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「半自伝的エッセイ(14)」鳥を売る

郷田さんから預かったままの鳥の置物だが、また仕舞い込んでしまうと一生そのままになりかねないし、出しておくと壊してしまいそうだし、それだったら誰か欲しい人に譲ったほうがいいのではないかと考え、オークションに出品することにした。とりあえず何度か使ったことがある日本のサイトに出してみた。

だが、ウォッチリストの数は着々と増えていくのだが、入札する人はいない。そこで値段を下げてみたが、それでも入札する人はいなかった。仕方なく海外のオークションサイトに出品し直すことにした。さすが海外は広いというべきか、閲覧数の桁が二桁違う。といってもオークション終了の三日前まで入札はゼロだった。やはり駄目かと思っていたところ、ぽちぽちと入札が繰り返され、最終日の寝る前に確認したら510ドルまでになっていた。期待したほどではなかったがまあいいかと寝てしまった。

出品する際にあちこち調べてみたのだが、ロシアの土人形にはかなり熱烈なコレクターが存在するようで、現役作家ならナタリア・ネポメンコさんが抜きん出て高値で取引されているが、それ以外にも産地ごとに名のある作家が現役物故者含めており、そちらもそれなりの値段で売買されていた。そうした作家の作品は書籍に収録されたりすることもあって、なんというかステータスが高いらしい。私がコレクターだったらやはりそうした作品のひとつかふたつは持っていたいと思うであろう。

土人形といえどもそれがヴィンテージものになるとどうやらそれらは文化財扱いになるらしく、ロシアからは持ち出せないことになっているようで、安い中古車なら買えるような値段がついたりする。もしかしたら私の鳥の置物もあと十年か二十年寝かせておけばそんな値段になるのかもしれないが、何十年も憶えていられない気がしたし、何よりもう出品してしまった。

翌朝起きてオークションサイトを見ると、最終的に期待を大きく上回る値段で落札されていた。郷田さんから取りそびれた金は十分に回収できてしまった。それにしても、誰か目先の利く人が日本のオークションサイトに出しておいた値段で私の鳥の置物を買い、それを海外のオークションで転売すれば結構な儲けになったはずなのに、誰にも気づかれないとは。まあ、私としたらそれのほうがよかったのだが。

それにしてもである。売った土人形は製作年が94年となっていた。すると、ネポメンコさんの初期の作品ということになる。おそらくまだ評価が定まっていたということもないだろうし、現在のような高値だったとも思えない。そんな時期にあの人形がいつか高くなると踏んでどこかで買ったのだとしたら、郷田さんは余程の目利きだったことになる。あの土人形を売ってしまったことで郷田さんとの最後の細い縁が切れてしまったような気がして、私は少し寂しい気持ちになった。

文中に登場する人物等は全て仮名です。

追記:ロシアの土人形(作家物)の相場を折角調べたので、誰かの役に立つかもしれないので書いておきます。ナタリア・ネポメンコさんの相場は本文と前編をお読みいただくとおおよそわかると思うのでネポメンコさんの相場を★★★★★(星5つ)とします。

ナタリア・ネポメンコ(Наталья Непоменко)★★★★★
Ю・サルトィコヴァ(Ю. Салтыкова)★
リヴィンスカヤ(Ливинская)★
Г・ウスティノヴァ(Г. Устинова)★★★
У・マレーエヴァ(У. Малеева)★★

ネポメンコさんの作品は初期のもの(90年代)ほど蒐集家に人気のようです。93年か95年の作品を誰か持っていないか?とSNSで呼びかけているコレクターがいました。一年ほど前に私が調べた限りですのでご参考までに。


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