北欧発、食品ロスから「うま味」を生み出すスタートアップ
※Nordic Umami社は、2023年12月より「Biomush」社に社名を変更。
植物性食品に足りていないもの。
それは何か。
同分野で深い知見を持つフィンランド人のReetta Kivelä氏とOuti Mäkinen氏の二人が辿り着いた結論は、「うま味」でした。
どんな植物性食品も、うま味成分・うま味調味料が合わされば、
誰もが美味しく、進んで食べられるようになる。
食品科学技術の領域で博士号を持つMäkinen氏は、植物性原料のうま味の開発に早速取り掛かります。
自宅で様々な食材で実験をした結果、なんと食品産業で
廃棄物にされている野菜の皮や豆かす等の「食品ロス」を独自の技術で発酵させることにより、驚きの「うま味」を創ることに成功しました。
この植物由来のうま味と、
食品ロスの再利用というまさに「Waste to Taste」のコンセプトをもとに、
二人はNordic Umami社を創業。
革新的な商品を生み出し、2021年の設立から僅か一年ほどで2.6百万ユーロ(約3.8億円)の大型資金調達を実施。驚異的なスピードで成長を続ける同社の飛躍を引き継ぐ新CEOのKaisa Karhunen氏に、同社の商品についてと、同氏を20年以上突き動かしてきた「食」への強い想いを聞きました。
Nordic Umamiの「うま味」
食品ロスに目を付けられた理由を教えてください
Karhunen氏:使用したきっかけは実験を重ねた結果でしたが、うま味調味料が出来上がったのは偶然でした。また、世界の食料の14%は食べれる状態にあるにも関わらず、市場に出る前に失われているという事実があり、この問題に対して我々も取り組みたいと思いました。
食品ロスの内、具体的にどのようなものを使用されていますか
Karhunen氏:例えば野菜、果物の皮、豆類のかす、醸造かす等が中心です。なお、食品ロスや廃棄物と言っても腐っているものではなく、完全に安全で食べられるもののみを利用しています。また、クリーンラベルを意識しており、原材料は出来るだけシンプルに、種類も少なく、中身の透明性を重視しています。
商品としては、どのようなものがありますか
Karhunen氏:現在、主な商品ラインアップとしては3種類あります:
1.「Meatless Umami Bouillons」
2.「Soyless Umami Sauce」
3.「Umami Sea Salt」
いずれもグルテンフリー、添加物不使用、大豆・小麦不使用、動物性原材料不使用です。
新CEO Kaisa Karhunen氏
Karhunen氏ご自身について、教えてください
Karhunen氏:私はこれまで20年以上、フードビジネスに携わってきました。大手食品会社のValioやユニリーバの食品部門でセールス、マーケティング、カテゴリーマネジメント等、様々な側面からフードビジネスを経験してきています。
直近では独立して食品の輸出業や、別のフードテックスタートアップのCOOを務めていました。
食への強い想いがあるとのこと。その背景を教えてください
Karhunen氏:私が育ったフィンランド東側のカレリア地方は、国の代表料理で国民食の一つとも言われる「カレリアパイ」の発祥地であるなど、伝統的な食文化が根付いています。森では新鮮なハーブやベリー類、そしてきのこ類も豊富です。きのこやブルーベリーを摘んで調理したり、その季節に採れる食べ物を使った料理をいただくことはとても日常的でした。
このような環境で育ったこともあり、私は美味しく、且つ、健康的な食べ物・料理が幼い頃から目が無く、「食」への愛情や拘りは人一倍強かったように思います。だからこそ、この業界で20年働いている今でも仕事を心から楽しめているのだと思います。
Nordic Umami社にCEOとして入社された決め手は何でしたか
Karuhunen氏:私は、食べ物が農家からテーブルに運ばれるまでの苦労、大変さを幼い頃から自分の目で見てきたため、当社に入社する前から食品ロスに対して強い問題意識を持っていたことや、近年では個人的にクリーンラベルへの意識が強まっていたこと、さらには長年のフードビジネスの経験が活かせることも入社を決断した理由の一つです。
しかし、最終的な決め手は子どもからの一言だったかと思います。
最近の子どもたちは地球の環境問題に対する意識が高いと感じてはいたのですが、ある日自分の子どもから、
"Why aren't you saving the world?"
と言われてしまい、Nordic Umamiに入社したら自信を持ってママは地球を守る仕事をしてるのよ、と言えると思いました。
他にも当社への入社を決めた理由として、私自身はお肉を食べることを完全にあきらめるのではなく、摂取する野菜を増やしたいという考えなのですが、これは当社も同じで、当社の商品はお肉料理に使うのもOKですし、ベジタリアンの料理に使っていただいてもOKです。
あと、ハンズオンで仕事ができることも自分に合っています。例え役職はCEOでも、時には屋根の雨漏りの修理もしますし、その後すぐ投資家の方々とお話することもあります笑 この手触り感が楽しいですね。
と言うことで、当社への入社理由はたくさんあります 笑
インタビューを終えて
インタビュー後、Karhunen氏は笑顔で次の会議に移られました。
著者がその後、従業員の方としばらくお話をさせていたただき、同社オフィスから帰路につこうとした時です。Karhunen氏が著者に気づいて、会議を抜け出し駆け足で著者のところまで来て再度御礼のご挨拶をしてくださいました。
インタビュー中、幾度とKarhunen氏から「人("People")」という言葉が出てきました。職種では人と直接接することができるセールスが特に好きとも仰っていましたが、きっと同氏は無類の好人物で、「食」と同じぐらい「人」を大切にする心を持ち、それが同氏のCEOとしての素質であることに違いないでしょう。
[号外] 日本航空とのコラボを発表
[2024年3月] 日本航空のヘルシンキ発便で、機内食に同社の調味料が採用されることが発表されました。2024年3月1日から2024年8月末までの期間限定で、具体的にはビジネスクラスのベジタリアンメニューに同社のSoyless Umami Sauceを素とした柚子ドレッシングが使用されます。
個人的に、本件のような北欧企業と日本企業とのタイアップにより北欧と日本の交流がさらに深まることに無上の喜びを感じると同時に、今後同様のケースが増えて行くことを切望します。
同社プレスリリース:
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