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『ビジネス・エコノミクス第2版』~明日使える経済学の本~

こんばんは。とある会社員の本棚へようこそ。

経済学には以前から興味があり、色々な本を読んできましたが、最近読んだ、伊藤元重先生の「ビジネス・エコノミクス第2版」は、これまで読んできた本とは一線を画す、わかりやすさでした。

伊藤先生と言えば、経済ニュースの解説でもおなじみですので、ご存じの方も多いかと思います。復習がてら、本書の内容をご紹介してみたいと思います。

本書の最大の特徴は、経済理論を身近なビジネス事例に関連付けて説明していることにあります。

これまで読んできた経済学に関する本は、マクロ経済学、ゲーム理論、行動経済学、など、個別のトピックに特化したものが大半でした。

どれも、面白くて、それなりに勉強にはなるのですが、理論の説明に偏りがちで、なかなか実務に役立つ具体的な示唆が得られにくいという不満がありました。

本書は間違いなく経済学の本ですが、他の本と異なる最大の特徴は、メジャーな経済理論を、誰もが知っている企業の例を用いて説明している点です。筆者が日本人ということもあり、日本企業の例が多く、時代背景もイメージしやすため、翻訳書では到達しえないハラ落ち感を得ることができます。

例えば、「価格弾力性」という概念を、本書がどのように説明しているか、紹介してみましょう。

「価格弾力性」とは、価格変化に対する需要の変動のしやすさを示す指標です。まずは、以下の図をご覧ください。

図:本書に基づき、筆者作成

価格弾力性が小さい商品とは、商品Aのように、値段が下がっても需要がさほど変化しない商品です。

例えば、米は、価格弾力性の小さい商品の代表例で、米の値段が半分になっても、需要が倍になるということはありません。たくさん買ったところで、1日に食べられるごはんの量は決まっているからです。

一方、価格弾力性が大きい商品とは、商品Bのように、値段が下がると需要が爆増する商品です。

例えば、海外旅行は価格弾力性が高い商品の代表例です。20万円のハワイ旅行が10万円になったら、旅行者は2倍どころか5倍、10倍になるかもしれません。

ここで、多くの読者にとって重要なことは、価格弾力性の概念を理解することもさることながら、いかに日々の実務に応用できるかという点です。本書では、吉野家の牛丼価格戦略を事例として、その応用例を紹介しています。

吉野家は、デフレ真っただ中の2001年に、牛丼の値段を1杯400円から、一気に280円へ下げて、世間を驚かせました。しかし、この価格はやみくもに設定されたわけではなく、裏には、きちんとしたロジックがありました。

吉野家は280円に設定する前から、期間限定で実験的に、300円、250円と、様々な価格で販売していたそうです。

その目的は、「価格をいくら下げたらどの程度需要が増加するか」、すなわち、価格弾力性を見極めることだったそうです。

1杯250円に下げたときは、客が殺到してさばききれなかったため、オペレーション効率の改善も行ったそうです。

これらの実験を繰り返しながら、オペレーションの改善により店舗がさばける最大客数を増やしつつ、来店者数を最大化できる価格として280円を設定したということでした。

こうして一躍デフレ時代の旗手となった吉野家ですが、その後のBSE問題による牛肉価格の高騰を、価格転嫁できず、苦境に陥ったことまで記載されています。

その時も、どのように280円の価格から、単価を上げていったのか。これまでとは真逆の戦略もまた、読み応えのある内容でした。


これまで、いろいろな経済学の本を読んできましたが、このような詳細な企業の実例が、経済理論の説明と一緒に紹介されている本はあまりなく、ましてや、日本の事例を用いている本は唯一無二なのではないでしょうか。

価格弾力性以外にも、ゲーム理論や、外部経済効果、行動経済学などの経済理論も、吉野家同様分かりやすい事例とともに紹介されています。

小難しい経済理論を、明日にでも仕事に応用できるような形で説明してくれる本書は、ぜひとも多くの方にお勧めしたい本です。

よろしければ、秋の夜長のお供に、ご参照ください。

とある会社員|カイト


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