてみたときに、B/Sが極端に大きい(売上高約2500億円に対して、B/Sの規模はその3倍以上)。なお、伊勢丹は、B/SとP/Lの規模がほぼ同等である。

丸井のB/Sの中身を見てみると、規模が大きいのは流動資産(約6300億円)であることがわかる。さらに、流動資産の内訳をみると「割賦売掛金」「営業貸付金」が多くを占めている。この理由は、丸井がフィンテック事業に注力しているためである。具体的には、丸井ではエポスカードによるクレジットカード事業を行なっており、その売上高は小売事業を上回っている。

すなわち、丸井のB/Sが極端に大きいのは、「フィンテック事業にシフトしてきたこと」を表しているのである。なお、伊勢丹の主力事業は「百貨店業」であり、売上高の92%を占める。

丸井の売上高営業利益率が、伊勢丹を大きく上回る

丸井と伊勢丹の売上高総利益率を比較してみると、丸井が79%、伊勢丹が29%である。伊勢丹の水準は、小売業における売上高総利益率の平均(30%程度)よりもやや低いものの、それほど大きくかけ離れたものではない。

一方、丸井の売上高総利益率は、非常に高い。
その理由の一つは、先述の「フィンテック事業へのシフト」であるが、もう一つ、小売事業の中に隠されている仕組みがある。

丸井の小売事業の収益を見てみると、「賃貸収入等」が存在感を高めている。
すなわち、丸井は、メーカーから商品を仕入れて販売するのではなく、テナントに対して自社物件の店舗区画を貸し出す業態に転換することで、安定的な収益を上げる戦略をとっている(賃貸事業では、原価はほとんど計上されない)。

日本を代表するメーカーの決算書を読み解く

日本を代表するメーカーとして、「任天堂」「第一三共」の決算書(2020年3月期)を読んでみる。すると、下記2点が目につく。

  • 任天堂の流動資産は大きく、無借金経営

  • 第一三共は売上高の20%が研究開発費

上記2点について、その理由を各企業の事業活動に紐づけて考えていく。

任天堂の流動資産は大きく、無借金経営

B/Sから読み取れる任天堂の特徴は「有形固定資産がほとんどない」「流動資産が非常に大きい」「負債が少なく、分厚い純資産を持つ」という点である。

まず、任天堂は、製造を外部委託しているファブレス型の企業であるため、有形固定資産が少ない。
次に、流動資産の中身を見てみると、最も多いのは現預金(約8900億円)、次いで有価証券(約3300億円)である。
そして、その原資となったのは、約1兆7000億円の利益剰余金に支えられた純資産である。つまり、任天堂は過去にあげた利益を内部留保し、それを運用資産という形で保有しているわけである。一方、負債は非常に少なくなっており、典型的な無借金経営をしている。

ではなぜ、任天堂は財務に対して、これほどに安全志向なのか?
その答えは「任天堂は、ゲーム産業を知り尽くしており、そこでの適切な戦い方を選択しているため」である。
すなわち、リスク(変動)が大きいゲーム業界において、業績変動に耐えられるように、任天堂では多くのキャッシュを保有し、ファブレス型(変動費型)のビジネスモデルを採用しているのである。
これは、これまでヒット商品の有無によって業績の大きな変動を繰り返した任天堂が、その経験からの学びを以て、構築した戦略であるといえる。

第一三共は売上高の20%が研究開発費

第一三共の売上高は約9800億円であり、その20%が研究開発費に充てられている。これは、新薬を主体とした医薬品メーカーの特徴である(なお、新薬主体の医薬品メーカーの研究費開発費目安は、売上高の20%程度である)。

新薬を開発できると、特許により独占的に生産することができ、薬価も高く設定できる。そのため、高い収益性を実現することができる。医薬品メーカーが大型新薬の開発に力を入れるのは、こうした理由による。

一方、特許の期限(特許出願から20年程度)が切れると、ジェネリック医薬品が登場し、医薬品メーカーの収益性は一気に低下する可能性がある。

以上より、新薬主体の医薬品メーカーの勝ちパターンは「多額の研究開発費を投じて新薬を開発し、儲けられる時に儲ける」であり、第一三共もこの勝ちパターンと整合した戦略をとっていると考えられる。

Spotifyの決算書を読み解く

Spotifyの決算書(2019年12月期)を見てみると、「P/L上の利益は赤字なのに、営業CFは黒字」であることがわかる。この理由は、大きく分けて「株式による報酬」「営業その他負債の増加」「前受収益の増加」である。

P/L上の利益は赤字なのに、営業CFは黒字の理由

まず、「株式による報酬」とは、経営陣や従業員に対する株式を対価とした報酬額を表す。株式を対価とした報酬は、P/L上は費用計上するが、キャッシュアウトを伴わない。そのため、キャッシュフローを計算する上ではプラスに働く。

次に「営業その他負債の増加」とは、「流動負債に含まれる買掛金や未払い費用」の増加である。Spotifyにおいては、主に楽曲使用料のうち、未払いになっている金額が相当する。楽曲使用料の未払いが増加するということは、それだけ現金の支出が少なくなるということであるため、キャッシュフロー上はプラスになる。

加えて「前受収益の増加」もキャッシュフローを押し上げている。Spotifyでは、通常の月額プランに加え、1年間分の使用料を一括で支払うことで使用料が割引となる「年割プラン」を提供している。こうしたプランの加入者からの使用料収入が前受収益としてキャッシュフローのプラス要因となっている。

以上より、Spotifyは「楽曲使用料を支払うタイミングよりも先に、売上による収入が入ってくるビジネスモデルである」と言える。よって、売上規模が拡大すると、それに伴ってキャッシュフローが増加することになる。通常のビジネスでは、売上規模が拡大すると追加の運転資金が必要となるが、Spotifyではそれと逆の現象が起きている。

また、Spotifyは2018年に直接上場(ダイレクト・リスティング)という手法で上場した。これは、上場時に新株発行しない代わりに、上場にかかる時間やコストを削減するという手法である。Spotifyは、売上拡大するとキャッシュが増えるビジネスモデルであるため、株式上場にあたって新株発行による資金調達をする必要がなかったのである。

では、「資金調達する必要がないのに、なぜ上場するのか」という疑問が湧くが、「上場することで、既存株式の流動性(売買のしやすさ)」を高める等の狙いがあったと推察される。

以上です。

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