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副業だからこそ学び・遊び・社会貢献できるかを重視する。会社の垣根を超えて活躍していく、デジタルデザイナーのキャリア

近年、エンジニアやデザイナーなどクリエイター職を中心に、本業だけでなく副業に参画して自身のキャリアやスキルの向上につなげる方が増えています。働き方改革やリモートワークへのシフトが進み、副業を容認する企業も増加しているなか、クリエイターはどのように副業と出会い、活躍の場を広げているのでしょうか。

去る5月26日には、キャリアSNSを展開するYOUTRUSTとラクスルが共催で副業で拡張する、デジタルデザイナーのキャリアと題したオンラインイベントを開催しました。
本業を持ちながら、副業デザイナーとしても活躍する当事者の方々を招き、トークセッション形式で議論が交わされました。

▼登壇者
和泉 純一(ラクスル株式会社 デザイン推進室 デザイナー兼マネージャー)
副業先: 株式会社KX / Fracta Leap株式会社

辻 朝也(株式会社YOUTRUST デザイナー)
副業先: ラクスル株式会社 / 株式会社ルート

村田あつみ(株式会社ラブグラフ Co-founder & CCO)
副業先: 株式会社GAOOO

Tomoro Hanzawa(Takram グラフィックデザイナー)
副業先:株式会社ロフトワーク

▼モデレーター
水島 壮太(ラクスル株式会社 取締役/CPO)

各登壇者の自己紹介

まず、各登壇者の自己紹介が行われました。

ラクスルでデザイナー兼マネージャーとして働く 和泉(ジェイ)さんは、デザイン事務所でグラフィックやWebデザイン、空間デザインなど、さまざまなデザイン領域の仕事を経験。その後、2011年にDeNAに入社してデザイナーや人事・採用などに携わっていました。

ラクスルには2021年5月から副業で関わっており、今年2022年2月に正社員としてジョインした経緯を持っています。
ラクスルでは事業ごとに乱立していた「ご利用ガイド」をひとつにまとめた新規デザインやサイト制作、最近ではダンボールワンの小ロットでオリジナルの梱包箱を作れるサービスなど印刷事業をメインに関わっています。

和泉さんは、YOUTRUSTの『すごい副業 - 前例のない街づくり in 鹿嶋 を目指す 創業メンバー -』の企画で、メルカリの小泉文明さんが設立した会社でカシマ地域の街づくりに関わるプロジェクトに参画したのが、ラクスルに副業として携わるようになったきっかけになっている」と話しました。

そのほか、Fracta Leap社では浄水プラントを設計するためのアプリケーションデザインを行っており、本業以外の会社でもデザイナーとして日々取り組んでいることを発表しました。

現在YOUTRUSTでデザイナーとして働く辻さんは、2016年にクックパッドに新卒入社。昨年9月にYOUTRUSTへジョインしています。副業は2017年から始め、事業規模や内容問わず、10社以上で働いてきた経験を持っているそうです。

YOUTRUSTは新コーポレートビジョン「日本のモメンタムを上げる 偉大な会社を創る」を発表し、さらなる成長を見据えてSNS事業とHRテック事業の拡大をするべく、取り組んでいくとのこと。

株式会社ラブグラフ Co-founder & CCOの村田さんは、2015年に出張撮影サービス「Lovegraph」を学生起業し、7年間にわたってブランドの責任者として従事してきました。

経営やデザイン業務の傍らカメラマンとして現場に行き、サービスやユーザー理解にも努めていたそうです。そして今年3月にはミクシィにグループインし、新たなステージで事業にコミットしています。
村田さんの副業先であるGAOOOでは、ロゴ制作やパッケージデザイン、SNSのクリエイティブ、撮影などを担っているとのこと。

Takramの半澤さんは、NOSIGNERにて3年半ほど働いたのち、2020年よりTakramへ入社。
現在、Takramではグラフィックデザイナーとして活躍しています。

Takramでは中川政七商店のハンカチ専門ブランド「motta」のリブランディングプロジェクト、NSK(日本精工)のキャンペーン、第一生命のミレニアル世代向けの保険ブランド「デジホ」のブランディングなどに関わってきました。

そのほか、音楽をやっている友人が多いことから、プライベートワークとしてミュージックビデオ(MV)の撮影からVFXまで総合的に手がけているそうです。

副業ではロフトワークのプロジェクトに関わるなど、さまざまな活動を行っています。

デザイナーが副業を行うモチベーションの源泉とは

最初のお題は「副業をはじめた理由やきっかけは?」。

本業に加えて副業に取り組むモチベーションやマインドセットについて、各登壇者はどのように考えているのでしょうか。

和泉さんは「前職でデザイナーとHRを兼務するようになり、将来のキャリアに危機感を覚えたことが副業に取り組むキッカケとなっている」と話します。

「副業を始めた理由は2つあって、ひとつは『すごい副業 - 前例のない街づくり in 鹿嶋 を目指す 創業メンバー -』で募集されていた事業への共感でした。地元・カシマを盛り上げる事業にコミットできるデザイナーは自分しかいないと思いました。もうひとつは、本業では身に付けにくい業界での知識や経験を、副業に挑戦することで得たいと思いました。この2つが副業を始めた理由です。」

一方、村田さんは「ラブグラフのファウンダーという立場だったこともあり、7年間のうちデザイナーとして働けていたのは実質2〜3年くらい。会社を成長させるために様々な業務を兼務する必要があり、マネジメントや戦略、マーケティング、広報などを行うことが多かった」と振り返ります。

「デザイナーとして手を動かす機会は少なく、会社のフェーズによって、個人でチャレンジしたいことができるときと、そうじゃないときがあります。その点では、『自分がデザイナーとしてやりたいことは、社内に求めず外でやる』という形で切り分けたのが、副業をやり始めたきっかけになっていますね」

辻さんは「副業を始めた頃に比べ、徐々にやっている理由やモチベーションに変化が起きている」とし、次のように現状を語ります。

「副業を始めたのは新卒2年目だったので、とにかくアウトプット重視で、デザインの力をつけることに終始していました。それから転職をして、働く環境が変わってきたことで『ひとりデザイナーはどう動いているのか、他のデザイナー組織はどのように成り立っているのか』“知りたい”欲求が高まってきました」

Takramに入社し、1ヶ月ほどでリモートワークに移行した半澤さんは「リモートワークという制限された環境下で、副業というよりも自主制作という形で、周囲で活動する友人をクリエイティブでサポートしたい。そう思うようになった」と話します。

「黙々と手を動かし、映像やXR作品として発表してきた流れから縁が繋がって、結果的に副業に参画するようになりました」

できるだけ顔を合わせた方が副業先との関係性構築につながる

2つ目のテーマは「副業先での稼働時間や業務ルールなどの働き方」についてです。

本業に比べ、副業先で働く時間は概して少なくなるもの。
どのような形で仕事に携わっているのか聞いていきました。

村田さんの場合、副業先が立ち上がったばかりの会社のため、本業の終わった夜や土日に稼働することが多いそうです。
「基本は在宅で副業の仕事を行っていますが、副業先としてお仕事している『失恋バー』の準備や打ち合わせは土日に行っています。普段遊びに使う時間を副業に充てているような感覚ですね」

また、リモートで副業先の業務を行うことがメインの辻さんは「プロダクトの改善に関わる業務をやらせてもらっているので、副業先のデザインチームとは週1の定例に参加したり、必要に応じてユーザーヒアリングを行ったりと、本業に近い形でコミットしている」と述べました。

リモートワークだと、どうしてもテキストコミュニケーションが中心になるため、副業先とのリレーション構築がしづらい面もあります。

辻さんは「テキストコミュニケーションに寄らず、定例や社内イベントには積極的に参加し、顔を合わせてコミュニケーションしていくことでキャッチアップしている」と実践していることについて説明しました。

半澤さんは「本業が終わった後や土日に行っているが、秘密保持や利益相反にならないような形で、Takramの定める副業ガイドラインに沿って取り組むように意識している」とのこと。

和泉さんは他の登壇者と同様、本業の終業後や土日に稼働することは変わらないとしつつも「副業先とのミーティングは、時間の長さよりも頻度を大事にしている」と意見を示します。

「10分、15分でもいいのでアウトプットを共有し、デザインの方向性にズレがないかを確認することを大切にしています」

副業することで心理的安全性が担保され、知見も広がった

3つ目のトピックは「副業をはじめてキャリアやスキルに変化はあったか」。

本業と副業では、それぞれカルチャーも違えば働いている人も異なります。それはプラスにもマイナスにもなりうることで、副業先で働いているからこそ気づいたこと、キャリアやスキルに変化があったことについて、各登壇者が発表しました。

半澤さんは本業では使わない技術を、自主制作を通して積極的に使うことでスキルの幅が広がったそうです。

「一般的なグラフィックデザイン業務では使わない3DCGやXR技術を触っていくことで引き出しが増え、Takramにおいての業務でもユニークなアプローチが可能になりました。スキルが広がれば、さまざまなプロジェクトにも関われるようになるので、非常に相乗効果が生まれていると感じています」

他方、「副業をやったことで、自分の中の“リミッター”が外れたと思っている」と語る和泉さんは、「大人になるにつれ、所属する組織やステークホルダーの空気を読んで、自分の思いを諦めるプロジェクトが少なからずあったが、副業を始めたことで、そういうのが一切なくなった」と話します。

「副業をやることで複数の収入源を確保できるようになったこと。そして、仮に所属している組織から評価されなくても、副業先で自分を評価してくれる人がいるという心理的安全性があること。これらが、自分のキャリアにとってすごい変化だと思っていて、のびのびと仕事できるようになった要因だと思っています」

辻さんは「副業をやることで自分の得意・不得意を客観的に分析でき、サービスの抱える共通の悩みも理解できるようになった」と自身の変化について説明します。

「プロダクトを横断して関わっているので、他のプロダクトで出た課題を別のプロダクトに当てはめて改善を図ったりなど、相互で解決方法を思いつくようになったのは大きいと考えています」

村田さんが副業をやってみて一番感じたのは「本業の良さをあらためて実感するようになったこと」だと話します。

「ずっと長くいる会社って、良い面が見えにくくなってしまいがちですが、外を見ることでラブグラフが本当に素晴らしい会社なんだと気づくきっかけになりました。例えばSlackの絵文字や語尾の使い方なども違うように、副業先で働くことで本業の環境をフラットに見られるようになったのが、自分にとっての変化だと思っています」

そんななか、「副業を継続する大変さや難しさ」も往々にしてあることでしょう。本業にプラスして働く手前、稼働時間は増えるので息切れしてしまったり、継続できなかったり……。

辻さんは「自分のキャパを考えて、副業での稼働は7割程度のキャパに収まるようにコントロールしている」と言います。

「本業と副業のタスクバランスをとるのが難しいと思っています。本業の残業や副業先のタスクが増えた場合に、1日の稼働時間が膨れてしまい、一時は無理して働いてしまうときもありました。そうならないために、時間のバランス配分を考え、できるだけキャパオーバーにならないように意識しています」

半澤さんも「未開拓の分野に取り組む場合、想像以上に壁が高くて苦労した」と吐露します。

「一晩かけて何も解決しないことも多々あり、見通しの甘さを突きつけられた経験もしました。こうした反省を糧に、最近ではバッファに余裕を持たせるようにしています。そうすることで、本業の忙しさも読めないなか、心理的安全性を確保することができるんです」

和泉さんの場合、「デザインワークをするときの頭の切り替えが苦手なタイプなので、最低でも2時間確保するようにしている」とのこと。

「2時間のうち、最初の30分は脳みそを切り替えている時間で何も生み出していない状態で、次第にゾーンに入っていく感じです。そのため、細かい時間の使い方を意識し、デザインワークのための2時間を捻出できるようにタスク管理、スケジュール管理を徹底しています」

村田さんは、会社の代表的な立場として働くがゆえの「見え方」に注意を払っているそうです。

「CCOという役目を持ちながら他の会社で副業をすることで、社員に不安を与えてしまう懸念もあります。私の場合、『副業する理由』をメンバーに話したり、なぜ失恋バーをやるのかなどの背景を、SNSなどで発信するようにしています。ラブグラフがまだやれていないことに挑戦し、さらには副業に関わることでラブグラフの事業にもいい影響を与えられるというメリットが伝わっていたら嬉しいです」

副業を受ける「マイルール」を定めておくこと

また、副業を受ける上でのマイルールや持っておく知識はどのようなものがあるのでしょうか。

半澤さんは「収入よりも、自分のポートフォリオやスキルにプラスになるかを重視しているので、ライスワークになるような案件は受けない」と述べます。

辻さんは副業のマイルールについて、「自分の時間を圧迫しすぎないようにすること、あとは知識欲を満たすために全く見当のつかない業界や目に見えていないサービスの仕事を行い、関わっていくなかで周辺領域の知識を学んでいくことを心がけている」と話します。

「副業は遊び・稼ぎ・学びがある」と述べる村田さんは「学びや遊びの要素を満たし、好奇心を掻き立てられるかが副業をやる上での判断軸になっている」と言います。

和泉さんは稼ぎや学びよりも「社会貢献できるかどうか」が大切な要素になっているとのこと。

「これがあってよかった、というサービスや事業を社会に残したいという思いがあります。というのも、子供ができたこともあり、父親としての後ろ姿を見せたいというかドヤ顔をしたい。子供が大きくなったときに、自分が関わったサービスやプロダクトが社会実装されていれば、それは非常に望ましいことだと思うんです。これが副業に求めるモチベーションになっていますね」

トークセッションの最後のお題は「本業先での副業採用と、副業メンバーの組織マネジメント・採用方法」です。

働き方が多様化し、副業人材の流動化も進むなか、稼働時間が限れているからこそ副業メンバーの組織マネジメントが重要になってきます。

副業デザイナーの採用を積極的に行っているラクスルの和泉さんは「優秀な副業メンバーが多いぶん、各人のセルフマネジメントに頼ってしまっていることが課題に感じている」

「組織の人数が増えてくると、安心して仕事に取り組める仕組みを作らないといけないと思っています。いまの時代において、正社員だけで組織拡大していくのは筋が良くないと考えていて、プロジェクト単位のアサインや副業人材の活用をどんどん推進していくことが必要になってくるでしょう」と実情を語ります。

モデレーターとして会を進行したラクスルの水島さんは、全体のラップアップを行い、セッションを締めくくりました。

「今回のセッションで興味深かったのは『お金のために副業をしない』ということでした。本業とは違う会社でスキルアップしたり社会貢献したりといったモチベーションで副業に参画する人材と、副業を受け入れる側の会社とで、うまく相互で交換し合っていることに関心を持ちました。ただでさえ、デザイナーの数が足りていない時代に、会社の垣根を超えて活躍していく副業デザイナーが今後もっと増えていくといいのではないでしょうか」



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