見出し画像

外宮から


そこにはあるはずだった静寂はなかった。

秋風がひとの衣を重ねた9月の末、
戻ってきた夏日が
人たちの肌を露わにさせていた。

その道を進むと杉が自由に並んでいる。
杉の形もそれぞれ自由に。
進む先々には小さな神が宿る末社。
そんな社たちが
自由な樹々を赦しているかのように。

まだ樹々は蒼く、
杜は湿気を含む杉の香りを放っていた。
自由なのはそこにいる鳥たち。虫たち。風たち。
急に響く「ツクツクボウシ」は
まだ夏を惜しんでいる。
そこにあるはずだった静寂はなかった。

末社を前に深呼吸。

……柏手が響く。


                 楽子



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?