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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -55- #ppslgr

「し……しんど、まさか最終決戦よりその後のどんちゃん騒ぎの方がキツイとは……」

その場に居合わせたパルプスリンガーの、実に七割くらいが襲い掛かってきた命がけの鬼ごっこは、俺が貴重な切り札をきった事で終結した。
即ち、ちょっとやそっとじゃ侵入出来ない幽世に退避する事だ。

「たけぇんだけどな……ここ」

古式ゆかしい温泉宿の廊下を肩を落として歩く。
この施設は現実世界と冥府の狭間に存在する、マヨヒガなどと呼ばれる境界の内側にある温泉旅館である。ちなみに異世界とはまたちょっと存在原理が異なるらしい。

本来は神族、御仏、妖怪と言った人ならざる存在が一時の安息のために場所なのだが、俺は過去のちょっとしたゴタゴタを解決した事で宿泊回数券を購入する権利をもらっていた。しかし、ただではない。むしろ高い。

「ほとぼりが醒めるまでざっと二週間泊まるとして……今回の依頼料、ほとんどすっとぶな……」

世界の危機をどうにかこうにかした割りには冴えない結末である。
平穏な日常が帰ってきた、とも胸を張って言い難いが大手を振って高いびき出来るだけ上等だ。割り当てられた部屋の前につくとガラリと戸を引いて客室に入る。

「これでコミックコーナーでもあれば良いんだが……いっ」
「やあ、おそかったね」

和式旅館に良くある、窓辺の空間で先んじてくつろいでいたのはM・Kだった。そうだった、彼にとって異世界に行くことが飛行機に乗っての旅行なら、幽世に来ることなどバスに乗って隣町に来る程度の難易度だろう。
要するに何の障害にもなっていないという事だ。

「ちょっちょっちょ、流石に今彼らの前に突き出すのは勘弁してほしいんだが!」
「そんなことはしないよ、なんだかんだ言って大騒動の後だったしね」

肩をすくめる彼に一瞬安堵するも、つい癖で周囲の気配を探るが少なくとも知覚できる範囲に伏兵が居ない事を確認すると改めて肩を落とす。

「皆大げさなんだ、彼女とは数日一緒に居たに過ぎないのに」
「本当にそう思ってる?」
「……いや、言い過ぎた」

背負ったままだった竜種大剣を壁に立てかけると、備え付けの冷蔵庫からCORONAを二本取り出してM・Kにも投げ渡す。ライムはなさそうだが贅沢は言えない。

「しかし、M・K。一つ気になるんだが」
「彼女の最後の言葉だろう?」
「それだ。あっちの方からこっちに来れる、その可能性はあると思うか」
「むしろ科学技術に傾倒したこの世界より、『魔法』という形で世界渡りとなる手段が残ってる可能性が高いと思うよ」
「そうか……」

要するに、アイツには勝算があるという事だ。
なら、せめて少しでも長く生きるのがこっちの責務だろう。

「ともあれ、俺は休む、休むぞーっ!」
「はい、はい、おつかれさま」

CORONAの瓶を打ち鳴らして乾杯すると、一気に黄金の液体を呷る。
潜伏期間が過ぎればまたぞろろくでもない胡乱トラブルが舞い込んでくるだろう。それまでしばしの休みだ。

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -55-:終わり】

作者注記

本作はNoteに投稿しているパルプスリンガーをモチーフに小説を書く、という企画の12作目だ。参加者は25人?いるので後13本だ、ガンバレ俺。

と言う訳で今回の主役はこちらの方。

mktbn=サンです。なんて読むのかは不明らしく歴史の闇に葬られた。

キャラクター設定については作品の雰囲気から、虚実を入れ替えたり、平行して進行したりといった所をクローズアップしてシンピテキ雰囲気のキャラクターとして設定させていただきました。それからデータ収集、分析派な所も!

搭乗機である「ソロモン」は作品の雰囲気に合わせてわかりやすい明快な機動兵器ではなくて、一見すると何なのかよくわからない、奇妙な存在として肉付けする方向に。

しかしこの判断で今度は文章上でどう表現したか迷ってしまうというオチに。まだまだ修行が足りない!(アーマード〇ュウツーとマー〇ザインの折衷に+αくらいのイメージです)

搭載武装は世界線をずらす機能を活用した物で作中では防御的な使用が多かった物の、実は割とエゲツナイ使い方も可能だったり。

ご参加ありがとうございました。

第一話はこちらからどうぞ

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#小説 #パルプスリンガーズ #スーパーロボット #毎日更新

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