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エヴァ・デュヴァネイ『13th -憲法修正第13条-』(2016)見た

最近、自分の消費行動について最近考えてしまう。木村花さんの死によって、リアリティショー『テラスハウス』が終わったことや、男性シッターによる児童へのわいせつ発覚と、その後の対応の杜撰さによってベビーシッターマッチングアプリの「キッズライン」に失望させられたのがきっかけだ。

テラスハウスもキッズラインも、「大丈夫なのかな?」とどこかで薄々感じながらも、その娯楽性と利便性に惹かれていた。薄々感じていた漠然とした不安が、深刻な結果によって裏付けられてしまったことに、想像以上のショックを受けた。
どちらの件も、もっと真摯に情報を見極め、「漠然とした不安」に向き合っていれば、少なくとも僕ひとりの消費行動は変えられたのではないか、どんな行動の選択肢があったのかは分らないが、問題に対して何かできたのではないか、と思ってしまう。

『13th -憲法修正第13条-』を見た。アメリカの社会問題であるアフリカンアメリカンの大量投獄は、「軍産複合体」(Military-industrial complex)ならぬ「産獄複合体」(Prison Industrial Complex)システムの結果であることを明らかにし、人種差別は形を変えながら今なお続いていると告発するドキュメンタリーだ。

「産獄複合体」は、市民を逮捕すればするほど、刑務所に囚人を入れれば入れるほど、関連企業が利益を上げる体制を意味する。
そもそもアフリカンアメリカンは、労働力として搾取されるためにアメリカ大陸に拉致された。黒人差別の問題は、そもそものスタートから経済問題だった。

南北戦争をきっかけに400万人の黒人奴隷が解放され、南部は深刻な労働力不足に陥り、経済も落込んだ。そこで経済回復の抜け道として、労働力として黒人を使役することを可能にしたのが、「憲法修正第13条」のある文言だった。
奴隷的拘束の禁止が謳われているこの条項には例外がある。「犯罪への処罰を除く」(except as a punishment for crime)というものだ。犯罪者は奴隷的拘束の禁止の例外になる。逮捕され、収監された黒人たちは今度は“囚人として”奴隷的に働かされる。

刑務所と民間企業の協力関係は、数十億ドル規模の業界に急成長中です。
スポーツ用品、ユニホーム、帽子、マイクロソフト、ボーイング、ミサイル誘導システム、JCペニーのデニム、ヴィクトリアズ・シークレット、アンダーソン・フローリングの製品……。アイダホポテトも受刑者が栽培から出荷までやってる。
(中略)
懲罰を利用して利益を得ることは許されないんだ。

全米人口のうち6.5%にしか満たない黒人男性は、全受刑者の40.2%を占めるという。一生涯のうち投獄される可能性は、白人男性の場合は17人に1人だが、黒人男性になると3人に1人と格段に確率が上がる。白人が黒人を搾取している構図は、数字の上でも明らかだ。

僕らの生活から戦争まで、不当に逮捕された黒人たちの奴隷的労働によって成り立っている現実がある。僕らは知らず知らずのうちに、誰かを搾取している。

『13th -憲法修正第13条-』を見ながら、他国の人種差別を勉強する、という気持にはなれなかった。自分の生活に密接にかかわる搾取の話だと思ったからだ。僕らは差別のシステムに加担している。
「今こそ見るべき映画」という紋切り型で口コミされている作品だけれど、もっと早く見ていなければならなかった映画だろう。

僕らが消費している商品やサービス、コンテンツはどのようなシステムに支えられて生産されているのか。あらゆる局面でその構造に意識的にならなければ、このグローバル社会で人間らしく生きることはできない。差別も結局は経済問題なのだ。倫理観・道徳観に訴えるだけではままならない。そして、黒人差別が労働力搾取の構造であるとすれば、労働力を搾取されている僕らだって、いつ差別されてもおかしくない、と肝に銘じておくべきだ。
「全ては金の問題」(“I can see it's all about cash” The Roots「Criminal」)だ。

YouTubeで無料公開されています。


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