二階の窓から帰宅した日

母は毎日1時間かけて職場に通っていたので、夜帰るのがいつも遅かった

家に帰ると待っている(というかテレビをつけっぱなしで寝ているので、正確には待っていない。鍵が開いているだけだ)のはおばあちゃん。

そのおばあちゃんが買い物に行っているときは、自分で秘密の場所からカギを持ってきて、家に入っていた。

ある冬の日のこと。ただいまーと家に帰ったがおばあちゃんがいない。買い物にでも出かけたのかな?と思い、秘密の場所を見ると、いつもの場所にカギがないではないか。

これは困った・・・家に入れない。おばあちゃんいつ帰ってくるのかな?と思い外で待って見るものの、10分経っても20分経ってもおばあちゃんは帰ってこない。小学3年生の自分にとって、いつ帰ってくるかわからないおばあちゃんを待ち続けるのは想像以上につらい。

しかも季節は真冬。気温が落ち、少しずつ寒くなってきた・・・

さてどうしたものかと家を見上げると、2階の窓のカギが空いていることが判明!

私は母に怒られたり、何か嫌なことがあるとよく2階の屋根で過ごしていた。つまり屋根の上は自分のホーム。2階の屋根までたどり着けばあとはどうとでもなる。

どうにか2階にたどり着こうと小さな脳みそで試案した結果、物置に昇れば2階に飛び移れることがわかった。

物置の上に昇るためにはハシゴがいる。私は対して面識のない隣の家を訪ね、おばちゃんにハシゴを貸していただきたいと申し出た。おばちゃんに事情を聴かれたので正直に理由を話すと、「おばちゃんの家で待ってたら?」という合理的に考えれば最高の提案をさらたのだが、その時の自分は聞き耳持たず。物置に昇るというミッションをやり遂げるため、そのありがたい申し出は断り、ハシゴを借りたのだった。

ハシゴがあれば物置に昇るのは決して難しくない。大事なのはここから。物置の屋根から2回の屋根まで幅2m30cmくらいあるだろう。2メートルを超える物置からジャンプして飛び移るのには勇気を振り絞らなければいけない。

自分の実力を出し切れば、2m30cmは飛べるだろうが、少しでも足がすくんだら失敗してしまうかもしれない。

悠久の時が流れ、寒いはずなのに身体の奥がじわっと熱くなるのを感じる。

「ボクならやれる!」

自分を信じて短い助走を取り、物置の端で踏み切る。足に力をグッと入れ、きれいにジャンプ!

・・・ガッ

10cm程度の余裕を残し、無事2階の屋根に着地することができた。

やった・・・やり遂げた!さぁあとは家に入るだけだ。

勝利の余韻に浸っていると、足元からよく知っている声が聞こえた。

「Raptorおかえり。2階で何やっとるん?」
「おばあちゃん!カギがなかったよ!」


「ごめんごめん。もっていっちょった。」
「ごめんじゃないやん!!頼むよー!大事じゃったやろ」

ひとしきりおばあちゃんに抗議したあと、私は2階の窓から帰宅した。

追伸:母親と喧嘩した際、いつもおばあちゃんだけは私の味方になってくれた。自分が成功できたのはまちがいなくおばあちゃんのおかげだ。今でもおばあちゃんが大好きだ。最近少し元気がないが、ずっと健康で、長生きして欲しい。



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