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三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』ようやく読めた。

 「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」。  本書の答えを乱暴にまとめれば、新自由主義に内面を侵され、コスパ意識きわまったためだ、という事になる。このせいで、現代日本の会社員は仕事以外の文脈、自分から遠く離れた文脈(p.234)を含むもの、すなわち「ノイズ」を多く含む読書をしなくなった。 代わりにコントロール可能な自分の行動にターゲットを限定した自己啓発書と、「今」ここの知識でのみ勝負し、自分の外部にある文脈や社会を「ノイズ」として排除する、ひろゆき的論破で済ますように

    • チラシの裏

      このブログ、殆ど楽しい事を書いていないけど社会や公共の話題から距離を取って余生を過ごすために書きながら考えるという目的があったのです。 一度レンジを数万年単位にざっくり広げ、興味抱くことや触れなくてよい事を分類するために。読むほうは、2020年から始めて済んだといえば済んだ。 書くほうは、書いても書いてもじわっとした思考の透明な出血が止まらないからこりゃダメだ。しばらくしたら閉鎖する。

      • 「いいね」戦略考

         「いいね」する戦略を、以下のモデルで考えてみる。自分の私生活をある程度SNSでさらけ出す人が、いいねされる対象だと前提する。 いいねパターンAは、ネガティブ型だ。「いいね」される人が失敗した時のみいいねする。「失敗」は単なる自虐か客観的に悪い状況なのか、ここでは問わない。 いいねパターンBは、ポジティブ型だ。いいねをされる人が成功した時のみいいねする。「成功」は大分盛ってるか、客観的に良い状況なのかは、ここで問わない。 いいねパターンCは、混合型だ。パターンAとパター

        • 統一経済成長理論から批評する「老人切腹」論

          統一成長理論とは  これから説明する見方は、著名なダロン・アセモグルらの経済学教科書で採用されている(「7.3 経済成長の歴史)。日経でもオデット・ガローの「統一成長理論」として取り上げられた。このごろ有力理論となっているようだ。以下、こうした考え方を「統一成長理論」と呼びまとめてしまおう。 統一成長理論は、「人類の歴史における経済成長の過程を統一的に説明することを目的としたマクロ経済学の理論」*である。 本記事の文脈では「3人きょうだいのリソースを1人に注げば、その一人

        三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』ようやく読めた。

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          統計的差別の深層 - 容認される偏見と逆差別のジレンマ

           「統計的差別という概念は、矛盾している」という話をする。 1.「統計的差別」の概念的矛盾  「統計的差別」の概念を、私なりにかみ砕いて説明しよう。ある人が、人種や性別といった集団の属性にかんして推測や憶測したものごと、つまり特徴や値や何となくのイメージを、特定個人や個人一般の特徴でもあると仮定(=帰属)して、この個人に対する何らかのアクションのために活用する事で「統計的差別」は生じるとされる(参考)。 例えば、雇用者が「女性はしばしば育児休暇を取るし、キャリアアップに熱

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          このごろ写真を上げる人が増えた

           Twitterに、写真をあげる人が増えた気がする。料理や風景の写真だ。気のせいかもしれないが。 自分の気持ちを投影し憶測すると、もう疲れちゃったんだよね。 衝突に。 写真は言語ではない。言語ではないから一般論で言うと命題がない。例えば写真には「お前は正しい間違ってる」という主張や、非難や叱責がない。叱責がないからコンフリクトは起きにくい。写真も時に叱責をほのめかしはするけど言葉ほどあからさまではない。 やさしい言葉をかけ続けるのはなかなか難しいが、やさしい写真をあげつづ

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          報われる世界で生きたいよね、それはそう。

           // チラシの裏  がんばって働くともっとお金が貰える。経験が増すほど見通しが良くなり、詰められても平気になる。上に立つほどお客さんの矢面にも立たされる。しかし知識が増すと、詰められても心理的に折り合いがつく。自分は悪くないと自信が増す。不安にならない。まわりから評価される。下から慕われる。上に立つ。パワーがある。不倫もしやすく……いやこの話はやめておこう。労働人生が安心。知は力なり。 このため多くの働く人にとって、能力主義者であることはデフォルト状態だ。  私が性格的に

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          (小ネタ)『「社会正義」はいつも正しい』は、フランクフルト学派陰謀論や、文化的マルクス主義陰謀論にどう言っているか

          『「社会正義」はいつも正しい』は、「文化的マルクス主義陰謀論」の書か?  批判者によると、『「社会正義」はいつも正しい』の著者リンゼイは、右翼の陰謀論である「文化的マルクス主義陰謀論」に染まっているらしい。文化的マルクス主義陰謀論は、フランクフルト学派を現代の進歩的運動、アイデンティティ政治、ポリティカルコレクトネスの流行に責任があるとし、また伝統主義保守主義のキリスト教的価値を、文化戦争により破壊しているとみなす*。 これと大きく重なるフランクフルト学派陰謀論は、マルクス

          (小ネタ)『「社会正義」はいつも正しい』は、フランクフルト学派陰謀論や、文化的マルクス主義陰謀論にどう言っているか

          『「社会正義」はいつも正しい』の掲げた「リベラリズム」の空虚さ

          私は、足を大股開きにする男を底の方では信用しない。 ジェームズ・リンゼイと極右問題  『「社会正義」はいつも正しい』について最近、「共著者の一人ジェームズ・リンゼイは、反ユダヤ主義的・極右的な言動をする人物だ」と非難されている。 上記記事の「友達の友達がアルカイダ」型のルーズな論証に対する疑義に、文字数を費やすつもりはない。それを踏まえても私は、大まかには上記記事の著者の見方にかなり同調する。 リンゼイの発言が、私の基準で見れば「一線」越えているのは確かだ(「批判的人種

          『「社会正義」はいつも正しい』の掲げた「リベラリズム」の空虚さ

          国連女性人権担当者「セルフID制度は、暴力的男性が悪用する危険がある」

          はじめに  国連の要職に就くリーム・アルサレム Reem Alsalemは、先日スコットランドが進める性別認定改革法案について、イギリス政府に書簡を送り懸念を表明した。いわく、この改正案では「暴力的な男性による制度の『悪用』を許す恐れがある」。BBCやThe Times、The Guardianなど英大手メディアが次々報じるニュースになっており、↓本人のTwitterにも少なくない反響が寄せられている。 アルサレムの役職は、国連の人権理事会から委任された「女性や少女に対す

          国連女性人権担当者「セルフID制度は、暴力的男性が悪用する危険がある」

          「白井みふ子」氏から謝罪がありました。

          謝罪がありました詳細は省きます。 (※追記:経緯等を追記しました) 私は、これで全て終わると思えるほど楽観的ではありません。 これが最後になるかもしれないし、ただの通過点かもしれない。そのような記録です。 webarchive & 魚拓(記録用) 以下2ツイートは、上記に対する私の見解です。 【2022/09/22 追記】ことの発端&経緯、証拠集1. 発端 私の下記ツイートを契機に、白井さん(鍵垢ド禁)は私への攻撃を決意されたようです。 精確には次のRTが契機です

          「白井みふ子」氏から謝罪がありました。

          トイレを性別で分ける防犯上の意味

          はじめに  少し前の8月17日に、「性別のない作家」山崎ナオコーラによるツイートがちょっとした物議を醸した。氏の「性別でトイレを分ける必要があるのか」、「私はトイレを性別で分けなくてもいい派でして」と問題提起した下記ツイートがそれだ。 山崎氏のツイートは削除されてしまったが、引用リプライが沢山つき、温度感の高い反応が多かった。「女性の安全を考えて欲しい」、「『LGBT』でトイレ利用をひとくくりにしないで」という旨のツイート等があった。 しかし「トイレを性別で分けなくても

          トイレを性別で分ける防犯上の意味

          イギリス裁判所「『TERFへの差別』は差別である」、との判決を下す。

          はじめに  去る7月27日、イギリスの雇用審判所は、「生物学的性別が重要であると信じる女性の権利を擁護する」判決を公開した。刑事弁護法を専門とする弁護士にしてLGBアライアンス創設者のアリソン・ベイリー[black lesbianでもある]は、彼女の「ジェンダー・クリティカル[TERFの中立的な呼び名]」な信念に基づく差別を会社から受けたとの主張が認められ、£22,000[約360万円]を手にした。※TERFとはトランスジェンダー、特にトランス女性に対して排斥的な立場とみな

          イギリス裁判所「『TERFへの差別』は差別である」、との判決を下す。

          "成田悠輔「アナーキズムは中学生メンタリティ」暮らしで実践する男性と考える" を考える

          https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3940  面白い番組だから観て。成田悠輔・あおちゃんぺ・紗倉まな・平石直之がアナキストの「みく」さんに次々疑問を投げかけていくスタイル。私は、スタジオの「イラッ」とした空気、出演者たちの釈然としない表情がよく理解できる。 万事こんな調子だ。  「みく」さんの思想に自立したリアリティを感じない。社会の土台に寄生して、「上澄み」を啜っているように感じる。 アナキストによる国・企業への批判

          "成田悠輔「アナーキズムは中学生メンタリティ」暮らしで実践する男性と考える" を考える

          読んでいない本について堂々と「差別本」扱いする方法

          元タイトル:『むずかしい女性が変えてきた』 販売停止に賛同する人の、エリート意識がもたらす大きな反作用 を変更(2022/07/27) はじめに 大阪のtoi booksという書店が、ヘレン・ルイス著、田中恵理香 訳『むずかしい女性が変えてきた あたらしいフェミニズム史』(みすず書房 2022年5月16日)を「いったん販売停止」にした事が、Twitterで話題になっている。販売停止の理由は、ヘレン・ルイスが「トランスフォーブ」「トランスフォビック」(トランスジェンダーの人に

          読んでいない本について堂々と「差別本」扱いする方法

          文フリに行った

          何年ぶりだろう。 13時。会場は長蛇の列。長いうねうねと整理が必要で、昔より人が増えていた。 ブースをまわって、「市場」という言葉が浮かんだ。市場だなぁ。自分の作品を売る。それが売れる。嬉しいことだ。今では陳腐な言葉になってしまった気もするが、読む人に「承認」されるということだ。反対に作品に対する反応が鈍ければ、あまり嬉しくはないだろう。 個性と能力を賭け金とした勝負ではあるのだ。 メッシュの売り子さんから本を買った。 私は淡い痛みのようなものを感じながら、会場を後にした。