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伊藤塾VS加藤ゼミナール、予備校論争

こんにちは、ちょま林です。
慶應ローに関する記事が思った以上に伸びていて驚いてます。内容的にはお尻の手術の方が面白く書いたはずなのですがね…。皆さんにご好評頂いてありがたい限りです。
それだけ、皆さん(私のTwitterのフォロワーを中心に)が司法試験・予備試験に関する事項に興味関心がおありということなのでしょう。
その中で、それなりの頻度で司法試験予備校についての質問を頂くことがあります。やはり、独学で司法試験・予備試験を受ける方が少数である以上、皆さんの予備校に対する関心も強いのでしょう。
というわけで、今回は、Twitter上においても永遠に続く話題である予備校論争について伝統的予備校である伊藤塾と新興予備校である加藤ゼミナールという私が受講した2つの予備校を比較しながら私見だったりホンネを述べていきたいなと思います。
仮に、今回の記事をお読みになった両予備校関係者の方がいらして、なにか反論であったり、間違っているぞということがありましたら遠慮なくちょま林までご連絡ください(ただし、お叱りはご勘弁ください)。
今回の記事も、私の個人的見解に基づくものですので、内容の正確性は担保されません。このことを前提にお読みください。


伊藤塾について

私が受講したのは、基礎マスターと論文マスター、コンプリート論文答練です。受講し始めたのは、大学入学直後の5月からでした。とはいっても、真面目に通学受講していたのは、8月ぐらいまでで以降はオンデマンド配信で受講しました。
実際に、7科目の基礎マスターと論文マスターを一周したのは大学3年の後期になってからです。なんとか、ロースクール入試前には間に合わせたという形です。それでは、以下、各講座の特徴をみていきます。

基礎マスター

その名前の通り、主要7科目の基礎講座であり、入門的位置づけです。伊藤塾では、基礎マスターテキスト(以下、「基礎マ」)というテキストを用いて講義が行われることが多いです(呉先生のクラス等一部基礎マを利用しないクラスもあるようです)。
それぞれの条文や法概念について、基本的な説明は網羅されおり、各種論点や判例知識、短答プロパーと呼ばれる知識まで幅広く取り上げています(このことは、多くの皆さんがご存知でしょうが)。
<利点>
・網羅的に7科目についての知識を押さえることができる。
・判例百選が引用される形なので、百選をいちいち隣に置かなくても良い。
・短答出題知識についても細かい点まで記載されていることが多い。
<欠点>
・短答まで含めているため非常に分量が多く、講座の時間も長い。
・条文に対する基礎マの意識が若干薄い。
・掲載判例の更新が遅い、重要論点なのに記載がない、そもそも内容が現在では古いとされる学説に依拠しているものもある。
・講師の考え方によって若干通説判例とは異なる考えを教えられる。それでも、問題はないが、通説判例に対する批判をしっかりできるようになった上で反対説を採れるかというとそうでもない。

論文マスター

こちらは、基礎マスター講義後に、論文問題対策として受ける講座です。基本的には、講師から各回の予習問題が指定され、授業では当該問題の解説、処理手順、関係する論点や知識を確認していきます。論文マスターの問題は、旧司法試験の問題、予備試験の過去問、法科大学院入試の問題等で構成されています(改題含む)。クラスによっては、基礎マスター段階から論文マスターの問題を解くようなことを指導することもあるようです。
<利点>
・各科目十分な量の演習量は確保できる。
・民訴法などは、旧試の焼き直しが出題されることも多く旧司過去問に触れておく意味はある。
・予備試験の過去問が掲載されているので(直近の令和分の掲載は私の持ってる論マステキストにはない)予備受験生はもちろん司法試験受験生にも役に立つ。
<欠点>
・公法系(行政、憲法)は、本当に旧司、あるいは古いロー入試の問題、オリジナル問題をやる意味があるのか疑問。やはり、過去問が一番。
・論述例の訂正が多い。講師が答案を作成するのではなく、バイトないし伊藤塾社員が作成しているため条文を意識した良い答案になっていることは少ない。
・論述例が採用している見解、処理手順が古いものがある。すでに、採点実感や出題趣旨で何度も指摘されている点(例えば、刑法の因果関係や共犯についてや刑訴法の捜査分野や伝聞法則について等)が訂正されないまま掲載されている。

コンプリート論文答練

予備試験受験生対象の答練講座。奨学生試験や予備論文の成績でお安くうけることもできるので受けるのであればそういった割引を利用することを考えるべき。
<利点>
・初見問題を時間制限がある中で解くので、真に実力を試すことができる。
・本番を想定した練習をすることができる。
・それなりに出題可能性がある問題、最新判例に依拠する問題等、試験対策としての効果はある問題を解くことができる。
<欠点>
・問題作成はバイトなので、どうしても試験委員と同じほどのレベル感の問題を作ることはできない(一見似ているが、似て非なるもの)。
・採点者毎に採点の波があり、詳細に欠点を指摘してくれるものもあれば、理不尽に厳しい採点、全く指摘がないやる気がない採点も存在する。精緻な採点目当てで受けるにはコスパが悪い。

論証集・短答過去問集

伊藤塾は、論文ナビゲートテキストという論証集と短答過去問集を受講生に配布しています。
㈠論ナビ
<利点>
・それなりに、網羅性高く論証や判例を記載している。
・それぞれの項目の基礎知識も合わせて掲載しており、軽くした基礎マのような感じ。
<欠点>
・論証の内容がほぼ改訂されず、内容が古すぎるものがある。一部、明らかにおかしい論証が存在する。また、新しい判例は掲載されず、司法試験・予備試験出題済みの重要論点について論証が載っていないことある。
・論証集であるのに、基礎知識まで掲載していることで文量が多くなっている。
㈡短答過去問集
<利点>

・全予備試験・司法試験の短答過去問を分野別に解くことができる。
<欠点>
・解説が冗長。厚すぎてそれ自体の持ち運びには適さない。

加藤ゼミナールについて

私が、こちらを受講したのは、ロー2年の予備論文の受験後でした。当時、予備論文を受けて思った感想は、「このままではマズい」ということ1点でした。それなりに、演習もしたし、論証も覚えたけど、予備論文に歯が立たなかったのです。
そこで、何か私に合う、詳細に処理手順含め解説してくれる講座はないものかと思って行き着いたのが、当時は資格スクエアで講師をしていらした加藤喬先生の総まくり講座でした。そして、加藤先生が資格スクエアから独立後に加藤ゼミナールで過去問攻略講座を受講しました。

総まくり講座

主要7科目について、司法試験論文式試験に出題され得る知識・論点・判例を中心に各科目を全体的に見ていく講義です。伊藤塾の基礎マスターの発展版的なイメージ。基本概念や基礎知識はあることを前提に重要論点の深堀や試験委員が求めている答案の構造、論点の処理手順を出題趣旨、採点実感の解釈を基に学んでいきます。全体で、110時間しかないので、7科目の講義としては短めです。
<利点>
・各科目の全体を比較的短時間でおさらいすることができる。
・各科目の重要論点や司法試験で問われる知識や問題意識の角度について相当の深堀ができる。また、答案例を適宜載せて、処理手順も明確化がなされている(例えば、令和4年司法試験刑訴の設問2以降は全て総まくりテキスト・論証集に答案例の形で処理手順も論証も載せられている)。
・最新判例、最新の出題趣旨・採点実感に適合し、学説上の議論も抑えられているので、試験的に最も評価される考え方を学ぶことができる。
・民訴法は後半に重要な旧司、新司、予備の問題と先生作成の答案例があり、刑訴法は後半にこれまでに新司、予備で出題された伝聞法則の全ての問題について丁寧に思考手順と推認過程を説明した論述例がある。
<欠点>
・テキストの誤記や誤解を招く表現がそれなりにある。その度に、自ら訂正する必要がある。
・ものによっては、冗長な表現があり、とても書けるものではない論証があるので、適宜加工する必要がある。
・若干、分野によっては、記載の学説同士が矛盾しているのではないかと思われる部分もある。

過去問攻略講座

主要7科目の過去問について、プレテストから最新のものまでを解説するもの。問題文、先生がまとめた出題趣旨と採点実感とそれに対する解説、先生自身が作成した答案例がついている。
<利点>
・試験的に評価される答案の書き方、問題意識の示し方、論証、処理手順の示し方を学べる。
・答案例が先生自身の作成のため、非常にレベルの高い模範解答になっている(先生も、このレベルが書ければ上位2桁ないし10番以内には入ると自信をもっている)。
・最新の令和の問題については、中位答案(先生の基準では、100位~200位に入る答案例)も掲載されている。
・過去問をはっきりとランク分けし、再度の出題可能性がある論点や問題、問題意識を明示してくれる。
・古い年度のものも全てあるので、対応できる幅が広がる(近年の司法試験は古い年度の新司法試験を焼き直している問題が相当数ある)。
<欠点>
・プレテストから掲載されているため分量はかなり多く、ランク分けによって調整されているとはいえど、すべてを消化しきるのはなかなか難しい。
・答案例のレベルが高く、このレベルでは書けないなと感じることが多い。適宜、自分で作成できるレベルを見極める必要があるが、どの程度なら許容されるのか不明確になることも多い。

答練

加藤ゼミナールでは、答練を実施していませんでした。

論証集

加藤ゼミナールでは、各講座に付属する形で総まくり論証集という論証集を配布しています。
<利点>
・各論点の論証だけではなく、論文を書くために必要な条文知識や趣旨、答案例のようなものや重要論点の処理手順、当てはめのコツ、考慮要素、科目によっては論文の型や全体の処理手順、受験生が誤解してしまっている理解の例までをコンパクトに司法試験対策として必要十分な形で掲載している。
・総まくりテキスト記載の論証は長い理解用のものであるが、論証集記載の論証は実践的な長さに加藤先生が加工なさったものでありそのまま覚えて書けばよい。
・論証集一冊でほとんど完璧に司法試験論文対策を網羅することができる。
<欠点>
・正直、ほとんど見当たらないが、多少誤記が多いことと、加工された論証の中にも長いものや日本語が自分には合わないものがあるので自分で若干の修正をする必要がある。でも、まったくといっていいほど不満はない。

私見

私は、基礎講座を伊藤塾で、発展的内容及び過去問を加藤ゼミナールで学びました。その点で、言わせてもらえば、基礎講座は伊藤塾でよかったなと思っています。法律とは何か、各法律の基本的な概念や抑えるべき知識は何か、法的三段論法とはどういうものなのかは全て伊藤塾で教えて頂きました。

しかし、どうやら加藤ゼミナールもベテランの高野先生を招いて、加藤先生のテキスト監修の下、基礎講義を始めたということでこちらも注目すべきかなと思います。基礎講義は受けていないので実感は不明ですが、加藤先生の作成テキストのクオリティで分かりやすく講義がしてもらえ、講座の値段も伊藤塾の半額程度なら十分に受講する価値のある講座になっていると思います。

また、私は、伊藤塾のテキストと論文試験の過去問の接続に苦労しました。伊藤塾の基礎マ、論マをやっていればそれなりに解ける問題もあるのですが、やはり自分の理解が甘かったのか(今思えば、大甘でした。)解けない問題が多かったのです。
そういう意味では、総まくり講座や過去問攻略講座で発展的な内容や処理手順の解説、重要論点の当てはめまで含めた深堀、過去問の丁寧な解説を受けることで、本試験の過去問も処理できるようになったので、加藤ゼミナールの講義にここは軍配が上がるかなと思います。

また、加藤ゼミナールの総まくり講座では、違憲審査基準の定立、その適用についての深い理解や原告適格の各判例を詳細に分析した上での当てはめで拾うべき要素が網羅された答案例もついていること、刑法の因果関係、共犯、各論の財産犯の区別等、混乱しやすいあるいは処理手順が不明確な部分にはっきりとした解(試験委員会の見解に従った)が用意されていること、伝聞法則については刑事実務基礎でやるような丁寧な推認過程の組み方が解説されるなど多岐にわたり本試験問題を解くために必要なエッセンスがテキストと講義だけで補えたのがよかったと思っています。
とりわけ、刑訴法では当てはめで拾うべき事情や当てはめの書き方まで処理手順化してくださっていたので、伊藤塾で習っていた内容がスッと自分の中にはまる感覚がありました。

一方で、加藤ゼミナールの授業はあくまでも、中級者(他の予備校などで基礎講義を既に終わらせている人やローの既修者等)向けの側面が強いとは思います。
基本的な論文問題の解き方や思考方法、基礎事例と論点の対応関係などは伊藤塾で学ばせていただいたことも多いですし、論マスを担当されていた伊関講師が作成された民法の模範答案などはずいぶんと参考にさせて頂きました。
加藤ゼミナールの基礎講座がどの程度のものなのか未知数なので、この点では、長らく司法試験受験界を引っ張ってきた伊藤塾に軍配が上がると思います。

つらつらと書いてきましたが、まとめると以下のようになると思います。

・予備試験に短期合格をしたくて、知識の精度よりも多数のコマをこなして問題演習を行い、足りない部分はゼミ(伊藤塾では通学生をメインにゼミ制度があり、予備試験対策の中心にゼミが存在している感じはあります。)で補えばよいと思っている人
・講座でもテキストでも何でも存在し(大手の良さでもある)、常にすぐに質問できる環境が欲しい人
・対面の授業環境や自習室などの設備面が整っていてほしい人
⇒伊藤塾

・一人の講師に、講義から過去問演習、問題演習まで担当してほしい人。
・自分では、知識のブラッシュアップや論点の深い理解、処理手順の確立をすることができるか不安な人
・自宅などが伊藤塾の校舎の付近になく、伊藤塾の設備面の恩恵を預かれない人
・過去問を早期にそれなりのレベルで解けるようになりたい人
⇒加藤ゼミナール

・本当に初学者で、これから司法試験・予備試験・ロースクール入試対策を始めようと思っている人
⇒双方の予備校の入門講座のサンプルを聞いたり、受講相談をした上で決めるべき(予備校代は決して安くないので)


ホンネの時間

さて、ここまでは、比較的中立の立場で両予備校を比較してきましたが、それじゃあつまらないですよね?

それならば、ちょま林のホンネもここで書いておこうと思います。


私としては、加藤ゼミナールがイチオシです(加藤ゼミナールから広告宣伝費は一切もらっていません。くれてもいいんやで)。

伊藤塾にはとても感謝していて、自分が7科目を理解できるようになれた基礎を作ってもらったのは伊藤塾だと思っています。
しかし、いかんせん講師が基礎マから論マまで一貫していなかったり、テキスト・論証集の記載がさすがにこれは現在では試験委員から評価されないだろうという記述であったりしてそのロジ面での不安がありました(実際、一部科目は伊藤塾の中の人たちでも改訂した方がいいと不安視しているようです)。また、そもそも自分は、重要論点にはあらかじめ処理手順を作るタイプなのですが、伊藤塾ではその講義だけではなかなかうまく処理手順(正確には、処理手順は紹介されますが、それがそもそも司法試験委員会の見解を反映してないことが多々あり)を作れず、自分で基本書や概説書を用いて作成していました。
ところが、それがどの程度合っているのか、正しいものなのかの確認が取れず、そもそも処理手順をつくることで勉強時間が埋まってしまうなど弊害も大きかったのです。

そんな中で、処理手順を含めて、各科目をかなり深く解説してくださる加藤先生の総まくりはまさにドンピシャに私にとってはハマる講座だったのです。論点や当てはめの充実はさることながら、先生が委員会の見解を下に処理手順を確立して明示してくれているので、余計な時間を取られることなく、試験的に正しい見解を自分になじませる時間を作ることができました。
私のような、インプット重視、各論点や処理手順についての知識をそれなりに固めて論文問題に望みたい人にはまさにハマるものだと思います。
結果として、加藤先生の講座が私の論文力のブレイクスルーを起こしてくれたと思っています(そのうち、加藤先生の講座の各科目はどこがいいか紹介する記事を書いてもいいかもしれませんね)。

現在の加藤ゼミナールは先述したように、基礎講座も開講なさっているので、そちらの詳細も気になります。そちらもテキストや授業内容が加藤先生が管理なさっているならかなりのクオリティのもの(レベルが高いということではなく、基礎を論文で使えるような形で丁寧にということ)を初学者段階から学べせてくれるのではないかと期待しています。
また、予備試験過去問攻略講座も販売されたようで、そちらもかなり期待が持てます。

そうなってくると、伊藤塾を受講するべきなのか?と思われる方もいると思いますが、司法試験の勉強を予備校をメインに行う場合はその予備校との相性がものをいうようになると思います。
自分に合う合わない基本書があるように、予備校にも合う合わないがあるはずです。実際、伊藤塾出身で短期、上位で予備試験・司法試験に合格されている方はいくらでもいらっしゃるので、私には合わなかっただけで、合う人はかなり多くいらっしゃるはずです。
また、加藤ゼミナールはオンライン予備校であり、実際の校舎が存在しないため、対面での交流や自習室はなく、質問対応においても難があります。
一応、加藤先生のブログを通して質問はできるのですが、先生がご多忙ということもあってすべての質問に返信があるわけではないですし、返信まで時間がかかることもざらにあります。この質問対応は改善がなされると良いなと思っています。
さらに、加藤ゼミナールは答練を用意していないので、今まで、誰にも答案を見てもらった経験がない方は、伊藤塾が行っているようなコンプリート論文答練やペースメーカー論文答練を受講されて誰かに読んでもらった方がいいとは思います。


結局、予備校選びで失敗したくない方は、丁寧に情報収集して、実際に説明会などに参加したり、予備校のサンプル講義を受講したりして自分に合うところを見つられるのが一番だと思います。
この記事もそのための一助にご活用ください。

以上が、私のホンネになっています。そこまで、毒々しい感じならなかったのは、私が初学者段階では伊藤塾、中級者以降加藤ゼミナールと使い分けたからでしょう。一般的には、こういった使い分けはよろしくないものとされるのですが、私は意外とうまく両者の差を使いこなせたような気がします。
それゆえ、両予備校が司法試験の論文で少なくとも戦えるレベルまで私を引き上げてくれたことに心から感謝しております。

これからも両予備校の発展をお祈りしております(なので、私を特定してお叱り電話をかけてこないで下さい)。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう。


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