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戦艦でマグロを釣りにいくんですか?おかしいと思いませんかあなた?-5-

「俺は何も聞かなかった」
「タンマタンマタンマタンマ!」

 しゃべるマグロを前にしばし硬直した後、意を決して杭を振り上げるA・Dを慌てて止める俺。背後で震えるマグロ。何という珍妙なる地獄絵図だ。

「ぴぇ~~……」

 制止する俺にやけに据わった目で告げるA・D。

「何を言ってるんだR・V、マグロがしゃべる訳がないだろう。俺達は船酔いかなんかで幻聴を聞いたんだ」
「いやしゃべってる!しゃべってるから!一度その杭降ろそう!な!?」

 俺の必死の説得にしぶしぶ鉄杭を下ろすA・D。気持ちはわからんでもないが流石に命乞いしてる無辜のマグロを殺めるのはカルマとか徳的に良くない。この先全部のマグロに命乞いされたらちょっとばかし考えてしまうが、ひとまずは見逃してやってもいいだろう。

「しょーがねーなぁ……今回だけだぞ?」
「わかってる、わかってる」

 まだまだ渋るA・Dをなだめつつマグロに向き直る。人間からは無感情に見える虚無のマグロ目がじっと俺を見てきた。どういう原理でこっちの声を理解しているのかイマイチ理解しかねるが(某魚の権威ならわかるだろうか)こちらから声をかけてやる。

「お前の言い分はわかった。ひとまず逃がしてやるが次釣り針にかかったら容赦なく食うぞ」
「おお……お優しい陸のお方……お願いです、わたしの最後の願いをお聞きいただけますでしょうか」

 マグロの言葉に再び顔を見合わせる俺達。どうやらこのマグロは命を賭して、自分の言葉を聞き届ける者に巡り合えるか賭けにでたのか?こちらの戸惑いを他所に息も絶え絶えといった様子で言葉を続けるマグロ。聞き逃しが無いように手早く情報端末の撮影を開始する。

「私達は今滅亡の危機に瀕しています……」
「滅亡だと!!!?」

 目を剥くA・D。釣りをライフワークの一つにしている彼にとってマグロ・シーライフの存続は重大な懸念事項だ。こんなうろんな状況であれ、訴えているのが当のマグロでは事の重大さが違うだろう。

「はい……数日前より現れた異形の怪物が我々マグロを片っ端から食い荒らしているのです……我々も必死に逃げたのですが、怪物の脚は長く素早く、遠くまで届いて我々を捕食するのです」
「フムン」

 顎をさすりながら思案する俺。マグロの末期になるであろう言葉を真剣な表情で聞き届けるA・D。一体どういう状況なのやら。

「お願いです陸のお方、我々海の者ではあの怪物には歯が立ちません、どうか、どうか我々をお救いください」
「安心しろ、お前の願いはこの俺が必ず叶えてやる」

 男気と気迫に満ちた表情で断言するA・D。相手がマグロでさえなければ様になるのだが……

「よかっ……た……」

 その言葉を最後に勇敢なるマグロはピクリとも動かなくなる。かなりの無理をしただろう上に、そもそも海中の生き物が陸でしゃべり続けるのも負担がかかるのは想像に難くない。ブッダエイメン。

「アッ!!!私の亡骸はどうぞお二人で召し上がってくださってかまいませんので!!!むしろ無駄にしないで!!!」

 俺が弔いをあげようとしたタイミングで一瞬だけ復活したマグロは、必死の訴えをのこして今度こそこと切れたようだ。なんて律儀なヤツなんだ……俺がヘンナ感心をしている合間に、A・Dの方は今度こそマグロが死亡したのを確かめるとマグロの想いを無駄にしないためにもきっちり血抜きして吊り上げると瞬間冷凍庫に移送していく。名も知らぬマグロよ、お前が命を賭けて訴えたジキソは俺達がかなえてやるから成仏するんだぞ?

【戦艦でマグロを釣りにいくんですか?おかしいと思いませんかあなた?-5-終わり:-6-へと続く

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