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【読書メモ】“未”顧客理解 なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?

※本記事は、芹澤連の著書「“未”顧客理解 なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?」に関する読書メモとなります。


はじめに

本書の構成

ブランドの売上の約半分はあなたのブランドに興味のないないライトユーザーに支えられています。事業の成長やシェアを左右するのは、そうした普段意識することのない、顔の見えない未顧客たちです。

ノンユーザーやライトユーザーの場合は、ペルソナではなく“シャドウ”の理解が大切です。またS→T→Pではなく、P→T→Sと逆順で考える方が有益です。顧客セグメントなど存在せず、あるのは購買行動における規則性の違いだけかもしれません。

顧客視点を持つために必要なのは、客観的な特徴や属性の理解ではなく、主観的な行動原理の理解です。顧客が置かれた文脈や状況の理解に努め、顧客が見ている世界を見るということです。特に重要なのが、「顧客の合理」を理解することです。

未顧客理解では、サイコロを振る回数自体を増やすことがポイントになります。未顧客に購買してもらうためには、まずサイコロを振ってもらうことから始めなければいけないのです。そのためには、未顧客の生活文脈の中にブランドへの入り口をできるだけたくさん設けて、ブランドにたどり着く確率を高めていく必要があります。こうした考え方をCEP(カテゴリーエントリーポイント)と言います(Romaniuk&Sharp,2022)。いかにCEP(購買のきっかけ)を見つけ出し、それをブランドと結び付けるか、つまり「ブランドへの新しい入り口を設計する方法」が大きなテーマです。

大切なのは購買行動の規則性や法則性に気付くこと。
規則性の一つ「ゼロオーダー」:消費者が今回何を買うかは、前回いつ何を買ったかとは無関係にその都度決まるという仮定です。購買の選択肢に入るブランドは、消費者それぞれの好み(ブランドに感じる効用)に応じていくつか決まっています。そして、その好みに基づいて各ブランドを選ぶ確率が決まります。

購買行動の規則性・法則性

リピート促進はロイヤリティや満足度を高めるゲームに見えて、実は浸透率を増やすゲームです。

第1章 なぜ“未顧客”理解なのか

未顧客”とは:市場の大部分を占める「買ってくれないノンユーザー層」と「買ってくれても年1、2回程度のライトユーザー層」に、「平均的なターゲット像に当てはまらない少数派の顧客」のことを指します。

「1:5の法則(新規顧客獲得には、既存顧客を満足させ維持するのに要するコストの5倍もかかる可能性がある)」や「5:25法則(業種によって異なるが、顧客の離反率を5%減らせれば、利益は25~85%増加する」は一般化できる話ではなく、また誤った認識であるという指摘もあります。(East et al., 2006; Sharp, 2010)。

ブランドの成長に直接影響を及ぼすのは浸透率(顧客数)であることが確認されています。
成長のキードライバーは浸透率であり、ロイヤリティはそれを推進・維持するもので、補助的な役割になります。

既存顧客へのマーケティングでは十分でない理由:
・ヘビーユーザーは絶対数が少ない
・ヘビーユーザーにさらに購入してもらうのは難しい
・既存顧客の認識や行動を広告で変えることは難しい
・既存顧客へのアクティベーション施策は短期的な効果はあるものの、効果期間が短い
・ROIを成果指標として追って売上のトップラインが増えるわけではない(同じターゲットに対して施策を重ねるほど効果が減っていく)
・ロイヤリティは、ロイヤリティ施策によって高まるのではなく、浸透率の増加に伴って高まる

平均への回帰:ヘビーユーザーはライトユーザーに戻りやすく、逆にライトユーザーがいきなりヘビーユーザーになることもあるわけです。これは時系列データでよくみられる現象で、施策を打って止められるものではありません。

負の二項分布

未顧客の文脈に応じてブランドを再解釈することで、興味関心を持ってもらうことが大事です。
大事なのは全員に好きになることではなく、ブランドへの入り口が1つ増え、浸透率が高まることです。

再解釈例

第2章 無関心を動かす「再解釈」の技術

未顧客の行動を観察したり、インタビューしたりすることで、顧客の現在の成果文脈を表すデータを得られます。
定性的なアプローチにおいて、思考や行動の規則性をつかまえにいく姿勢が重要です。

ブランドの再解釈例
Before: 糖質オフで甘さ控えめ
After: 今日をちゃんと締めくくるぜいたくな時間、糖質オフだから夜でも食べられる

広告設計の本質は穴埋めではなく、ブランドを顧客価値に翻訳するストーリ作りです。

クリエイティブブリーフの作成

第3章 未顧客へのマーケティング戦略

従来のマーケティングとの違い

顧客理解で大事なのは、仮説検証の前段階である問い(リサーチクエスチョン)の精度を上げることです。最初の問いの答えが次の問いにつながり、それに答えることでより核心的な問いに変化していきます。
問い続け、問いを洗練させていく過程こそ最も「理解」に近い状態です。

新しい市場機会を見出すポイントは、ブランドが利用される生活場面における「顧客のゴール」を考えることです。顧客は生活というより広いくくりの中でブランドを捉えているため、ブランドの価値も利用シーンや文脈次第で変わるわけです。特に平均像に当てはまらない少数派や、想定外の利用方法に気づくことが重要です。

一人の顧客を深く掘り下げる定性的な分析は、その個人にモノを売るために行うわけではなく、個人の背後にあるより大きな市場や購買行動の規則性に気づくために行うものです。
特定の状況で繰り返し観察される行動パターンや思考の癖、文脈に依存する報酬など、決してその個人に限ったものではなく、言語化・商品化すればマスで再現できそうな規則性です。そうした新しい切口を見つけ、より大きな市場を狙えるように「ブランド側を見直す(再解釈する)」ことが顧客1人を深く理解することの本質です。

シャドウとは:人は周りに求められた役割に応じて仮面をつけ替え、その役割を演じています。そうした状況や相手に応じて使い分ける人格(仮面)はペルソナです。逆に、そうした役割を演じるために普段抑え込んでいる勘定や人格はシャドウです。

ダブルジョパディの法則:マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤリティも態度的ロイヤリティもやや低い。
つまり、顧客が多くなればロイヤリティは高まりますが、ロイヤリティを高めても顧客数やシェアが増えるわけではありません。

ロイヤリティの平均分布

第4章 新しい利用機会を生み出す「未顧客理解の5原則」

5原則とは以下5つのものに対する再解釈です:

  • 文脈と意味:文脈が変われば意味が変わり、意味が変われば価値も変わる

  • 市場:未顧客は本来戦うべき市場を見通すための「レンズ」である

  • ターゲット:行動の背後にある欲求、抑圧、報酬から「顧客の合理」を理解する

  • ベネフィット:「ブランドの特徴」×「未顧客にとっての報酬」=文脈最適のベネフィット

  • ポジション:モノの売り方ではなく、モノが使われる行動の増やし方を考える

着目すべき未顧客の行動例:
不合理、矛盾:マーケターから見ると説明がつかない、合理的に思えない行動
想定外の使い方:マーケターが想定していた用途や利用シーン以外での使われ方
工夫や自助行動:専用の商品やサービスを採用せず、自分なりの工夫や代替品を用いた問題解決が行われた行動
極端の購買行動:利用額や利用人数、購買量や間隔、時期など、特定の側面が極端に偏った行動
イベントやシーズン:ある特定の時期や季節に集中する行動
繰り返される行動:特定の時間や場所など、同じ条件下でのみ繰り返される行動
準拠集団への帰属意識:特定の文化や集団への帰属意識が表れている行動。その集団の価値観やルールが色濃く表れている行動

顧客の合理は、得られる報酬の期待値が最も大きな行動を多く選ぶように収束していき、あるCEPにおいて何が未顧客にとっての報酬になるのか、それはなぜかを文脈ベースで探ればよいのです。

CEPにおける顧客の合理を捉える4つのポイント:
・きっかけ:その行動は、どんな状態で起こったのか?
・欲求:その行動は、どんな欲求に根差しているのか?
・抑圧:その行動は、どんな制限や条件付けを受けているのか?
・報酬:その行動をすると、どんな良いことがある(悪いことが起きない)のか?

きっかけ:事実を中心に状況を把握していく
欲求のチェックリスト

未顧客の行動を増やすための施策例:
・ゴールや行動、状況に名前、ラベルを付ける
・行動を褒める、報酬を与える
・行動に有益な情報を提供する
・行動の難しさや大変さ、つらさを代弁する
・行動が欲求を満たす様子を描写する
・行動のすばらしさや意義に共感を示す
・行動をしやすい場所やイベントを用意する

ブランドにとって望ましい行動を増やすために有用なのは「随伴性」の理解です。随伴性とは、あるきっかけで行動が起こり、その結果が本人にフィードバックされて今後の行動を条件付けする(増減する)ループ構造のことです。
「なぜその行動が起きるのか」という初回のきっかけだけではなく、「なぜその行動が継続するのか、もしくは継続しないのか」についても思考を深めるべきです。

随伴性を利用して施策を作る手順


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