見出し画像

「アメリカ型二大政党制は日本では不可能」の巻

■不便な日本の在外投票制度
 平成21(2009)年8月30日に行われた、あの、悪夢の民主党政権を誕生させた総選挙。当時サクラメントに住んでいた私は、投票しなかった。LAに住んでいた前回は、ダウンタウンに近いところに住んでいたので地下鉄で総領事館へ投票に行った。だが、サクラメントから、最寄りのサンフランシスコ総領事館まで行こうと思えば、片道160キロ。車で2時間半、そして安い駐車場を探すのに一苦労。列車、メトロ、バスを乗り継げば3時間はかかる。郵送で投票用紙を取り寄せることもできるというが、送料は投票者が支払わねばならない。まるで投票させないためのシステムのようだ。
 そもそも、総領事館に登録している在外邦人に投票用紙を送れば済むことだ。なぜ送ってこないのだ。国内では有権者全員に葉書を送るではないか。実際EUでは、選挙の際には在外居留民全員に在外公館が投票用紙を送付するという。それは難しい仕事ではないハズだ。しかも我々は地方選挙に投票する権利が奪われたままだ。嗚呼、それなのに、同じ国民に対するこの差別を自覚せず、憲法違反の外国人参政権ばら撒きを画策する民主党政権が、この選挙で誕生してしまったのだった。
 外国にいると、祖国の情報に疎くなる一方で、日本人としての意識、日本に対する思いは逆に深まっていく。これは日本人に限らず、どの移民でも同じことだ。そう感じることを拒否し、コスモポリタンを気取っているのは、ただのアホだ。傀儡師・小沢一郎が操る鳩山由紀夫内閣が化けの皮を剥がされる前に、どこまで祖国を歪めてしまうかを、心ある在外邦人は、非不安な気持ちで眺めている。あの細川護熙連立政権のように、あっさりと空中分解…と信じたいものだ。

■アメリカに不安などない?
 総選挙の結果についてアメリカでは、半世紀に及ぶ自民党の支配が崩れたという切り口で、各紙1面トップで報じられた。保守系の『ワシントン・ポスト』には、日米同盟を弱体化させようとする鳩山の「公約」が、アメリカ外交にとっては脅威だという論評が載ったそうだ。中国寄りのオバマ政権にとっても、自民党との違いを打ち出そうとして、反米臭漂わせる鳩山政権に警戒感を持っているようだ。
 ただこれが、陳腐なイデオロギー政党である社民党や共産党が、過半数でも取ったとでもいうのなら話は別だが、今回は出来レース。自民党にお灸をすえようと短絡した日本の愚かな国民同様に、実際には、共和党も民主党も、日本に大きな変化があるとは思っていないのではなかろうか。なぜなら相手は結局、官僚だからだ。
 アメリカでは、政権交代が起これば、ワシントンDCの官僚の首が一気にすげ変わる。勿論、共和党政権から民主党政権になっても、その地位にとどまった連中もいるが、旧政権の高級官僚が民間に転じることは多く、これを天下りだと批判する人は誰もいない。民間から役所入りすることも多いし、政権交代だけでなく、普段からそういうことも自然に行われているからだ。硬直化した日本の官僚支配は、他国からすれば、ある意味でわかりやすい。麻生太郎首相のままであろうと鳩山であろうと、お役所は同じだからだ。

■日本ではあり得ない真の二大政党制
 アメリカでは大統領選挙の狭間の2年目に連邦議会議員の選挙があり、それが政権に対する国民の中間審判となる。大統領(行政)と連邦議会(立法)に直接の関わりがないから、与党が少数派になっても政権運営が行き詰まることはないが、難しくなることは間違いない。ブッシュ政権の8年間、国民はこの中間選挙で共和党にイエローカードを出し続け、そして最後に大統領の印綬を、民主党のバラック・オバマに託した訳だ。
 またアメリカの場合、党議拘束などないので、必ずしも単純に議席数だけで議会が動くかといえばそうではない。ビル・クリントン元大統領のセックス・スキャンダルのことを思い出していただきたい。当時多数を占めていた共和党議員が弾劾に反対したからこそ、彼は汚名を着ることなく、未だに政界への影響力を保っている。国務長官である妻に煙たがられながらも、大統領時代にやり残した仕事(訪朝)を実現することができた。 
 だからアメリカの二大政党制というのは、日本人が考えているそれとは大きく異なっている。日本の場合、自民党と民主党は、出自を同じくするというだけで、完全に孤立した2つの円だ。未来永劫交わることはない。勿論、アメリカの民主党と共和党とて同心円ではないが、この2つは重なり合う部分がかなり大きい円なのだ。
 日本の場合、このような健全な二大政党制があり得ないのは、野党が与党の足を引っ張ることしかできない、日本の議院内閣制の、言わば宿痾があるからだ。昭和初年の立憲政友会と立憲民政党の醜い争いは、国民の政党政治に対する信頼を完全に打ち砕き、軍部に対する期待を醸成した。今日の国民には、その危険な選択肢を奪われているが、与野党の足の引っ張り合いを白けた目で眺めている構図は同じだ。民主党が真の意味での自民党のオルタナティヴであり得るのならば、今回の出来事はかえって喜ばしいことだ。しかし、その民主党が、党員の国益に関する意見の相違は無視し、反自民という肥大化した焦点だけでかろうじて繋がっている、異形の政党であることが問題なのだ。
 アメリカの場合、前述のように二大政党の政策に重なる部分が大きい。だから国民は安心して政権交代を受け入れられる。だが日本で始まろうとする似非二大政党システムは、このアメリカ式の安定からは程遠い。相手の揚げ足を取り、公約をばら撒くことで自らの首を絞め、最終的に国民に大きな犠牲を強いる。モアイ像建立に血道をあげ、島の荒廃を省みなかったイースター島の人々を見るようだ。
 アメリカの政治を衆愚政治だと嗤うのは簡単だが、安定した政権交代を提供できるという一点では、この国の政治は日本よりは優れている。

『歴史と教育』2009年11月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 フロリダにあるケネディー宇宙センターに展示されているスペースシャトル。宇宙開発のような国家を挙げてのプロジェクトなどは、基本的に民主党と共和党の確執を乗り越えて協力体制ができる。国益の意味すら知らない日本の政治家に、共通の国家観を求めるのは野暮かもしれないが。(撮影:筆者)

【追記】
 民主党政権が誕生したとき、本当に日本国籍を離脱しようかと思った。きっとあの連中は日本を滅ぼすと思ったからだが、案の定だった。早めに崩壊してくれたからよかったものの、反省もしないままに、当時ブイブイ言わせていた連中が未だにでかい面をしてのうのうと生き残っている姿を見ると、憤りを禁じ得ない。
 しかし、党議拘束がないアメリカのような政党政治が、2020年の大統領選挙では裏目に出た格好だ。トランプ政権で恩恵にあずかりながら、平気でトランプ大統領を裏切る連中が出たことは、悲しいとしか言いようがない。
 あの時アメリカ国籍を取得してたら、きっと今頃後悔していたことだろう。ちなみに筆者は、帰国後アメリカの永住権も返上して今日に至っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?