【罪と罰】心に響いた格言、名言、一節

マルメラードフ 酒飲みの哀愁

もったいぶった口のきき方をするくせは、色んな未知の人々とちょいちょい酒の上の話をする習慣から生まれたものであろう。

わけても家で痛めつけられ、日頃それを嘆いている者に、それがひどい。だから人といっしょに飲んだりすると、そういう連中は決まって自分の言い分を認めてもらおう、できることなら尊敬まで持ち帰ろうと躍起になるのである。

ーーー口調はやたら勿体つけてるくせに自分の言い分ばかり通そうとする。飲みの場で嫌がられる自分語りおじさんタイプ。自分も年を追うごとに気をつけなければ。

ラスコーリニコフの夢

病的な状態で見る夢は、間々、異常に鮮明で、気味悪いほど現実に似通ってることがある。

このような夢、つまり病的な夢は、いつも長く記憶にのこっていて、調子をみだされてたかぶった人間の神経に強烈な印象を与えるものである。

ーーー酔って寝てしまったラスコーリニコフは、弱った馬が酔っ払い達に殴り殺されるという夢をみる。殺人を計画している彼に対し、命を奪う行為がどれだけ恐ろしいことなのか、彼の良心が見せた警告だったのかもしれない。

ラズミーヒンの一節

ラスコーリニコフの親友である彼は、暗く周りを否定しがちなラスコーリニコフとは対極的な人物像として描かれている。彼のセリフは響くものが多かった。

正直で涙もろい人間はややもすると打ち明け話をする。すると腕っこきな人間はそれを聞いていて、食い物にする。そのうちにすっかり食いつくしてしまうというわけさ。

ーーー覚えのない借用書を掴まされたラスコーリニコフ。これは下宿先のおかみのパーシェンカに対して、身の上を打ち明けた所それをチェバーロフに利用されてしまった。
自己開示や身の上話は相手を選ぶべきという教訓。
また後に、ラスコーリニコフのソーニャへの懺悔をスヴィドリガイロフに利用されてしまうという形でも表れることとなる。

やれやれ、理屈っぽい男だなあ!何かといえばすぐ原則だ!きみは全身が原則というバネで固められているんだよ。自分の意志で向きを変えることもできん。ぼくに言わせれば、人間が良い・・・それが原則だよ、それ以上何も知りたいとは思わんね。

ーーー”仲良くする相手と何の共通点がある?”とイチャモンをつけるラスコーリニコフに対しラズミーヒンが言った一言。彼の人間性が現れた一節。
彼がこういう性格でなければ、気難しいラスコーリニコフと友人関係にもならなかったのだろう。

だってあの男は味方にしておく必要があるからな、突っ放しちゃ損だ。人間は突っ放しちゃ、・・・矯正はできんよ、まして子供はな。子供をあつかうには特に慎重さが必要だ。
おいきみ、進歩的石頭、何もわかるまい!きみは人間を尊敬しないで、自分を侮辱している

ーーー周りの人間を否定しまくり切り捨てようとするラスコーリニコフに対し。周囲を突っ放し人間を尊敬せず、自分自身をも侮辱する・・・・身に覚えはないだろうか?(少なくとも私はある)
進歩的石頭はパンチの効いた良い皮肉だ。

何かちょっとした悩みがあると、まるで雌鳥が卵でも抱くみたいに、後生大事にそれを持ち回る!そんなときでさえ他の作家たちの作品から思想を盗む。きみたちには自主独立の生活の匂いもありゃしない!きみたちの身体は蝋でできていて、血の代わりに乳のかすがよどんでいるのさ!きみたちの誰も、ぼくは信じない!どんな場合でも、きみたちがまず考えることは・・・人間らしさをなくすようにということなのだ!

ーーー悩みを自分で抱えるだけでなく、それを偉人の思想や言葉に置き換え向き合おうとしない。あまつさえ人間らしささえも捨ててしまう・・・それを自主独立していない乳臭いものだと言ってのけるラズミーヒン。
私もかつて抱えきれない悩みがあった時、偉人の思想に置き換えようとしていた。しかしそれでは向き合ったことにはならない。悩みに自身が向き合うことこそ人間らしさ、人間性が磨かれるのだ。

嘘は・・・真実につながります!嘘をつくからこそぼくは人間なのです。
十四回か、あるいは百十四回くらいの嘘をへないで、到達された真理はひとつもありません。しかもそれは一種の名誉なのです。
自分の知恵で嘘をつく。この方が他人の知恵オンリーの真実よりも、ぜんぜんましですよ。

ーーー他人の言葉、他人の知恵で正論や真実しか言わない。そんな人種はたくさんいる。他人をなぞるだけでは真理にはたどり着かないと。それならば自分で考えた嘘の方がましだという。あくまで人間性を重視するラズミーヒンならではの意見といえる(最もこれは意中の女性に対して舞い上がってくどくど述べている場面ではあったが)

社会主義者の犯罪論

犯罪は社会機構のアブノーマルに対する抗議だ・・・・それ以上の何者でもない。

社会がノーマルに組織されたら、たちまちいっさいの犯罪もなくなる、ということになる。抗議の理由がなくなるし、すべての人々が一瞬にして正しい人間になってしまうからだ。
彼らに言わせれば、人類が歴史の生きた道を頂上までのぼりつめて、最後に、ひとりでにノーマルな社会に転化するのではなくて、その反対に、社会システムがある数字的頭脳からわりだされて、たちまち全人類を組織し、あらゆる生きた過程をまたず、いっさいの歴史の生きた道をふまずに、あっという間に公正で無垢な社会になるというのだ!

ーーーノーマルな組織って一体何?と言いたいが、要は社会がきちんと組織されていれば犯罪も起きない公正な社会になるという。社会環境に重きを置いた理想論。
もっとも、歴史を否定し人間を否定する、意志がない、奴隷的だという点は人間性を重んじるラズミーヒンにより指摘されている。

ラスコーリニコフの犯罪論文

この世の中にはいっさいの無法行為や犯罪を行うことができる・・・いやできるというのじゃなく、完全な権利をもっているある種の人々が存在し、法律もその人々というのじゃなく、完全な権利をもっているある種の人々が存在し、法律もその人々のために書かれたものではない。
すべての人間は<凡人>と<非凡人>に分けられる。
凡人は、服従の生活をしなければならんし、法律をふみこえる権利がない。
ところが非凡人は、もともと非凡な人間であるから、あらゆる犯罪を行い、かってに法律をふみこえる権利を持っている。

ラスコーリニコフの犯罪論
<非凡>な人間はある障害を、それも自分の思想の実行が(ときには、それがおそらく、全人類の救いとなることもありましょう)それを要求する場合だけ、ふみこえる権利がある
といっても公式の権利というわけでなく、つまりそれを自分の良心に許す権利がある、と簡単に暗示しただけです。
偉人はもとより、ほんのわずかでも人並みを出ている人々はみな、つまりほんのちょっぴりでも何か新しいことを言う能力のある者はみな、そうした生まれつきによって、程度の差はあるにせよ、絶対に犯罪者たることをまぬがれないのだ。

人間は自然の法則によって2つの層に大別される。
第一の層 現在の支配者
低い層(凡人)・・・これは自分と同じような子供を生むことだけをしごとにしているいわば材料
一般的にいうと、保守的で、行儀がよく、言われるままに生活し、服従するのが好きな人々。彼らは服従するのが義務なのである。
第二の層 未来の支配者
本来の人間・・・自分の環境の中で新しい言葉を発言する天分か才能をもっている人々
みな法律をおかしている破壊者。彼らの大多数は、実にさまざまな形において、よりよきもののために現在あるものの破壊を要求している。そして自分の思想のために、たとえ血を見、死骸をふみこえても進まねばならぬとなると、・・・良心の声にしたがって、血を踏み越える許可を自分に与えるでしょう。

ーーーラスコーリニコフによると、人は凡人と非凡人の2つの層に分けられるという。
凡人は保守的で服従することしかしない。
逆に非凡人は自分の思想をもって、現在あるものを破壊し血を流す権利を持っている。そして彼らは生まれつき犯罪者たりえると。
とても危険な思想であることは言うまでもない。犯罪者が自分を非凡と思い込んでいたとしたら、犯罪を犯す権利があると判断してしまったとしたら・・・・これがたくさんの人に影響を与える人物であればあるほど、そこで流れる血は多大なるものになるだろう。

しかし、完全に否定できるだろうか?
ラスコーリニコフのいう凡人のように、保守的で服従することしかせず、ただ子孫を残すだけという生き方なんて誰だって嫌である。誰しも一度は自分を非凡だと、特別なことをしたいと思ったことがあるはずだ。
犯罪を許すかどうかは別として、現在あるものの破壊こそ進歩に繋がる。私もそう感じる時はとても多い。
そして続けてラスコーリニコフは次のように述べる・・・・

まちがいが起こりうるのは凡人の側からだけだ
彼らのかなり多くが自分を進歩的な人間、つまり破壊者と思い込んで新しい言葉を吐きたがる。
そのくせ実際は、たいていの場合新しい人々を認めないばかりか、かえって時代遅れの卑屈な思想の持ち主として軽蔑する。

ラスコーリニコフによると凡人がまちがいを起こすのだという。
自分自身を非凡だと、進歩的な人間だと思っているが、そのくせ新しい人々を軽蔑する(つまり保守的)。私も破壊的な意見や思想が思い浮かぶことがあるが、所詮は凡人の考えることなので結局はその域を出ない。そして偉人の言葉を借りたり多数の意見に従ってしまう。

ただし、凡人は決して遠くへは行けず、のぼせたら互いを鞭で叩いて自分の位置を知る

凡人は身の程を知るということだろうか。凡人は凡人同士で叩き合うという視点、それ自体がラスコーリニコフの思想が現れているように思える。

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