かぎ穴にちょっといちごがつまってる
シリーズ・現代川柳と短文NEO 001
開かずの金庫を開けたいとき、人は鍵のプロフェッショナル、名人を呼ぶだろう。では、閉まらずの金庫を閉めたいときはどうすべきか。そのときも人は、やはり鍵のプロフェッショナル、名人を呼ぶ。閉まらずの金庫とは、長いあいだ鍵を閉められていなかった金庫のことだ。それは開かずの金庫とよく似ていて、もはやほとんど区別がつかない。ところでいま、名人は鍵を閉めようと苦心し、額に玉の汗を浮かべている。ああ、鍵が閉まったら、こんどはそれをまた開けさせられるんだろうな、と、名人は小さなため息をついた。むろん、金庫の中にはなにも入っていない。
【本日の現代川柳】
かぎ穴にちょっといちごがつまってる
/今田健太郎
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