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いたずらに、山の頂。|徒山 - TOZAN

【徒(あだ / いたずら / かち)】
[ あだ ]むだ。「―花」「―(や)おろそか(=いい加減)にはできない」。転じて、うわついたさま。
[ いたずら ]無益なこと。幾らしても、実りのないさま。
[ かち ]乗物に乗らないで歩くこと。徒歩。

いたずらに、山の頂。

人々は「今年こそは」と願いを込めて頂を目指す。
頂にたどり着いたこと、そこで拝むお天道様。
合唱した手のひらに感じる温度。
様々なものに意味づけをし、頂を後にする。
そんな人々を横目に僕たちは、頂を通過点とし、
お天道様に軽く挨拶を済ませ、筋繊維に熱を帯びながら、
「徒(いたずら)に」山登りを完遂する。

1年のスタートに「安易に手に入らない過酷な無駄」を積み重ねる行為を、
僕たちは「人生に余白をもたらす行為」と捉える。

24年の始まりに、誰よりも自由であるために。


 2024年1月2日(火)午前3:30。 アラームよりも2時間も早く目を覚ました。小学生の頃、大事なサッカーの試合の日も確かこんな感じだった気がする。外では偉そうでも根は臆病なところはあまり変わっていない。妻と娘はクリスマスイブの日に妻の実家のある神戸に帰省していたこともあり、早起きした分やれることはたくさんあった。まだ息が白くなるほどに冷え切ったリビングで、やかんに水を入れ、沸騰を待つまでの間、洗濯機を回すことにした。

 年に2回、REAR PROJECTでは体力、精神力を極限まで枯渇させるイベントを実施している。開催時期は正月とお盆。あるときは63km離れている温泉まで夜通し歩いて温泉に入りに行ったり、世界一長い階段と言われるスイスのニーゼン山岳鉄道の線路に沿って組まれた11,674段を、家の近くにあった77段の階段で挑戦してみたり、家の近くにある200mの公園の外周を63km歩く挑戦をしてみたりと、いろいろやってきた。その全ては綺麗に体力も精神力も枯渇し、見事目的は果たしていたが、それでもゴールをしたことはなく、いつしか「いろいろ挑戦して、断念する企画」みたいに思われてバカにもされた。最近はその嘲笑すら旨味と感じている自分達もいた。しかし一方で、この「負け癖」を眺める自分の姿を嫌悪するようにもなっていた。それが僕を2時間も早く起こさせた要因だろう。

 「Waiking Dead」と名づけたこの企画は、歩き続けるにつれて、文字通り歩く死人のようになる。天邪鬼な僕たちは「山はベタすぎるっしょ」と、山登りを避けてきたが、昨年に会社員を辞めた事もあってか、山に登りたくなった。そんな純粋な気持ちを隠すため「登山」を「徒山」とリネームすることで、自分達の体裁を保とうと必死になった。後付けだが「徒」という漢字には「乗り物を使わないこと」というイメージ通りの意味とは別に、「いたずら」とも読み「幾らしても、実りのないさま。」という意味も持っていたので、まさにこの企画通りだと、今年は家から高尾山まで歩いて山頂を通過点として、家まで歩いて帰ってくることにした。

 作成したコピーの中では「人々は“今年こそは”と願いを込めて頂を目指す。」と、年始に山登りに行く人々を横目に、僕たちは徒(いたずら)に山頂を目指す事を強く正当化するように語っているが、午前3:30に目を覚ましてしまう僕こそ「今年こそは」と意気込んでいたのかもしれない。

 今年のWalking Deadが例年と違う点はゲストが参加したことだ。この企画を面白がってくれる物好きは今までもたくさん居たけど、来てしまう狂った人はいなかった。(僕は狂った人たちが好きだ)それも4人も。ついにREAR PROJECTがモテ始めたことを実感した。参加者は21歳、22歳、22歳、27歳とフレッシュで、気持ちの良い笑顔を見せる若者達。弱音の音色を一切奏でる事もなく、有り余る体力を「今」に惜しみなく注ぎ続ける姿には、感動さえ覚えた。いい意味で僕たちのリズムを崩してくれて、あっという間に僕たちは頂の景色を捉えた。額からは汗が噴き出し、心臓は上下左右へと暴れ、荒くなった呼吸のせいで目の前が霧ががっていた。それでも崩されたリズムが、どこか心地よく感じていた。

 ゲスト4名と高尾山でお別れをした僕たちは、予定通り徒歩で家を目指す。徒山における5合目を通過したに過ぎない、Walking Deadの本番はここから。一度は目にした景色を巻き戻していくことは、精神的に来る。覚えているからこそ、距離がわかってしまうのだ。次第に会話はなくなり、辺りが暗くなる頃には、下半身の筋肉は1歩踏み出すことに痛みという悲鳴をあげる。言葉も出ずに、足を引きずる姿はまさにWalking Deadであった。

今年こそはと意気込んで臨んだWalking Dead。ついに僕たちは家にたどり着いた。ソファに座り込んだ体は、ソファの底のさらに底まで沈み込み、冷え切った体が温度を取り戻していくさまは、まるで湯船に浸かっているようだった。無益、有益は結果でしかない。やる前から無益であるか、有益であるかなんてわかるはずないんだってことを、いたずらに、山頂を目指したら気づきました。今年はREAR PROJECTが長年作ってきたいくつかの作品をお披露目していきたいと思います。週末の時間をいたずらに費やしてきた作品を。お楽しみに。

総距離:41.2km
総時間:14時間
総歩数:64,533歩
結果:達成

もう2度とやらない。

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