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冬眠していた春の夢 第19話 家族の心の傷

 あの物静かな祖父の、私には優しかったけど祈る姿がちょっと怖かった祖母の、過去に抱えた苦悩や傷を知って、私は今まで以上に祖父母が愛おしく思えて、より育ててくれたことへの感謝を感じた。
 そして子供心に、みんな頭を撫でたり抱きしめたりしてくれないと…寂しさを感じていたけど、祖父母も父も、自分自身がそういう経験がないから、出来なかっただけなのかもしれないと思えた。

 それにしても…父も私と同じ3歳の時から母と暮らせなかったなんて…。
 「よく押入れにこもって泣いていた」なんて、物置にこもって猫たちといた私と同じだ。
 それでも、私の母は生きていて、電話で会話することはできたし、おじいちゃんもおばあちゃんも優しかった。
 祖父の2番目の奥さんは、父に優しかったのだろうか?
 よくわからないけど、ちゃんと育って、ちゃんと家庭を持った父は、すごく頑張ったんだなぁって、そんな風に思った。

 人は皆、さまざまな過去や心の傷を抱えて、それでも普通に生きようとしている。
 そして、きっと母も過去に大きな傷を抱えているのだろうと、開かずの母の部屋を思い浮かべた。
 病気がちだと聞いていた母は、10年後といえど、とても元気そうだ。
 だからきっと、身体の病いじゃなくて、心の病いだったんだろう。
 そうでなければ、ドアの外鍵の意味がわからない。

 そんないろんな思いを抱えて、思考や心がいっぱいいっぱいになった私は、外の空気を吸いに広間を出た。
 すると、運悪く名古屋の叔父も広間から出てきた。
 叔父はかなりお酒が回っているようで、顔が真っ赤だった。
 「チ!お前か。お前の顔なんて見たくないんだよ!オレが会いたいのは春馬なんだ」
 叔父はそこで言葉に詰まって、私に背中を向けた。

 「春馬?」
 確かにそう聞こえた。
 なんで名古屋の叔父が、私の夢の中に出てくる、橋本さんと同級生の子の名前を口にするの?
 私は立ち去ろうとする叔父の腕を掴んで言った。
 「春馬って誰ですか?」

 振り返った叔父の顔は怒りに満ちていた。
 「なんだと!薄情なヤツだな!お前の兄さんじゃないか!お前のせいで死んだ!お前が!…お前さえ生まれてこなきゃ…」

 第20話に続く。

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