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【即興実験小説】いびきと生き死に(息してる?)

妻は夫のいびきに辟易しており、もはや同室で寝るのは不可能というほど困っていた。枕を変えたり、横向きに寝かせてみてもやはり夜中に何度も起こされ、そのたびに失望を覚え、愛情は冷え切り、むしろ殺意すら感じた。
起きている夫に相談しても、寝ているときだから分からない、そんなもの我慢しろと全く取り合ってくれない。
ある夜、また寝ている夫に起こされ、ついにその首に手をかけそうになったところで夫が予言めいたことを言った。成功が訪れるだろう、しかしそれはなかなかに遠い。それは夫の声とは全く異なる、重々しく威厳に満ちた声だった。
その晩から、夫のいびきで妻が起きるたび、一言の予言が聞けた。夢を見るような成功だろう、汝はそれに溺れひとたび手につかんだら幸せの境地にいたるだろう、などなど。
起きている夫の様子は特に変わりなかったが、妻はもう夫のいびきを責めるのをやめた。
予言が気になるため妻は寝不足となり、夫はむしろ妻に早く寝ろと言われるため仮眠気味だった。
だんだんいびきの頻度は長くなり、予言も長くなり、妻は、夫がだんだんひどくなるいびきや予言の間に無呼吸になっていることにも気づいていたがそれをどうこうする気も無かった。下手にいびきをいじって予言が止まることの方が怖かった。
予言は、成功が急激に近づいていることを告げていた。
ある番、ついに予言の口が、さあ今こそ成功の時、と告げた。その瞬間夫の呼吸が完全に止まり、息を吹き返さなかった。妻は、久しく乗っていない夫にまたがり、死神と交わりながら、ああ、成功じゃなくて性交かあ、とぼんやり思った。


渋澤怜(@RayShibusawa

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お題:遠い成功 必須要素: いびき
制限時間:15分 ※5分オーバー!  文字数:662字
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