『ヒラク、この日いないってよ』イベントレポート その2

・デザインのベースはキキララだった?
・紙業界がざわついた堀口さんの紙選び
・編集者が試されるヒラクの思慮深さ

 といった話題で盛り上がったイベントレポート「その1」でしたが、今回は展示や書籍に使われた写真の話から、さらに小倉ヒラクのスタンスとクリエイティブチームのせめぎ合いの部分に深く踏み込んでいきます。しかしこのイベント、いろいろぶっちゃけすぎてますね。なんかまとめながら、汗かいてきた。

 ということで第二弾、どうぞー。

藤本 今回の肝って、ヒラクがどれだけ任せているか、っていうことだよね。ヒラクの「この部分は任せる!」っていうあのスタンスは、実はヒラク自身にとって、けっこうしんどくもあるでしょ? 自分だったら逆に大変やなと。自分でやったほうがかえって手間が省けるのにって。でもそれを超えるイメージを信じるっていうのは、いわば普段の僕たち(藤本&竹内)の仕事じゃないですか。そういう編集者視点がヒラクのすごいところやなと。
竹内 確かに、1人じゃやれない量をやってるからこそ任せないといけないっていう物理的な理由があるにしても、けっこう思い切って任せてますよね。あと、本当にどうでもいいと思ってる部分もあって、こだわりの強いところと、ここはお任せなんやっていうところが明確なんですよね。さっきの写真のことで言ったら、色味は伝えたいと思ってるんだけど、順番はけっこうどうでもいい。僕から見たら、最初この順番ちょっと気持ち悪いなって思うんだけど、そこはなんの意見もなかったりとか。
堀口 なかった。
竹内 「プロが見ていいようにしてください」っていうところは完全に任せるけど、ここは自分のほうがわかってるとか、伝えたいっていう部分もあって、なんでもかんでもってわけじゃないんですよね。そこが賢いですよね。
藤本 そうだね。
竹内 ふつうはみんな割と抱えちゃうんですよね。思ってないのに写真こっちの方がいいとか言わなあかんのかな……みたいな弱さを持って言ってくる人いるじゃないですか。それにはすぐ言い返せるんですけど、時間の無駄じゃないですか。そういうのが全然ない。
藤本 無駄なラリーがないもんねヒラクは。逆に言うと意味のあるラリーしかしない。
竹内 そこは任せるからやっといてってはっきりしてるからいいですよね。
藤本 写真でいうと、本当は当然、プロのカメラマンに頼む予定だったんです。それこそ大前提として言っとかないとだけど、この会場に飾られている写真や、日本発酵紀行に掲載されている写真はヒラクが写っているもの以外全部自分で撮ってるんです。もともとは土地土地のカメラマンに頼んだりしようと思ってたんだけど、冒頭のスケジュールの話じゃないけど、発酵に合わせないといけないっていうので、あらかじめカメラマンにこの日空けといてっていうわけにはいかないんですよ。究極「明日醸す!」って連絡とともにヒラクが駆けつけるみたいな世界だから、もはや自分で撮らないと仕方ないっていう必然で。それがわかったときに、ヒラクはすぐ覚悟を決めて、ソニーのαを買い、撮り方の心得みたいなものを教えてもらって、で、「結構撮れるようになりました」って見せられた写真の上達のスピード感ヤバかったもん。
竹内 発酵写真家としてもやっていけるもんね、もはや。
藤本 だからそこはかとなく都市伝説的に流れてるんですけど、写真集を出すとか出さへんとか。
堀口 もともと写真展はやりたいって言ってたよね。
藤本 でもその頃は自分が撮った写真でとは思ってなかったと思うんですよね。でももはや僕ら編集サイドとして、デザイナーとしてはもっとそうかもしれないけど、ほんといい写真ですよね。
堀口 いい写真。
財部 めちゃめちゃいい写真。
竹内 それもさっきのことに似てるんですよね。暗くていいっていうのと一緒で、何を伝えたいかっていうのが明快だから、雰囲気だけの写真じゃなくて。特にものづくりの現場の写真って、プロが撮ったときに割とトーンが似てくるじゃないですか。それってなんとなく雰囲気で撮ってしまうんだと思うんですけど、ヒラクさんは、この発酵の部分がおもしろいとか、目線がけっこう明快なので、余計に写真として見やすい。そういう意味ではキャプションがつきやすい写真だとも思うんですけど。
藤本 今回の旅でヒラクが選んだレンズっていうのが、たしか韓国のレンズで、周辺光量がけっこう落ちるんですよね。昔流行ったLOMOみたいな落ち方をしたりするんだけど、ヒラクはあえてこれがいいって。そもそもレンズ選びから入ってるって、普通にカメラマンの仕事。
竹内 ひとつ、人の写真のときの背景がどうなのかなと思ったりしたんですよね。笑顔がいいから、いい写真やなって思う反面、なんでここで撮ったんやろうっていうのがけっこうあって。その場の流れで撮ってると思うんですけど、そういうのも含めて、ヒラクさんの行動がうっすら見えるというか。そういう意味でおもしろいなと思いました。

藤本 つくづく小倉ヒラクが濃縮されてる展示ですね。発酵っていまブームっぽいじゃないですか。だけど一番最初にヒラクと話してたときにブームじゃなくてムーブメントにしたいっていうのがあったんですね。僕も秋田とか東北で発酵に触れれば触れるほど、発酵食品そのものよりも、そこにある文化が気になっていくというか。必然的に醸造家のみなさんに会う機会が僕も多くて、蔵人の基本的な「待ち」のスタンスとかに心惹かれるわけです。自分でどうこうしようっていうよりは、微生物が一番循環したり活動する、その環境を作るっていう裏方としての仕事みたいなことを一生懸命やってはる。
竹内 それはまさに裏方的なのであんまり表に出て来ないですよね。
藤本 うん、それがヒラクっていうフィルターを通して、こうやって表に出てくる。失礼な言い方に聞こえるかもしれないけど、真に日の当らないところでやってた人たちが、こういう場がうまれたことで、前に出て主張できる。そのことに対する全国の醸造家や発酵界隈の人たちの期待とか嬉しさとか。そういうのもこの展覧会が、過去のdさんの展覧会のなかでも突出して多くの人に来ていただいてる爆発感の理由なんじゃないかなって思います。
竹内 この間大阪でヒラクさんと藤本さんが本の作り方に関してトークしたときに、ヒラクさんが最後に言ってたのが、僕のような著名じゃない人が1万部以上いこうとしたときに、そういうカルチャーを巻き込んでいくことが必要だし、そうやって元気ないところと一緒に巻き込んでやって、みんなが幸せになることが大事だと思ってるって言ってて。ほんまそれそうやなって思って。きっと発酵だけじゃなくて、そういう要素って地方にはいっぱいあると思うんです。発酵に限らず一緒に盛り上がっていくことで前に出てきたほうがいい人もいるし、発酵以外のムーブメントでも作れるものってあるんじゃないかなって思いましたね。
藤本 そういうことをこの展示や、書籍から受け取ってもらえるとめちゃめちゃ嬉しい。最近、発酵の専門家でもなんでもないのに、ヒラクのおこぼれみたいな仕事がいっぱいくるんですよ。
竹内 よかったなあ。
藤本 いや、ほんまヒラクにお中元送らなあかんわ。こないだ新潟県の長岡市っていう町のイベントに出たんですよ。そのテーマが「発酵的なる生き方、暮らし方」みたいな感じだったの。新潟県の長岡市は市単位としては日本で二番目に酒蔵が多いらしくて、ちなみに一位は京都なんやけど。長岡市には6つ酒蔵があるって言ってたかな。そこに味噌蔵醤油蔵もあって、長岡技術科学大学っていうところの発酵の研究が先進的だったりとか、企業の微生物関係のラボがあったりとか、とにかくそういうことで「発酵の町」と謳ってるんですよ。
竹内 へー知りませんでした。
藤本 その長岡市が、発酵的なる生き方みたいなテーマで僕を呼んでくれたことに、けっこうビビったんだよね。例えば秋田とかでも当然「発酵ツーリズム」的なことはやってるし、だけど各県いろんな市町村見ても、だいたい酒蔵ツアーとか味噌醤油蔵をまわっておしまいになってる。それはそれでとても価値があると思うけど、その先に何をみるかが欠如してる。でも長岡は違ったのね。発酵そのものっていうより、発酵っていう考え方とか思考みたいなものを、未来に役立てていこうってハッキリ言ってるのがすごいと思った。
竹内 なるほど
藤本 そもそも今回の展示で僕なりに伝えたかったのはそこなんですよ。発酵食品そのもののおもしろさもそうなんだけど、これだけ多様なものがあって、それぞれがそれぞれの土地の知恵の塊でしょ。まさに個性。ヒラクは酒、味噌、醤油とか、どれかひとつ行ったら他の県ではいけないっていうルールを自分で決めちゃってるから、余計にマニアックないろんなものが見えてきて。このへんもヒラクほんと賢いなって思うんだけど、まさにそれがあぶり出されるじゃないですか。だからヒラクのやりたかったことと、伝えたいことの本質がどこか、っていうのを僕自身汲み取っていくというか。どう表現するかというのが一番最初のテーマ。だから発酵ブームではなく、ムーブメントのほうになればいいなっていうのが一貫した思いとしてある。
竹内 本の中でも、ヒラクさんは広がりのある言葉で書いてるんですよね。発酵のディテールも書いてある一方で、地方で言い伝えられてきたものがあるとか、とにかくいろんな言い方で一つの発酵食品を語っていて。ヒラクさんから最初の原稿がきたときに、そうやっていっぱい言いたくなるテキストがいいと思う、って感想を伝えたんだけど。ヒラクさんって、大きなメッセージが明確に一個あるようなイメージを持たれている気がするんですけど、そうじゃなくて、ヒラクさんは膨らみが多い。もちろん発酵好きにも向けてるし、歴史好きにも、ローカル目線がある人にも向いてる。そうやって、いろんな人があーだこーだ言えるように書いてるっていうか。つまりはネタが多いんですよね、一個に対して。そこがふつうのライターだと発酵によりすぎると思うんですけど、余白というのか、読ませ方が、1冊目の本に比べても明らかにテキストの能力としても上がってると思いました。
藤本 そこのフックの用意の仕方がすごいよね。
竹内 たぶん僕もまだ気づいてないところがあると思うんですよ。こういうフックがあるってヒラクさんに伝えたりしたけど、それだけじゃなくて、もっと人によって読み方が違うように書いてあって。そこは並大抵ではないというか。恐ろしい。
藤本 けっきょくヒラクがいないのにヒラクの話ばっかりするっていう。
竹内 嫌やなあ。
藤本 もっと悪口とか言う?

−会場 笑い−

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Re:S note(りすノート)

2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。
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