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珈琲

 季節は冬。

 19時、珈琲を淹れる。本来ならカフェインを控えるべき時間帯だろう。でも今日は、何となく寝れない気がしている。そんな日くらい珈琲を淹れてぼんやり夜更かしするのも悪くない。まだ平日は続くが、都会に疲れた身体を休めるのにゆっくり時間を流すのも良いだろう。少なくとも酒よりはマシなはずだ。
 そこら辺にほうっておいた『BRUTUS』のカクテル特集を読んでいる。カクテルだけじゃなく、バーテンダーの情報も載っている。「Book in Book」には、カクテルベース毎にまとめられた東京のBarの情報まで載っている。Barとは縁遠い生活をしているのだからこんなものを読んだって仕方がないのだが、「そのうち役に立つだろう」というどうせ来なさそうな“そのうち”のために読んでいる。“そのうち”を呼び込めるように行動するか。

 22時、完璧に冷えた珈琲を飲み干す。暖房を付けてない冷えた部屋で、身体の芯から冷えていく。GUで買った上下セットのもこもこ部屋着を着ているとはいえ、夜の物悲しさと相まって体感温度以上に寒く感じる。『BRUTUS』なんかとっくに読み終わった。次は何をしようか。そうだ、『BRUTUS』に登場した麻布競馬場さんの著作を調べてみよう。短編集っぽい紹介がされていて、ここ最近の読書気分にとても合いそうな気がする。
 最近はめっきり読書の習慣が抜けきってしまった。昔、通学の電車で始発駅から乗っていたこともあって、ひたすらに本を読んでいた時期がある。ひと月に10冊近く読んだだろうか。それ以降はめっきり読まなくなってしまったけど、ごくたまに寝る前のベッドで読むことがある。ただそれも最後に読んでから数か月経った。もう使う電車が変わって、電車で読むことは難しいだろうけど、寝る前の数十分読むのくらいはできるだろう。短編集から始めるか。

 0時、空いたカップだけが残っている。お湯を少しそそいで、カップを少し揺らしながら、シンクに運んでいく。洗うのは明日にしよう。一晩くらい置いておいても問題ないはずだ。この後どうしようか、久しぶりに煙草でも吸うか。こんなにクソ寒いのにわざわざ窓を開けて吸うなんてバカらしいが、既に珈琲を飲んでバカらしくなってるのに今さら気にしたところで仕方がない。出窓に腰掛けながら煙草に火を点ける。
 昔は煙草は喫むと書いて“のむ”と言ったらしい。数年前に「三島由紀夫VS東大全共闘」の映画を観ていて初めて知った。確かに喫煙というくらいだから、“喫”が使われていてもおかしくない。とはいえ“のむ”と読むとは露ほども思わなかった。常日頃使っている日本語ひとつとっても、知らないことばかりだ。生きているだけで日々是勉強である。

 7時、遠くで音がきこえる。携帯のアラームが鳴っているみたいだ。いつ寝たのだろう、ベッドには入っているが照明はしっかり点いている。そのくせ気分はしっかり快眠で、これ以上ない素晴らしい朝を迎えている。
 昨日は確か夜に珈琲を飲んだはずだ。さっぱりわからない。とにかく準備を始めなくては、せっかく定刻に起きたのに遅刻してしまう。とりあえず、シンクのカップから洗おう。

僕の生活の一部になります。