本当に「自分が作ったものには何の価値もないんじゃないか」と思っている人は何に悩んでいるのか

一読したが、どうも話がずれているのではないかと思った。読んで感じた違和感を、これからできるだけ言葉にしてみる。

ウェブで4年間小説を書いてきて、多くの「自分の作ったものなんか価値がないんじゃないか」と悩んでいる人と接してきた。自分自身、そういう悩みを抱えたこともある。今もそうかもしれない。このエントリは、そうした人たちに『スロウハイツの神様』を勧めているが、この小説では超人気小説家の”コウちゃん”の小説がきっかけで集団自殺事件が起きてしまうそうだ。創作物はときに、そのようなネガティブな影響を人に与えてしまうことがある。それでも、あなたは自分を信じ、好きなものを作り続けていいのだ……というメッセージが込められた作品のようだ。

確かにいい話には違いない。だがこの小説は、「自分の作ったものなんか価値がないんじゃないか」と悩む人を励ますのに適切な作品だろうか。超人気小説家であるがために作品の影響で集団自殺事件が起きる、これはむろんショッキングな事件には違いない。だが、多くの自作の価値に悩むクリエイターはこのような事件とは無縁だろう。むしろ多くの人は、自作が現実に一切影響を及ぼさず、なんの波風も立てられないことにこそ悩んでいるのではないだろうか。

私の見聞きしたところでは、圧倒的に多くの創作者が「自分の作ったものなんか価値がないんじゃないか」と思ってしまう原因は、自作が相手にされないことだ。自作が原因で自殺者が出るほど影響力のある人が、「自分の作ったものなんか価値がないんじゃないか」などと思うものだろうか。そんなことが起きたなら作家としては大いに悩むだろうが、それはおよそ自作の価値などとは別次元の悩みではないだろうか?

ウェブ小説の世界は(創作の世界はどこも大体そうだろうが)、ごく一握りの脚光を浴びている作者と、その他大勢に分かれている。後者の多くは自作が期待したほどに読まれない、評価を受けられないことに悩んでいる。大して相手にもされていないのだから、「この作品が原因で悪行に及ぶ人がいるんじゃないか」などという悩みは生まれようがない。事態はまったく逆で、自分が何の影響力も持てないことに悩んでいるのだ。だからこそ、「自分の作ったものなんか価値がないんじゃないか」と思ってしまうのだ。

「自作が現実に悪影響を与えるのではないか」という悩みを軽く見るつもりはない。だがそれは私に言わせればかなり「上」の人の悩みなのだ。自作の影響を心配するのは、それだけ自分の力を信じているからだ。これは、「そもそもこんな作品手に取る人なんていないだろう」という悩みとは次元の異なるものだ。そして圧倒的に多くの人は、自作の影響力の乏しさに悩んでいるのだ。

もしかするとイノウマサヒロ氏のエントリは、初めからプロにのみ向けられているもので、私のような人間はお呼びではないのかもしれない。影響力を持っているプロに向けて「悪影響なんて気にせず好きなことを表現していいんだよ」という話をしているのであれば(そこは同意だ)、このような反論はお門違いだということになる。ただ、私は私に見える光景しか語れないので、「下」の世界の話をさせてもらった。いちおう付けくわえておくと、上とか下とかいうのは世間の注目度や影響力の差のことであって、「下」の人が「上」の人より劣っているなどということが言いたいわけではない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?